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与太郎はなし 端的に言えばアホの子系

『むじゅん』


「ねえ、おとったん」

「なんだ、与太郎」

「どうして、シールドやヒートロッドでビームサーベルが受け止められるの?」

「相変わらず馬鹿の国から馬鹿を広めに来たような馬鹿野郎だな、お前は」

「えへへ、それ程でも」

「ほめてねえよ。あのな」

「うん」

「ローマに行けばローマ人のフリをする、刀の形をしたものは、刀っぽく振る舞うってのが正しい大人の生き方ってもんだ。刀は盾があれば受け止められるし、鍔迫り合いだって出来るだろう?」

「だとすると、ビームサーベルは大人なの?」

「おうよ」

「あんなにピンクなのに?」

「あれが黒かったら、子供に見せられないだろう」

「なあるほど!」

【完】




『ジャンク屋――超訳「道具屋」』


「やあ、佐平、なんだい、用事って」

「与太郎、佐平じゃないだろ」

「じゃあ、土塀か」

「はったおすぞ、この野郎。自分のおじさんなんだから、佐平おじさんと、きちんと呼びなよ」

「そっか、佐平、佐平おじさんと呼ばれたいか?」

「呼ばれたいとか呼ばれたくないとかじゃない、そう呼ぶのが当たり前だってんだよ」

「いくらだす?」

「何にも出さないよ!」

「うわ、このしみったれめ」

「うるさいな、なんだよばあさん? お茶が入った? 止めなさい今は止めときなさい。こんなタイミングで出したら、佐平おじさんと呼んだら茶菓子が貰えるっていう妙な条件付けが出来ちまう」

「条件付けとは、ネズミみたいだね」

「ネズミの方がいくらか利口だよ、お前この前なんか、戸棚の中にある饅頭が取り出せないって困ってたじゃないか。ネズミならそうはいかないよ、どこからともなくスルスルッと入りこんで、気が付けばみんなかじられちまう」

「おおっ、佐平は大したもんだ」

「俺の話じゃない、ネズミの話だ――ってそうじゃないよ。また佐平と呼んでやがる。きちんと佐平おじさんと呼びな」

「分かった、佐平おじさん。さあ、なんか食わせろ」

「あのなぁ、与太郎。食わせない事もないが、働かざるもの食うべからず。お前もいい歳だ、一つ仕事をする気はないか?」

「仕事かい? そいつはうまいかい?」

「食い物じゃないよ!」

「うん、それはあたいも存じている。すごいだろう」

「凄かないよ。どんなに馬鹿だと言っても、それぐらいは存じててもらわないと困るよ。それでな、まあ、どこへ就職しようたって、中卒からこっち何にもせずにぶらぶらしていたお前は、世間様から見ればすっかりニートだ。どこの会社も取ってはくれないだろうから、おじさんの仕事を手伝ってみなよ」

「おじさんの仕事? そいつは、いい着物を着て、金目のものをジャラジャラさせて、左団扇の客からどんどん金を巻き上げるようなタイプの仕事かい?」

「大体近いな。おじさんの商売は、ジャンク屋だ」

「ジャンク屋?」

「ああそうだ。どうでもいいエプロンをつけて、メモリやCPUやヒートシンクをジャラジャラいわせて、紙袋を持っていない方の左手に持ったアニメか電気屋ロゴの入った団扇をパタパタさせている汗だくの客を相手にするだろう」

「さよならっ」

「まあ待て与太郎、きちんと給料も出してやる。労働の嬉しさが分かるし、そもそも自分で稼いだ金を手にするのは嬉しいもんだ」

「本当かい? 嬉しくなかったら、立て替えるかい?」

「……金を貰うのに、何を立て替えるってんだよ」

「あたいの傷ついた心を」

「傷きゃしないよ、さあ、出かけるぞ」

「分かったよ、佐平」

「おじさんと――いや、これからは店長と呼びな」

「わかったよ、佐平おじさん店長」


「――さあ、ここがおじさんの店だ。立派なもんだろう」

「へー、ゴミ捨て場にしちゃあキレイだね」

「……店だよ」

「おじさん、バカ言っちゃいけないよ。店っていうのは、人が欲しくなりそうなものを置いてあるんだ。こんなガラクタじゃあ、消費者の需要が喚起されないよ」

「一つ覚えで妙な言い回しだけ知ってるな。いいんだよ、これで、買いたい奴は買って行くんだから」

「世の中には物好きがいるもんだね」

「マニアの中には、ジャンクパーツだけでマシンを組み立てるなんてのもいるんだ。捨てたもんじゃないさ」

「ふうん、これはなんだい? ゲジゲジの姿焼きかい?」

「メモリだよ」

「え? こんなに大きいのにかい?」

「昔のはこれぐらいあるんだよ。こらこら、髪の毛かきむしった手で触るんじゃないよ、静電気で壊れたらどうするんだ」

「小さな扇風機だね?」

「冷却ファンだが、そいつはブンジリだな」

「文治がどうしたって?」

「ブンジリだよ。ブンブンうるさいけれど、全然冷えなくてCPUがジリジリ焼け出す」

「へぇ、うなぎ屋のうちわみたいだね――こっちのマウスは?」

「ああ、そいつはダメだ」

「ダメかい?」

「基盤のプリントミスでな、どっちのボタンを押しても右クリック扱いで、サブメニューが開いちまう」

「よくもまぁ、これだけガラクタを集めたね。いよっ、日本一!」

「褒められてる気がしないな」

「うん、ほめてない」

「だろうと思ったけどな。まあ流石にこのレベルのジャンクは、仕入れ値なんてものはない、タダだったりタダ同然だったりするもんだ。お前がどんなに負けても、売れればめっけものから、店番やってみな」

「うん」


「――ガラクタばっかりだなぁ。あたいもバカだバカだって言われてるけど、こんなのお金出して買うヤツの方がよっぽどバカだね。バカがバカから搾取する、損をするも得をするもバカバカりなり」

「すみません」

「おお、来たなバカ」

「バカ?」

「いやいや、こっちの話。いらっしゃい、お二階へご案内!」

「二階はソフマップじゃないか」

「そっちの方がまだマシなものを売ってる」

「商売やってんでしょう、よその店勧めてどうするんですか」

「いやいや、人類皆平等、しかるに人類一人死ぬごとに、遺産が六十億分の一」

「縁起でもない。それより、そのメモリを見せて下さい」

「あいよ、ゲジゲジ一匹お買い上げ」

「まだ買うとは決めてないですよ。うーん、八〇〇メガ五〇円かぁ……動作確認はしてないんですよね」

「大丈夫だよ、今持った時、パチッって火花が散ったから」

「なんだ、それじゃ静電気喰らってダメになったって事じゃないか!」

「買いますか? 買ってください。買え買え」

「嫌ですよ、誰が完全に壊れたメモリなんか」

「おまけに、猿の絵の描いたマウスパッドあげるから」

「今時バザール・デ・ゴザールなんて知ってる方が少ないよ!」


「あらら、行っちゃった。ひどい客だなぁ」

「おうっ、ジャンク屋!」

「あ、別なのが来た」

「その冷却ファンを見せてみろぃ」

「うん」

「ふーーーーーっ」

「何やってるんですか? 汚い息なんか吹きかけて」

「汚いだけ余計だ。ファンの回り方を確かめてんだが、なんだよこれ、軸が曲がってガタガタじゃねえか」

「ううん、曲がっちゃいないよ」

「良く見ろよ、ほらこんなにガタガタ回るのは、軸が曲がっているより他にねえだろう」

「そいつはうなぎと一緒だから、どんなに曲がって見えても、串を打てばしゃんとする」

「うなぎを食いたきゃ、うなぎ屋に行かぁな。じゃあ、そっちのフラッシュメモリはどうだ。USB接続の」

「ああ、これはフラッシュメモリじゃありません、MPSプレイヤーの半分切れたのです」

「じゃあ、こっちのLANケーブルはどうだ?」

「ああ、これはケーブルじゃなくて、きしめんです」

「なんでジャンク屋が食べ物売ってんだよ」

「多角経営の時代だからね」

「しょうがねえな。おっ、そっちのノーパソはなかなか良さそうじゃねえか」

「買うかい?」

「ちゃんと確認してからだ――ん? ロックが壊れてるのかな? 開かない。おい、そっち持ってくれ」

「はいっ」

「うーーーーん、うーーーーーん、うーーーーーーーん! なんで開かねえんだ? うーーーーーーーーん!」

「開かないのも無理ありません!」

「うーーーーーん、なんでだ!」

「デザイン用の木製モックアップですから!」

「……それを早く言えよ」

「いやぁ、モックアップが開いたら何が出て来るのかと思って」

「何も出やしねえよ。ったく、ゴミばっかりだな。ちゃんと開くのはねえのか、ちゃんと」

「はい、このマウスなら、必ずサブメニューが開きます」

【完】




『パソ褒め』


「おとったんおとったん」

「なんだ与太郎、帰って来るなり。まずはただいまだろう」

「まずはただいま」

「まずははいらないよ」

「じゃあ、いっしょに包んどいて。あとで食べるから」

「このバカ、焼き芋か何かと勘違いしてやがる」

「いやぁ、こういう風に言っておけば、『ああ、与太郎さんは、おなかがすいているみたいだから、何かを出してあげよう。そうだ、うなどんの一つか二つ出してあげよう』と、こう来るだろう?」

「中食はもう喰ったじゃないか。喰う事以外の事も少しは考えろ」

「めし以外の事なら、そうだね、佐兵衛がパソコンを買ったらしいよ」

「佐兵衛じゃなくておじさんと呼びな。しかしほほう。あの兄貴がついにか。IT化の波は留まる事を知らないな」

「使い方を教えてやるから見に来いって言ってたから、行ってくるよ。ついでにお茶菓子をもらおう」

「やっぱり食い物か。待て待て、手ぶらで行くんじゃあない。お祝いに、ええと、この石鹸でも持って行け。それから、ただ突き出したんじゃ芸がない、きちんと褒め言葉を覚えて行け」

「分かった、さあ教えろ」

「……はっ倒すぞこの野郎」

「教えろ下さい」

「お前に口の利き方を教えてたらそれで日が暮れちまうな。まああいいや、まずはパソコンの外観を見て『これは良い色でございますね、部屋の中にあって浮きすぎず埋もれ過ぎず実に良い趣味です』、起動した時に『何と静かなファンの音! 無理な音が一つもない、これはさぞかし良い放熱効率でございましょう』、起動音がデフォルトであれば『なるほど上質なサウンドボードとスピーカーを使えばここまで良い音になるのですね』、何か別の音に替えてあれば『おお、なるほど、そのような音を使うと、実に作業をする気が起こります。実に考えられている』、そしてデスクトップまで表示されたら『背景の壁紙は砂刷りのようでございますな』、ウィンドウのデザインを変えていたら『ウィンドウ枠は備後の五分縁でございますな』、ソフトを何かしら起動するだろうから『起動の早き事風の如し』、終了の時には『素晴らしいマシンでございました、私も功立て名を上げ一財産築いた暁にはこのようなマシンにあやかりたいあやかりたい』と、こんな感じだな」

「ふうん」

「他に特徴があれば、何か付け足す事も出来るんだが、聞いてはいないか?」

「んとね、たしか、リンゴの絵がかいてあるって言ってたよ」

「……さっきのを全部忘れて、口だけ閉じてな」

【完】




『カッパの川流れ』


「ねー、おとったん」

「なんだ与太郎?」

「今日、佐平のとこでね、ことわざってのを教えられたんだよ」

「……自分のおじさんを名前で呼び捨てするなよ、おじさんと呼びな」

「じゃあ、おじさん、佐平のところでね」

「おれを呼べって事じゃないよ! 佐平をおじさんと呼べってんだ」

「おとったんは、佐平って呼んでるのに?」

「おれは良いんだよ、立場が違うから。しかし、こいつにことわざとは、兄貴もなかなか無駄な……いや、親切な事をする。で、どんなのを教わったんだ?」

「んとね、旗は飾りじゃない空力特性に影響を与える、とか何とか」

「……そんなことわざがあるかい。どんな意味だって?」

「ええとね、喰っちゃ寝すると良くないとか」

「だったらそれは、働かざるもの喰うべからずってんだ。ソビエトの政治家、レーニンの言葉だな」

「へー、おとったん、よく分かったね。すごい推理力だ」

「お前を育ててりゃ、そうなる。他に何を教えて貰った?」

「んとね、カッパの川流れだって。意味は分かんないけど」

「意味を知らなきゃ仕方ないだろう、まあいい、繰り返して聞けば万に一つ、覚える事もあらぁな」

「そうそう、根気が大事だ」

「お前が言うな……と、そいつはな、カッパのような泳ぎの上手い者でも、川の流れに負けてしまう事もある、つまり、慣れた者でも失敗する事がある、と、まあそういう意味だな」

「じゃあおとったん」

「なんだ」

「保険会社が保険料を支払わないみたいなもんだね?」

「――その例え、そもそも今までのやり取り、与太郎にしては若干ハイブロウ過ぎる! お前、与太郎じゃないだろ! ほら、暖炉の前に水入り卵の殻!」

「ぶわっはっは! ウケる! チョーウケる! 百五十年生きてて、こんなにウケるの初めて!」

「やっぱり妖精の取り替えっ子か!」

「むぅ、バレたか!」

「だったら一つ聞きたい!」

「なんだ!?」

「妖精のヤツら、あんな馬鹿持って行って、どうする気だったんだ?」

「いや、ついうっかり、人選をミスしてしまって」

「むむ! 人さらいに慣れた妖精がさらう相手を間違える! 正しくこれこそ、カッパの川流れ!」

「然り然り!」

【完】




『スポーツドリンク』


「おう、与太郎、なんだこりゃあ?」

「ああ、おとったん。それはゲタだよ」

「ゲタは分かってる。なんでそれが、冷凍庫に入ってたのかってんだよ」

「おとったんは案外モノを知らないね。ゲタを冷凍したのを飲むと、スポーツの時にバテないんだよ」

「バカだな、お前は。それはゲタ冷凍じゃなくて、ゲータレードだ」

「え? 違うのかい?」

「ゲタは零度にしなけりゃいけないんだから、氷に漬けな!」

【完】




『地震は凄い』


「ねえ、おとったん。今回のチリの地震で、一日が短くなったんだって? それじゃあ、体内時計との誤差がもっと開いちゃうね」

「与太郎、相変わらず馬鹿を煮しめたような馬鹿だな、お前は。大した長さじゃあねえよ、百万分の一秒とかそういう話だ」

「なあんだ、そんなぐらなのか」

「ああ。何の影響もねえよ」

「ふうん……あのさ、おとったん」

「なんだ?」

「一日が短くなったって、どういうこと?」

「自転の速さが上がったんだよ」

「それと一日の長さに、どんなかかわりがあるの?」

「一日ってなぁ、地球が一回りする長さだ。地震で、地球が回る速さが速くなったから、一日が短くなるって寸法だ」

「……でもさ、おとったん」

「なんだよ、しつこいな」

「地震があったのは、地球の上だよね。宇宙に浮かんでるのに、なんか変わるの?」

「お前は本当に馬鹿だな、AMBACと同じだよ」

「なーんだ、AMBACかぁ」

【完】




『待ち合わせ』


「こら、与太郎!」

「あ、おかえり、おとったん」

「おかえりじゃないよ、お前、今日はおじさんのところに行く約束だったろう? 忘れてたのか?」

「いやぁ、しっかり覚えてたよ」

「だったら、何故待ち合わせ場所のバス停にいなかった?」

「ずっといたけど、おとったんが来なかったから帰って来たんだよ」

「なに? 嘘を言うな、お前なんか見かけなかったぞ?」

「本当だよ、ちゃーんと歯医者さんの近くのバス停で待ってたよ」

「馬鹿だなお前は、そんなものを目印にしてたのか。歯医者なんてぇのは、日本に七万軒近くあるんだ、別のバス停にいたんだよ」

「えー?」

「今度から目印は、コンビニにしろ!」

【完】




『家ほめ』


「こんちは佐平さん、新しい家を見せて貰いに来たよ」

「やあ、ご隠居、ようこそ。お上がり下さい」

「ほぅ、建ててる時から良い檜を使っていたと思っていたが、中もどうしてどうして。天井は薩摩の鶉目かい、はりこんだね」

「いやぁ、ははは!」

「畳は五分縁ですっきりしてるね。畳表も上等だね、どこの産かな――筑後、肥後、加賀……いや、これは備後かな?」

「ビンゴ!」

【完】




『佐平、お前もか』


「佐平さん、新しい家を見せて貰いに来たよ」

「やあ、ご隠居、ようこそようこそ。お上がり下さい」

「ほぅ、外から見ていた時から良い檜を使っていたと思っていたが、中もどうしてどうして。天井は薩摩の鶉目かい、立派なもんだね」

「いやぁ、ははは!」

「畳は五分縁かい、真っ直ぐ歪みも膨らみもなくて良い仕事してるねぇ。表は何だい?」

「備後の表ですよ」

「なるほど良い色だ、それに香りも良い。畳と女房は新しい方が良いね」

「はっはっは!」

「壁は砂摺りで仕上げたのかい、結構結構。ん? その柱」

「ああ、この札ですか? 節穴隠しですよ。昨日甥っ子の与太郎が家を褒めに来ましてね」

「……ほほぅ、与太坊がかい?」

「まあ弟に吹き込まれたんでしょうが、節穴を隠すなら秋葉様のお札が良い、と、こう言ってくれたんです。それだけしっかり言えるんだから、馬鹿だ馬鹿だと思っててもそれなりに僅かながらも成長はするもんだと――」

「なあ……佐平さんや」

「なんですか、ご隠居」

「そのお札は、秋葉様じゃなくて、アキバのとらのあなで買った火野神社のお札じゃないのかい?」

「火星の人が好きなんで」

「秋葉様の意味理解してないよ、この人! しかもネタが著しく古いよ!」

「古典落語なもんで」

「やかましいよ!」

【完】




『牛褒められ』


「――ただいま」

「おお、おかえりっ」

「あらお前さん、ずいぶんとご機嫌じゃあないか?」

「はははは、そんなことはないよ」

「説得力がないよ。なんか良いことでもあったのかい?」

「ふふふ、当ててごらん」

「そうだねぇ、新しく建てたこの家を褒められた?」

「外れちゃいないね」

「だったら、牛も褒められたんですか?」

「それもまあまあ当たってる」

「ああ分かった」

「なんだい」

「芝浜の雑魚場でサイフを拾ったんだ」

「……そりゃ別の噺だよ。らちがあかないな、答えを言おう。与太のヤツが来たんだよ」

「与太郎が? あら珍しい」

「別に珍しかぁない。与太郎と来たら、毎週顔を出しちゃあ大メシ喰って帰るんだから」

「いえいえ、与太郎が来たのに、お前さんがご機嫌なのが珍なることで」

「珍なるてぇ程のもんでもないが、与太郎が家を褒めに来たんだよ」

「あははは、冗談を」

「甥がおじさんの家を褒めに来るのはそう珍しいことでもないんだがな」

「でも与太郎ですよ?」

「ははは、まあそうなんだ。わたしも驚いた。まあどうせタダ飯かタダ酒でも当て込んで、誰かに入れ知恵して貰っただけなんだろうが、それにしたって嬉しいじゃないか」

「そうですねぇ。いつまでもバカだバカだとおもっていたけれど、一応僅かに成長しているんですねぇ」

「まあ、褒め言葉ったら、聞きかじりのせいかろくなもんじゃなかったがな。畳は貧乏でボロボロだの、佐兵衛のカカアは引きずりだの」

「何だか分かりませんねぇ?」

「一応、台所の柱の穴に秋葉様のお札を貼ったら、穴が隠れて火の用心になるとか言っていたが、あの貧乏たらしい発想は大家さんだよ。秋葉様のお札をそんな事に使ったら、逆にバチが当たっちまうだろう」

「なるほどバカの一つ覚えですね」

「あんまりバカバカ言うなよ。オレの甥なんだから」

「なるほど、進化論的に言って、バカがお前さんに遺伝する確率は――」

「そういうのはどうでも良いよ! でな、牛を見せた時にな、ケツの穴をじぃっと見てたんだよ」

「なるほど、与太郎がバカだと思っていたけれど、それは肛門期だったからですね」

「違うよ! なんでお前にそんな妙な科学知識があるんだ」

「これからは科学の時代ですよ」

「まあ、それでな、与太郎が言うんだよ。『牛は立派だが、穴があるのが欠点だ』てな」

「尻の穴ですか?」

「あはは、そうだよ。大方、柱の穴の入れ知恵がごっちゃになったんだな。それで秋葉様のお札を貼れば良いなんて言い出してな」

「やっぱりバカはバカですねぇ」

「いやいや、その後だよ。そんなもの貼ってどうするって私が聞いたら『穴が隠れて屁の用心になる』と、こうだ」

「おほほ、あらイヤだ、屁だなんて」

「……肛門期とか言ってたクセに、今さら上品ぶってどうするんだよ。でも、大したもんだろう? 他のはみんな入れ知恵だろうが、屁の用心だけは自分で考えたに違いねえんだよ」

「そうですかねぇ。ひょっとしたら、大家さんが仕込んだネタじゃ?」

「あのカタブツが、そんな下品なネタを言うかい。与太郎の考案だよ。流石に尻の穴をふさいで火の用心はおかしいと思ったんで、咄嗟に自分で考え直したんだよ」

「言われてみればそうですねぇ」

「まったく、嬉しいったらないね。少しづつ、少しづつだけど成長してるってぇ事だよ。こうなったらこう――何か商売でもしようてぇ事になったら、幾らでも手を貸してやりたいね。売り口上だけ覚えさせて飴屋をやらせるのもいいな、力はそこそこあるからカボチャ屋って手もある。まあ人様に迷惑のかからない、オレの道楽の道具屋の手伝いからでも良いなぁ」

「立派になるといいですねぇ」

「なるに決まってるさ、出だしは遅いヤツほど後はでっかくなる、大器晩成てぇもんだ。末は博士か大臣か」

「大臣と言えば総理大臣?」

「いやいや、流石に与太郎にそこまではムリだろう。どちらかてぇと単純実直で、人に使われる方が向いているからなぁ。鶏口牛後で言えば、牛後の方だな」

「なるほど牛後ですか。道理で、牛の尻に興味を持った」

【完】




『なぞかけ』


「ねえ、八っつぁん、なぞかけしようよ、あたいと」

「与太郎、お前が謎なんて考えたって無駄なこったぞ。お前の頭は考えるようには出来てねえ。風に飛ばないための重石みてぇなもんだからな」

「えへへ、じゃあ、いくよ?」

「聞いちゃいねえ。まあ、言ってみろよ」

「ええとね、やわらかくってね、毛が生えててね、ニャーンてなく猫はなーんだ?」

「猫は……猫だろ」

「すごい、当たりだ」

「お前、自分で猫って言ってたろ」

「あ」

「言わんこっちゃない」

「ちょっと油断した」

「いつもの事じゃねえか、お前のそれが油断なら、世界は千年も前にオイルショックだよ」

「分かり難いね」

「うるさいな」

「じゃあ、つぎいくよ」

「止めろ止めろ、馬鹿馬鹿しい。相手をするのも疲れらぁ。いくら暇で散歩してたって言っても、お前と縁側で夕方までいたらおれまで同じだと思われちまう」

「えへへ、お風呂も一緒寝るのも一緒、いつも一緒でむにゃむにゃだね?」

「古いCMソングな上に、ややこしく改変してるんじゃねえよ!」

「じゃあさ、なぞかけといたら、五銭あげるよ」

「……む、そうまで言うならまあ、聞いてやらねえ事もねえけど、あんまりくだらねえ事ばっかりだったら」

「大丈夫だよ、あたいだってバカじゃあない、お金がかかれば油断はしないよ。今後、あたいに、油断によるミスは決してないと思っていただこう!」

「何京院だよ……まあ、言ってみな」

「えっとね、えっとね、首が長くて、動物園にいて、茶色と黄色の模様が付いてるキリンって、なーんだ」

「キリン」

「ええーっ、すごい、なんで分かるの? はい、五銭」

「目一杯油断してるよ、銭がかかっても何の意味もねえよ!」

「よぅし、こうなったら、すごいんだよ。とっときを出すよ」

「そんなのがあるのか?」

「うん。相手がいい気になってレートを釣り上げて来たら使えって、佐兵衛が言ってた」

「……そんなこったろうけど、ロクな事を教えねえな、あの大家は」

「受けて立つ!」

「それはおれが言う事だろう。まあいいや、おれが負けたらこの五銭返してやるよ」

「たった五銭ー?」

「そういう勝負だったろう」

「あたいの計算では、いい気になった八っつぁんは、五円にレートをつり上げるんだけど、貧乏だからお金は払えないっていう事で、指一本に付き一円にして、払えなかったら切断するっていう流れだよ?」

「どうしてお前相手にそんな命懸けのギャンブルしなきゃいけないんだよ。五銭よりも増やしゃしねえから、さっさと言ってみな」

「ちぇっ、ケチ」

「大体、おれが指切ったってお前は何の得もねえだろう」

「あ……そうか。そんな見世物、一銭の価値もないね」

「それはそれで腹が立つだろう、この野郎!」

「んとね、謎だよ?」

「……まあ言えよ」

「相手の事が気になるんだよ、でも、面と向かっては言えないんだよ。あの人の行きそうなところを調べたり、名前を曖昧にして電話したりメールを送ったりするんだ。なーんだ?」

「この野郎、入れ知恵されただけあって、面倒な問題だな。お前、おれが『答えはストーカーだ』って言えば『純愛だ』、って言うし、おれが『純愛だ』って言えば、『ストーカーだ』って逃げるつもりだろう?」

「うふふ、なら、両方言っていいよ」

「じゃあ、答えは純愛もしくはストーカーだ!」

「えへへ、フィッシング詐欺だよ」

【完】




『与太親子』


「あ、流れ星だよ、おとったん」

「ああ、随分大きな光だったな、与太郎」

「ねえおとったん」

「なんだ」

「いつも星は流れて落ちるばっかりなのに、どうしてなくならないのかな?」

「お前は本当に馬鹿だな、良いか、お前に大事な事を教えてやろう」

「そうかい?」

「きちんと覚えろよ?」

「覚えられたら苦労はない」

「努力ぐらいはしてみせろ」

「分かった、努力してる事にするよ」

「それで良い。で、何の話だったかな?」

「なんだっけ?」

「んんと……ああ、そうだ、流れ星だ。流れ星というのはな、与太郎、あれは、何だと思う?」

「星が落っこちるものだろう?」

「そこが素人の浅はかさだ」

「あかさかか? クーデターかい?」

「浅はかさだ、間違えが血なまぐさいよ。確かに空を見れば、夜には星が動き昼には日や雲が動く。だから、昔の人は空が動くんだと、まあ、そう考えていたんだな」

「違うのかい」

「違うも違う大違いだ。昔のガリレオという偉い人が、動いているのは地球の方だと言ったのさ」

「へえ? でも、どう見ても星の方が動いてるよ」

「当たり前の事を言ったんじゃ、偉くはなれないだろう」

「なるほど、確かに総理大臣とかは、危ないのに危なくないとか、お金を貰ったのに貰ってないとか言うね」

「つまりだ、流れ星は星じゃあなくて地球が落ちているんだ。与太郎、お前が落っこちたからって、何かが変わるか? 変わらないだろう。それと一緒で、空の星は結局変わらないんだ」

「なるほど、そうだったのかぁ。すごいな、おとったんは」

「分かったら家へ入るぞ」

「……ねえ、おとったん」

「なんだ、早く入らないか」

「地球が落ちてるのは分かったけど、一体どこに落ちるの?」

「そりゃあお前……第一志望校だよ」

「えっ、第一志望に入れるのに、落ちるって言うのかい」

「それぐらいの事を言わなきゃ、偉くならんさ」

【完】




『与太郎』


「おい、与太! 何やってんだ、そんな腐った豆腐なんか食うんじゃねえ!」

「だって、おとったん。松つぁんのところでは、若旦那が食べて、酢豆腐っていう高級料理だって言ってたよ」

「バカだなお前は、かつがれたんだよ」

「ええっ!?」

「若旦那から分けて貰ったが、そりゃあ酷い味だった。うまいなんて全くもって嘘だ」

「……目一杯引っかかってるね、おとったん」

【完】




『増量与太郎』


「何を食べてるんだ、与太郎?」

「ああ、おとったん。トマトを食べると痩せるって聞いたから、食べてるんだ」

「バカだなお前は、百貫デブで通っているお前が、トマトを一個や二個食べたところで変わるものか」

「そっかぁ、じゃあ、どうすれば良いのかなぁ」

「三個喰え!」

【完】




『与太郎スマホ』


「あれぇ? おかしいなぁ」

「どうした与太郎、スマホの画面覗き込んで」

「あ、おとったん。おかしいんだよ」

「何がだ?」

「んとね、女の服がスケて見えるっていう百七十円のアプリを入れたんだけど、ちっともスケないんだ」

「ったく、バカだなお前は! そんなアプリで見えるようになるワケないだろう」

「えー、そうなの?」

「こっちの五千円のにしろ!」

【完】




『与太郎省エネ』


「うー、暑いー、暑いー」

「どうした与太、部屋の中でそんなに着込んで?」

「うん、おとったん。この夏は省エネしなきゃいけないっていうから、クーラーを消してね暑さをガマンしてたんだけどね、もっと思いっ切りやろうって、服も厚着したんだよ」

「バカだなお前は、服を着込んだって意味なんかありゃしないさ。暖房もつけな!」

【完】




『与太郎商法』


「CDー、CDーを買わないかい」

「なんだ与太郎、カボチャはどうした」

「ああ、おとったん。カボチャ売ってたってたかが知れてるから、自分でCDを作って売る事にしたんだよ」

「バカだなお前は。そんなもんが売れるワケがないだろう。握手券も付けろ!」

【完】




『将来に備える』


「うーん、ひもじいよう、ひもじいよう」

「どうした与太郎、昼間っから家の中で寝て。仕事はどうした」

「それがね、おとったん、将来が心配だから国民年金を払ったら、今日のおまんまを買うお金がなくなったんだ」

「馬鹿だな、お前の世代じゃ、年金の還元率は一を切っているんだぞ。国民年金基金にも加入しろ!」

【完】




『与太郎生保』


「おとったん、あたいは決心したよ」

「ほほう、ついに就職活動をする決意をしたか、与太郎」

「そんな事はしないよ」

「……だろうなぁ。でもな、一生親のすねをかじって生きるのは無理なんだぞ」

「おとったん、あたいだってそんな事は分かってるよ。だから、自分で稼ごうって決意したんだ」

「ははぁ、就職出来ないから起業しようってのか? そりゃお前、花火で丸焼けになって借金取り押しかけ記念のフラグだよ」

「会社なんかやらないよ。生活保護を貰うんだよ」

「……あ、その手があったか」

【完】




『節分』


「おにはそと、ふくはうち!」

「与太郎、何やってんだ、豆がもったいない」

「おとったん知らないのかい、豆をぶつけて鬼を追い払うんだよ」

「バカだなお前は。今は夏だよ、節分は二月にやるもんだぞ」

「来年になっても腕が鈍らないように投げておくのもいいだろう?」

「来年の事を言うと鬼が笑うぞ」

「じゃあやっぱり投げなきゃ」

【完】




『与太郎総理』


「おとったん、あたいねぇ、総理大臣になるよ」

「バカも休み休み言え、与太郎。お前みたいなコネも何もないヤツがなれる訳ないだろう」

「でもあきらめなければ願いはかなうって言うよ?」

「何だか本気みたいだが、一体なんでなりたいなんて思ったんだ?」

「うん。総理大臣になってね、三千円もするカツカレーを食べてみたいんだ」

「お前は本当に馬鹿だな、ちょっと高いカツカレーのために総理大臣だなんて。なるなら新聞記者になりな!」

【完】




『ソーシャル与太郎』


「あれ? あれれ? あれ?」

「どうした与太郎?」

「あ、おとったん。このゲームをやってるんだけどね、ゼンゼン、ほかの人にかてないんだ」

「バカだなお前は。無課金で勝てるワケがないだろう。百円やるから課金しろ!」

【完】




『与太郎と釣り』


「おい、与太郎、何をやってるんだ?」

「あ、おとったん。んとね、はつカツオをたべたいから、つりをしてるんだよ」

「バカなヤツだな。そんな水たまりでカツオがかかるものか! ああいう魚は、海に行かなけりゃ釣れないんだ」

「へえ、そうなんだ。じゃあ、海にいこう」

「いや待て待て、お前のようなバカが海に行ったところで、魚なんざぁ釣れやしない。まずは練習をしなけりゃならん」

「どうすればいいの?」

「そうだな、まずはそう、そこ水たまりでサオのあつかいを練習すれば良い」

「なあるほど、さすがはおとったんだ!」

「――おい、あんたら、水たまりに竿なんか差して何やってんだ?」

「うふふ、わからない人がいるもんだね、おとったん!」

「ああ。かわいそうな人がいるもんだ!」

【完】




『与太郎消費税』


「ちゃりん、ちゃりん、っと」

「どうした与太郎、貯金箱かかえて」

「うん、おとったん。しょうひぜいが8パーセントになるっていうから、今まで8つ買ってたものを1つだけにして、あとはちょきんしてるんだよ」

「バカだなお前は。そんな貯めこみ方をしたってなんにもなりゃしない」

「そうなの?」

「考えてもみろ、消費税が上がったら高くなるんだから、安い今の方がいっぱい買えて得だろう」

「あ、そうなんだ」

「さあ、今までの8倍買いに行くぞ!」

「うん!」

【完】




『与太郎占い』


「おとったん、けつえきがたなんだっけ?」

「ん? そうだな、確か、何とか言ったな。でもまあ昔の事だから、今はちょっと分からないな」

「そっか。O型だったら、すごくいいことがあるって、テレビで言ってたんだよ」

「バカだなお前は。人間が四つ程度で分けられるものか、星座占いにしろ!」

【完】




『与太郎と父親』


「えいっ、えいっ、えいっ」

「何やってるんだ与太郎、自傷行為か?」

「お金をもうけようとおもって」

「――それ以上は何も言うな。それから、そういう意味のアレなら、別に傷つけなくても良いんだぞ」

【完】




『滅亡に備える』


「おとったん、そのヒモノのアタマ、たべないならおくれよ」

「なんだ与太郎、ここんところよく食べ残しを持って行くな? 腹でも減ってるのか?」

「んとね、ナサが世界がほろびるって言うから、食べものをためてるんだ」

「バカだなお前は! こんな残飯を集めたところで、焼け石に水だ」

「ええー? そうなの?」

「缶詰を買え!」

【完】




『滅亡に備える2』


「おとったん、カンヅメをいっぱい買ったよ。もうアンシンだね」

「与太郎、だからお前はバカだと言われるんだ。世界が滅亡しようという時に、缶詰だけで生きられるものか」

「でもおとったん、自衛隊のカンメシもあるんだよ」

「食べ物だけじゃあ駄目だってんだ。着替えも用意しておけ!」

【完】




『滅亡に備える3』


「おとったん、たべものもきがえもよういしたのに、世界がほろびなかったね。どうしよう?」

「だからお前はバカなんだ、与太郎」

「えー?」

「今滅亡していないからといって、明日滅亡しないとは限らないぞ。ずっとためておかなきゃあ意味がない」

「ところで、おかねがなくて、もうカンヅメが買えないんだけど?」

「ははは! 世界が滅亡するのにお金なんかあってどうなる?」

「あっそっか、あはははは!」

【完】




『健康』


「ううっ、すっぱい! すっぱいっ!」

「どうした与太郎? レモンなんかかじって? テレビ雑誌の真似か?」

「そうじゃないよおとったん。きのう肉を食べたからね、体がサンセイってのになってるから、アルカリセイのレモンを食べるといいって聞いたんだ」

「馬鹿だなお前は、そんなものを鵜呑みにしちゃあいけない」

「ええー、そうなの?」

「考えてみろ、サン性とアルカリ性を混ぜたら、中性だ。中性と言えば中性脂肪、メタボリックシンドロームで大変な事になるぞ!」

【完】




『新商売』


「ねえおとったん」

「なんだ与太郎、今日もゴロゴロしやがって、仕事ぐらい探したらどうだ」

「それなんだけどね、あたらしい商売をかんがえたよ」

「どうせ下らない事だろう」

「ひとのためになるし、かんたんなしごとだよ」

「そんな都合の良い話があるか」

「おとったん、発想のめをつんだらいけないよ。めをつんだら、なんにもみえなくて、おまんまがおにぎりしか食べられなくなっちゃう」

「それでなにを考えたんだよ。聞くだけ聞いてやるから言ってみろ」

「うん。外をあるいてたらね、こどもが『なつやすみの宿題がたいへんだ、たいへんだ』って言ってたからね、料金をとってやってあげようと思うんだよ」

「バカだな、宿題というのは子供が成長するための勉強の一つだ、人に頼むぐらいなら最初から学校に行かなけりゃいいだけだ」


「ものすごい売り上げだったね、おとったん」

「……お前の絶妙なバカさがリアリティを生み、絶対にバレない宿題代行として大ヒットするとは」

「えへへ」

「まったく酷い世の中だ。それで、お足はどうした?」

「二本あるよ」

「そうじゃない、貰った金はどうしたってんだ」

「ああ、いっぱいあって重かったからね、猫にあげちゃった」

「……まあ、その方が良いのかも知れないな」

【完】




『カボチャや』


「おお、与太郎。お前もぼちぼちカボチャ屋が板に付いて来たな?」

「えへへごちそうさま」

「何を言ってるんだ?」

「板についたのだから、かまぼこでしょ? あたい、かまぼこは、あのはしっこのところが好き」

「違うよ、サマになって来たってんだよ」

「馬鹿言っちゃいけないよ、おじさん。これから、サマーじゃなくてスプリング、冬じゃなくて秋だよ」

「サマーは夏で、スプリングは春だよ」

「そうとも言う」

「まったく、そんなんじゃ、要介護の認定が出るぞ」

「えへへ、そんなにほめるなよ、佐平」

「兄貴の名前を呼び捨てにするなよ」

「あれ、ちがったか? お前誰だ」

「おまえのおじさんだよ!」

「へえ、おじさんてぇのは佐平じゃないのかい」

「分かって言ってるだろう。まったく、さあ、何でも良いから、売ってきな、カボチャ売って来な」

「あれ? このかぼちゃ、切れ目が入ってらぁ」

「ははは、馬鹿でも気付いたか。これはな、売り上げを増やそうと思って導入した、季節限定のジャック・オー・ランタン型カボチャだ」

「切ったところからすぐに腐るね」

「さっさと売り切ればいいんだよ。ありふれたカボチャよりも女子供の目に触れるだろう」

「んー、目にくっつけたら痛いよ。この前、じぃっとカボチャを見てて、そうなった事あるよ」

「なにやってんだよ」

「痛くて痛くてボロボロないてたら、なんか通りかかった人が『仕事に辛い事もあるかも知れないが、頑張ってれば良いことある』って、いっぱい買ってくれたよ」

「お前は毎度毎度そういう人の情けにすがるような売り方をしているな。お前がいくら馬鹿でも、そんなに人に甘えてちゃいけない。哀れみお情けで買って貰うんじゃあ乞食と同じだ。良いと思った売って初めて商売ってもんだ。さあ、売って来い、早くしねえとハロウィンが終わっちまうぞ!」


「おじさん帰ったよ」

「おお、どうだ、売れたか」

「ちっとも売れなかったけど、針金ハンガーの殺傷力に感心したよ」

「……お前、どうやって生き延びたんだ?」

【完】




『現金化』


「おう与太郎じゃねえか」

「えへへ、おはよう、アニキ」

「おはようじゃねえは、もう昼過ぎだよ」

「アニキはお酒かい?」

「おうよ。午前で仕事が仕上がっちまったからな」

「でも、昨日、ツケがたまってもう買えないって言ってたね」

「バカのくせに覚えは良いな。フフフ、まあ、ちょっとな」

「アニキ、どろぼうかい? いけないよ、おとったんが言ってたよ。ぬすびとはうそつきの始まりだって」

「ひっくり返ってやがんな」

「ひっくり返るとどろぼうのはじまり?」

「別に悪事をして稼いだ訳じゃねえよ。このクレジットカードのショッピング枠を現金化したんだ」

「どういうこと? ショッピング枠じゃ、お金なんかかりられないし、返品しても現金で戻って来る訳じゃないじゃないか」

「そこよ。カード決済出来る通販サイトで、現金にし易いものを買うのさ」

「あ、なるほど」

「お陰で、ツケの分をすっかり払えたって寸法よ。今日上がった仕事の分が、月末にゃ入るから、それでショッピング枠の支払いも完了、これですっかり元通りだ」

「なるほど、そりゃ良いことを聞いたよ。ありがとうアニキ!」


「――こうして、ショッピング枠を現金化しようとしたのですが、あたいにはクレジットカードがありませんでした。いくつものカード会社に問い合わせても、査定ではねられました。確かに私は知能の低さがありますが、それだけの事で可能性すらも狭められる事は、差別ではないでしょうか。人類は平等です、差別をする権利なんて、誰にもありはしないのです」

「まったく、誰だよ、このバカに妙な事を吹き込んだヤツは! 良いから、さっさとカボチャ売って来い!」

【完】




『カボチャ屋2』


「ふふん、与太郎のカボチャ屋は、あの後どうな――お? 行列が出来てやがる。おい、与太郎、与太!」

「あ、おじさん」

「大したもんだな、大盛況じゃないか……ん? お前、何を売ってる?」

「うん、とうやす屋をやってたらね、ドーナッツ屋と聞き間違えた人が来てね、それでカボチャよりも、それを材料にしたパンプキンドーナッツを売った方が儲かるだろうってアドバイスをしてくれたんだ。だから、こうやって売ってるんだよ」

「え……そ、そうか。まあ、売れてるなら良いか」

「アイデア料として売り上げの半分、道具の貸し出し台として売り上げの半分、それから、保険料として売り上げの半分をあげただけで、これだけやってくれるんだよ」

「おい、待て」

【完】




『さけ』


「おう与太郎、赤い顔してどうした?」

「うん、八の兄ぃ、酒粕を食べてね、酔っ払っちゃった」

「だらしねえな。酒粕なんぞで酔うなよ。そういう時には酒を飲んだと言っておけ」

「分かった!」


「お、与太郎、ご機嫌だな」

「あ、松つぁん、えへへ、こんにちは。酒を飲んでね」

「昼間から羨ましいな。冷やかい、熱燗かい?」

「いや焼いて食べた」

「……酒粕だな?」

「あれ? なんでバレた?」

「そういう時には熱燗とでも言っておけば良いんだよ」


「――熱燗かい、いいね。どんだけ飲んだんだい?」

「四切ればかり」

「酒粕だな? そういう時は、二合半合とでも言っておけ」


「――ほほう、それなら今度からは飲む時にも付き合わせても良いな。どこで飲んだ?」

「長屋の裏の七輪の網の前」


「八の兄ぃ」

「おう与太郎、また来たのか」

「あたいね、神田橋んとこの酒屋で、田楽を肴に二合半のお酒を燗で飲んだよ」

「もう長屋中、お前が酒粕で酔った事は知ってらぁな」

「えへへ、有名人だね」

「妙な入れ知恵して悪かったよ。こうなったらちゃんと飲ませてやるから、付いて来い」

「兄ぃは腹が出てるね!」

「それを言うなら太っ腹だ。いいか、飲み過ぎるなよ。猪口に三杯も飲んだら仕舞いだからな!」

【完】




『あいさつ』


「挨拶は、おあしす、が、大事なのだぞ、与太郎」

「ふうん、おとったん。おあしすってのはなんだい?」

「おあしすとはな」

「うん」

「『おあしすでお早う、ありがとう、しつれいします、すみませんと言え』てな意味だ」

「なるほど。それで、おあしすってなんだい?」

「世の中、一つや二つ、分からないものはある」

「なるほど、深いね、おとったん。まるで、サバクのなかで急に見つけた水場みたいだ」

「そうだろう、水場みたいなんだよ」

【完】




『孝行糖アフター』


「与太郎、孝行糖の方は、その後売れてるのかい?」

「うん、おっかあ」

「その割には、お前の魚は目刺しの小さいのだけだね」

「おっかあにいいものを食べてほしいからね」

「良い物って言っても、目刺しの大きいのが二匹あるだけだろう」

「わかったよ、この一匹もおっかあに……」

「そうじゃなくて、それなり売れてるんだったら、玉子だって食べられるぐらいになると思うんだよ?」

「ああ、それなら、ほら、この豆、すごく良いらしいんだよ! 魔法の豆だって!」

「……馬鹿は一つの親不孝かも、知れないねぇ」

【完】




『星』


「よいしょっ、よいしょっ!」

「どうした与太郎、竿なんかふりあげて」

「ああ、おとったん。空の星がキレイだから、とろうとしてるんだよ」

「バカだな、おまえは。そんなものでとれるか! 屋根の上でやんな!」

「ハハハハ、認めたくないものだな、愚か故の過ちというのは」

「誰だあんた? 冬にノースリーブで」

「なんだあんた? 夜にサングラスなんかかけて?」

「見ての通りの軍人さ。見せてやろう、本当の星の落とし方というものを!」


「――それが、きっかけの一つだった」

「それはエゴだよ!」

【完】




『準備』


「うーん、鉄の作り方は、こうやって……コークスって……なんだ?」

「珍しいな与太郎、本なんか見て」

「ああおとったん。あたいねぇ、イセカイに行ってもかつやくできるように、武器のつくりかたをおぼえようとおもうんだよ」

「バカだな、そんな夢物語を真に受けるんじゃあない。もっと現実的に考えろ」

「じゃあなにの作り方をおぼえればいいんだい?」

「コーラのビンに決まってる!」

【完】




『IT革命』


「おとったん、パソコンを買ってきたよ」

「与太郎、お前無駄遣いばかりしやがって。パソコンなんて全然使えた事がないじゃないか」

「でも五百円で売ってたんだよ」

「ずいぶん古いじゃあないか。このウィンドウズ95よりも古そうだ」

「それよりは古いかも知れないけど、ちょっとだけだよ。ほら、77って書いてある」

「だからお前はバカなんだ。安物買いの銭失いって言うんだぞ。おれなんかみてみろ」

「うわぁ、6000! すごい!」

「しかも喋るんだぞ!」

「すごいやおとったん!」

【完】




『値引き』


「おとったん、このでんきやさんのチラシだけどね」

「なんだ与太郎、なになに? 『ほかのお店より高かったら、値下げします』なるほど」

「いいこと考えたよ」

「なんだ?」

「うちで、でんきせいひんを売るんだよ。それを一円にして、このお店に買いに行ったら、タダでもらえるじゃないか」

「お前は相変わらず馬鹿だな、店がタダで物を売るものか! 二円にしろ!」

【完】




『画期的』


「おとったん、粉の水素水を作ったよ。これでおおもうけだ!」

「バカだな与太郎、そんなもんができる訳ないだろう。イオンナントカ水って事にしな!」

【完】




『業務展開』


「ただいま、おとったん」

「おう、帰ったか与太郎。今日のあがりはどうだ?」

「これぐらいだよ」

「ほほう、ひいふうみい……ええと、たくさんだ」

「そうだろう、カボチャがすっかり売れたよ」

「そうかそうか、多分すっかり売れたと思っていた。お前のような馬鹿にカボチャ屋だって務まるかどうか心配だったが、馬鹿の一つ覚え、多少は客も付いてサマになってきたな」

「えへへくすぐったいね、与太郎様だなんて持ち上げられちゃ」

「そういうサマじゃないよ」

「じゃあ、与太郎大将、与太郎長官、与太郎殿下、与太郎和尚、与太郎参謀、与太郎代官、与太郎小暮閣下?」

「そこまで偉くはないよ。ただの穀潰しが半人前の仕事をようやく出来るようになっただけの事だよ」

「半人前じゃあ腹がふくれない、うなどんなら四人前とっておくれよ」

「うなどんてぇあがりじゃあないよ。これならせいぜい茶漬けに鮭が半切れ増やせるぐらいの事だ」

「じゃあそれを六人前」

「数喰ったらかかる値段は変わらないよ。まあともあれよく頑張った、晩飯済ませたら今日はゆっくり休みな」


「――ねえおとったん、あたいね、このままじゃあいけないと思うんだよ」

「そりゃそうだ、飯粒が鼻の頭に付いてる」

「これは明日のおべんとう」

「なんだいそりゃ」

「大変な仕事には弁当が必要だよ。おとったん、知ってるかい、顔に米粒をつけるとおべんとうになるらしいんだ」

「馬鹿な事を言ってるんじゃない、米粒一つで腹がふくれるもんか、二粒つけておきな」

「わかったよ、おとったん。うん、あれ? どうも三粒つくね」

「だったらあきらめて明日あらためて持って行きな」

「分かった。それであたいね、このままじゃあいけないと思うんだ。じぎょーてんかいをしなきゃいけない、そういう事らしいんだよ」

「じぎょうてんかい? どういうこった?」

「カボチャ屋で新商品を売りたいんだ」

「あのな与太郎、誰に吹き込まれたか知らないが、商売てぇのは『商い』ってんだ。同じ事でも飽きずにコツコツやって初めて信用が得られて儲けも増えて行くものだ。とりわけお前は馬鹿だ、そんなにコロコロやる事を替えたって自分で分からなくなるだけだ」

「ぷぷぷ、『商いで飽きない』かい、ダジャレだね、おとったん、『商いで飽きない』ぷぷ、ぷぷぷ、あははは!」

「そこまで笑えるダジャレじゃないよ。分かったらもう寝な」

「いや寝ない。じぎょーてんかいだよ」

「まだ言ってやがる。まあ、聞いてやるから、何をしたいんだよ?」

「うん、世の中、水素水っていうのが流行っているらしいんだ」

「まあ聞いた事があるな、大女優も愛用しているなんだか凄いものらしい。水素っていうのは、なんでも凄く身体に良いとは聞くな」

「あれでお茶をいれようと思ってわかしてたらね、いつのまにか水が煮飛んでこんな粉がちょっぴり残ったんだよ。これを水にとかせば水素水なんだから、大売れするんじゃないかな?」

「……水素水に目を付けたのは、馬鹿のお前にしては上出来だよ。煮てかさを減らして売るのも大した考えだ。でも、やっぱりお前は一本足りないよ」

「二本分煮た方が良かったかい?」

「そうじゃあない、水素水は水なんだから水を飛ばしちゃ意味がない」

「あ、そうか」

「煮飛ばした水の方を売りな!」

【完】




『健康』


「ねえおとったん、最近の研究では、玉子を一週間に三つ食べると早死にするって言うよ」

「そうだぞ与太郎。だからそのおでんの玉子をよこすんだ」

「四つ食べれば良いんじゃないかな」

「だからお前は馬鹿だと言うんだ。三つでダメなものが四つで良い訳がないだろう」

「でもおとったん、この前薬をいっぱいのもうとしたら、『多すぎるのは良くない』って言われたよ?」

「む……それは確かだな」


「という事で、おれたちは玉子をいくつ食べたら良いんでしょう、先生?」

「教えて下さい、先生」

「ヴィーガンになれとでも言ったら守るのか、お前達は?」

【完】




『まぜまぜ』


「おい、与太郎、この胃薬はなんだい。あたしゃ便せんを買って来いと、そう書き置きしたろう」

「うん、おじさん、だから便の栓を買って来たんだよ」

「便じゃあない、便だよ、これじゃあ全部仮名で書けば良かった」

「そうだね、それなら迷わずビンセントを呼んで来られたのに」

「誰だよ?」

【完】




『星空』


「よいしょっ、よいしょっ!」

「どうした与太郎、物干し竿なんか振り回して」

「あ、おとったん、星があんまり綺麗だから取ろうと思って」

「バカだな、お前は。そんなとこから届くもんか、屋根へ上がれ!」


「え……それ、どこかおかしいのか? 近づくのは間違いないだろう?」

「なるほど、それで君は宝くじを一千枚買うのか」

「そりゃ、買わなかったらゼロだし、一枚買うのの一千倍の当選確率なんだぞ!」

【完】




『サバ』


「釣れないなぁ。釣れないなぁ」

「どうした与太郎」

「あ、おとったん。せっかくサバンナに来たからサバを釣りたいと思うんだけど、どうもピラニアとかしか釣れないよ」

「バカだな、サバは海の魚だ、川で釣れるもんか」

「ええっ、そうなの? じゃあ、さっき食べたうで玉子の塩を入れよう」

「バカだなお前は、それっぽっちで海の水になるか。袋ごと入れな!」

【完】




『血液クレンジング』


「血液クレンジングが流行ってるらしいな、与太郎」

「どうしてだい、おとったん」

「なんでも、出した色の悪い血にオゾンをかけると、綺麗な色になるんだそうだ」

「なるほど! そりゃあ儲かりそうだ!」


「……犯行の動機は?」

「そりゃ虹色で一番綺麗なのが良いって思うでしょ、裁判官さん」

【完】




『血液クレンジング2』


「心神耗弱で無罪になったよ、おとったん」

「良かったな与太郎」

「反省を踏まえて、今度はきちんと勉強をしたんだ」

「なんだって? 与太郎、お前本当に与太郎か?」

「シャボンの水じゃ死んじゃったから、今度は他と同じようにオゾンを使う事にするよ!」


「死ななかったじゃないか」

「……針を刺す時点で障害罪なの!」

「そうだったの? まあいいや、またどうせ無罪だから」

「……今度は措置入院だよ」

【完】




『避難』


「与太郎、ピッチャーマウンドで動かずに何をやってるんだ」

「知らないのかい、おとったん。雨で川があふれるから高いところにいるんだよ」

「バカだな、そんなところでどうなるものか」

「そうかい?」

「投手板の上に立ちな!」

【完】




『予防』


「与太郎、何をやっているんだ?」

「あ、おとったん。悪い病気が流行してるってきいたから、息を止めてるのさ」

「バカだな、そんな事をやっても続けられるもんじゃないだろう」

「そうかい?」

「鼻の穴片っぽだけで息をしな!」

【完】




『防ぐ』


「んー、んー……ぶはっ」

「どうした与太郎?」

「おとったん、なんかカゼのすごいのがはやってるっていうから、すいこまないように、息を止めてるんだよ」

「バカだな、そんな事で防げるもんか。目もつぶりな!」

【完】




『吸血鬼』


「おとったん、あたい、吸血鬼になったんだよ」

「なんだって、そりゃ本当か与太郎?」

「本当だよ。今でも血を吸いたくてしょうがないんだ」

「へえ、驚いたな」

「それに、あれのにおいがすごく嫌いになった」

「ああ、ニンニクかい」

「ううん、蚊遣りのけむり」

「何になったって?」

【完】




『吸血鬼2』


「おとったん、あたい、吸血鬼になったんだよ」

「なんだって、そりゃ本当か与太郎?」

「本当だよ。今でも血を吸いたくてしょうがないんだ」

「へえ、驚いたな」

「それにハネをはやして飛べるんだ」

「ほほう」

「ほら、こんな風に」

 プーーーーーン

「何になったって?」

【完】




『吸血鬼3』


「おとったん、あたい、吸血鬼になったかと思ってたんだけど」

「うん」

「悪の秘密結社にカイゾウされただけだったみたい」

「なるほど、道理で昆虫モチーフ」

「ツェツェハエ男として、世界征服に協力しろって言われたけど、イヤだから逃げて来たんだった」

「斜め下のモチーフと斜め上の展開来たな」

【完】




『やかんアフター』


「ねえごいんきょさん」

「なんだ与太郎?」

「いろんな事を知ってるのは分かったけど、あたいの名前の由来はなんだい?」

「由来と来たな。そんな大層なもんじゃあない、お前の家はオヤジからしてぼんやりしてヨタヨタフラフラ歩いてたから、与太者の何のとからかっていたら、何をどう勘違いしたか、名前にしちまったんだ」

「それでほんとうのところは?」

「人間、色々な人に助けられ、力を与えられながら生きるものだが、お前は人に何かを与えられるような子になって欲しいという事で付けた訳だが、お前はおめでたいから、『人の嫌がる事を進んでやりましょう』というと、嫌がらせをするのだと解釈するタイプであって、そいつにそんな話を聞かせたら、何を与えるか分かったもんじゃないってんで封印したんだ」

「なるほど、そうなんだ」

「与太郎、はい、このペンの光を見るんだ」


「ご隠居、与太郎の知能がまた低下している気がするんですが」

「あんまり常用するもんじゃなかも知れないな」

【完】




『与太郎酔ったろう』


「与太郎、どうした赤い顔して。酔ってるのか?」

「うん。酒かすを食べたんだよ」

「そんなもんで酔うとはだらしねえ。そういう時は、酒を飲んだって言っておけ」


「どんだけ飲んだか聞かれて塊つってバレて、冷か燗かで聞かれて焼いて食べたでバレたか。むむむ」

「八つぁん、あたい思うんだよ。酒かすを食べて酔ったならそれはそれで良いじゃないか、って」

「はっ!? そうだ、言われてみればそうだった! そうか、与太郎。お前はバカだと思っていたが、その分、世界の正しいものを正しいと見極められる、公正な心を持っているんだな!」

「えへへ」

「じゃあ、世界首相の座はお前に譲るよ。お前ならば、世界を良い方向に導いてくれるに違いない!」

「うん、分かったよ」


「――で、本当に権力を委譲したら、この有様だ。ポル・ポトより酷い。結局、インテリが分かってないんじゃなくて、政治が難しいんだな」

「ひょっとして、我々レジスタンスが吊すべきは、あんたなのかもな」

【完】




『リボ』


「おとったん、この絵を買うと後で値段が上がって大儲けだって言われて買ったんだ」

「バカだな与太郎、値上がりするかどうか分かったもんじゃない。こんなものに大金払うんじゃバカらしい」

「えー、でも、もう支払う約束になっちゃってるよ

「リボ払いにしときな!」

【完】




『リボ2』


「与太郎、おじさんが家を建てたというから、行って褒めてきな。褒め方はかくかくしかじかだ」

「わかったよおとったん!」


「――尻が隠れて屁の用心になる」

「わはは、面白い事を言いやがる。まあ、どうせ父親の入れ知恵だろう。無理な事は言わねえで良い、おやつでもお上がり」

「ありがたい、わざわざこんなへんぴなところまで来たかいがあった」

「やかましいよ――ふぅ」

「なんかつかれてるね?」

「お前にも分かるか? 家を建てるのに色々散在してな。これからの支払いを考えると気が滅入るのさ」

「だったらリボ払いにすると良い。支払いが固定になるけれど、元本が減らなくて、火の車で腎臓を使わなければならない、略して火の用腎になる」

「どこまでが入れ知恵だ」

【完】




『与太エコ』


「与太郎、買い物行くなら、エコバッグを持っていきな」

「え? おとったん、わざわざそんな物持って行かなくても、袋が付くじゃない?」

「最近は有料化されたんだ。いちいち余分な金を取られたら勿体ないだろう?」

「なるほど」


「ただいまー」

「おお、買って来たか……って、なんだこりゃ」

「うん、ゲコバックだって言うから、カエルを取って来た」

「馬鹿なヤツだ。物を運ぶ猫車ってのがあるだろう。それがなまってネコバッグというのが本当なんだぞ」

【完】




『ビフォア・KKT』


「おとったん、この手紙は捨てていいのかい?」

「ああ、与太郎。そういうものはゴミ箱に捨てるんじゃない、個人情報が含まれるから、きちんとシュレッダーにかけるんだ」

「コジンジョウホウってのは、なんだい?」

「そりゃお前、個人の情報さ。例えば与太郎、お前がバカだという事が、世間の人に知れてみろ、みんなにバカにされるだろう?」

「そりゃ大変だ」

「だから、そういう事を人に伝えないようにするんだ」

「でもこれ、おとったんの名前と給料しか書いてないよ? それでもバカにされるかい」

「まあ、安いしな……」

「ええっ、でもこれだけあれば、やきいもがいくつ買えるか」

「焼き芋だけで生活が出来る訳じゃあないからな」

「ふうん。わかった、おとったん、あたいもおとったんを手伝ってがんばるよ。誰にもおとったんがバカでびんぼうだなんて言われないように!」


「――与太郎なる者、親孝行として大層評判と聞く。昨今において誠に感心である。されば、青緡五貫文を褒美として賜り、孝行の手本とするものである」

【完】




『孝行糖アフター』


「おとったん、今日も孝行糖売れたよ」

「やあ良くやったな与太郎。最初のうちは、お武家屋敷に売り込んで殴られたりしたもんだが、大分サマになって来たじゃないか」

「あはは、おとったん、人の事をバカって言う割には季節を間違えてらぁ。今は冬だよ、サマーじゃ夏さ」

「バカだな、サマーは秋だよ」

「ええっ、そうかい? でも、チューブにサマードリームって曲があるじゃないか」

「だからだよ。チューブは夏のものだろう」

「うん」

「夏に夏の夢は見ないだろう?」

「見るかもしれないけど」

「事実は小説より奇なり、というだろう。フィクションにおいては、リアルよりもリアリティが重要になる。偶然に起こりえる事だからと言って、起こして良い訳じゃない。また、当たり前に起きるだけの事については描写する事は無意味だ。そういう意味で、創作である限り『夏に夏の夢を見る事』が描写される事はない」

「なるほど、それじゃ、サマーが夏という線は消えるね」

「そう。次に冬についてだが、これも可能性は薄い」

「そうかい?」

「スキーやスケートの事を、ウインタースポーツ、というだろう。多分、あれは冬のスポーツという事を指しているんじゃないかと、俺は踏んでるんだ」

「なあるほど。だとすると、冬を意味するのはウインターかい?」

「そういうところがお前は浅はかだ」

「ひどいねおとったん、バカならまだガマンできるけど、ハカじゃ考える事も出来ないじゃないか。まして浅く埋められちゃ、犬が掘り返しちまう」

「そうじゃないよ、考えが浅いってんだ。良いか、英語で勝つ事をウィンって言うらしい。Win-Winとか言うだろう」

「言わないけど、聞いた事はあるね」

「スポーツなんだから、勝ちたい気持ちがあるだろう。だとすりゃ、ウィンターのウィンは季節とは関係ない。つまり、冬はターだ」

「なるほど、ターかい」

「次に春だが、夏に春の夢を見るというのはちょっとおかしい」

「なんでだい?」

「夏の前が春だからだよ」

「でも本来、夢は過去の記憶の整理の側面もあるじゃないか」

「リアルよりリアリティだ。物語は、先への興味を持たせるものだ。さもなければ、途中で飽きられてしまう。夏に過ぎ去った春の夢の事を歌っても誰も興味を持たないだろう」

「そうかな」

「考えてみな、クリスマスの当日には、おせち食材が売られ始めるだろう」

「チューブの歌はスーパーの食材かい?」

「売り物という意味では同じさ。だとして、消去法で何が残る?」

「……秋だね」

「そう。だから、サマーは秋なんだ」

「じゃあ、サマーになって来たたぁ、どういうこったい?」

「仕事に慣れてサマーに、つまりあき始める頃だから、気をつけろってんだよ。商いは飽きないてぇぐらいだ。一層頑張って励めよ」

「分かったよおとったん!」

【完】




『赤ん坊』


「ねえおじさん」

「なんだ与太郎」

「前に列車に乗ったら、赤ん坊が泣いててうるさかったんだよ。あれはどうしたら良いのかな」

「あのな与太郎、赤ん坊というのは泣くのが仕事なんだ。未来を担う者が元気に鳴き声を上げる、こりゃあ結構な事じゃあないか」

「なるほど」


「ええと、職場の上司の方?」

「まあ親戚でもありますが、父親の方もまあ同じ感じなんで……お世話になりました。でも一体どうして」

「サボっていたから仕事をさせた、とか何とか意味の分からない供述をしておりましたが」

「申し訳ございません、施設への手続きは終わってますので、へえ」

【完】




『議員・与太郎(与党の与ではありません)』


「おい与太郎、今度の税制はどういうこったい」

「ああ、おとったん、NISAって株式投資がなんか流行っててお金が集まってるっていうから、課税対象にしたんだよ」

「そういうことだからお前はおめでたいってんだ」

「えへへ、ありがとう」

「褒めちゃいないよ。馬鹿な事をするなと言ってるんだ」

「えー、じゃあどうすれば良いの?」

「社会保険料に消費税をかけろ!」

【完】




『はがし』


「ねえおとったん」

「なんだ与太郎」

「けんこうこつはがしってお店を見たよ」

「へえ、最近はそういう店があるんだな」

「けんこうこつたぁなんだい。徒然なるままにその日を暮らしたり、硯に向かって意味の無いことを書き散らしたりする硬骨漢かい?」

「こうが二度使われてるじゃねえか」

「GOTOで戻ってもう一回使う事で、コードをすっきりさせるんだよ」

「無限ループじゃねえか。けんこうこつてぇのは、文字にすると肩甲骨だな。人で言うと、この背中の二つ出っ張ってるところだな。これを剥がすっていうんだから、腕をこう、逆に引っ張って引きちぎるんだろうな」

「怖いね、だとすると殺し屋かね?」

「だからお前は馬鹿なんだよ。そんな訳事をしたらお縄だよ」

「縄でどうする、縄跳びかい」

「警察に掴まって縄で繋がれるって意味だよ」

「えっ、最近の警察ってのは、牢屋に入れるんじゃなくて縄で繋ぐのかい。人間扱いじゃあないね、虐待にはならないかい?」

「そうそこだ。これは人間の事じゃあないんだと思う」

「人間じゃあない?」

「肩甲骨のようなところを剥がす事が商売、これはもう、フライドチキンしかないだろう」

「あああっ! そ、そうか、ウィングを根元から引き毟る様は、まさに肩甲骨剥がし!」

「妖鳥シレーヌだとちょっと違う位置になってしまうが、ここは輪島市ではないから大丈夫だ」

「なあるほど、流石はおとったんだね、カメの甲より歳の功だ」

「よせやい、照れるじゃねえか」

「でもおとったん、カメの甲羅ってのは、歳を取るのと何か釣り合う事があるのかね?」

「そうさな与太郎、歳を取れば色々な厄介ごとを逃れる力が付いて来る。その力は甲羅にこもったカメよりも強いという事だろうな」

「でも、この前、スッポンが自転車に轢かれて潰れてたよ。そんなのより強いのは当たり前じゃあないの?」

「ばかだな、スッポンなんてのは高価な割に甲羅が柔らかく弱いものだ。もっと強い、ウミガメやゾウガメ、アーケロンなんか、とてもお前には勝てまい?」

「そりゃあ無理だね。ゴリラぐらいのパワーが必要だ」

「だが、年の功があれば、ハンマーを使ったり、自動車で轢いたり出来るのだ。つまり、年の功はほぼゴリラだ」

「なあるほど、おとったんの筋肉はゴリラ、牙はオオカミ、そして燃える瞳は原始の炎なんだね!」


「いらっしゃいませ、ケンタッキーフライドチキンへようこそ!」

「肩甲骨はがしを頼むよ」

「支払いは、暴力だ!」

【完】




『万全の対策』


「おい与太郎、何をしてるんだい? 刀なんて下げて」

「あっ、おとったん。んとね、あたいね、テロに襲われて死ぬのが嫌だから、武装してるんだよ」

「馬鹿だなお前は」

「えへへありがとう」

「褒めちゃいないよ。そんな刀でテロに対抗出来るもんか。核ミサイルを買って来なさい」

【完】




『与太郎首相』


「おう与太郎、どうしたい? M16アサルトライフルなんて持って?」

「うん、おとったん、愛国心を持たない奴らがいるからね、これで銃殺しようと思ってるんだ」

「おめでたいヤツだな、お前は」

「えへへ、ありがとう」

「褒めちゃいないよ。楽に殺したって、国民は反発するだけだよ」

「そっか」

「ギロチン台持って来な!」

【完】




『与太郎首相2』


「おう与太郎、どうしたい? M16アサルトライフルなんて持って?」

「うん、おとったん、愛国心を持たない奴らがいるからね、これで銃殺しようと思ってるんだ」

「おめでたいヤツだな、お前は」

「えへへ、ありがとう」

「褒めちゃいないよ。殺したって、国民は反発するだけだよ」

「そっか」

「家族を殺すって脅してみな」

【完】




『与太郎首相3』


「おう、与太郎、どうしたい、指導要領なんて持って?」

「うん、おとったん。国家に服従しない奴らを子供のうちから思想統制しようと思って」

「おめでたいヤツだね、お前は」

「えへへ、ありがとう」

「褒めちゃいないよ。んな事するまでもなく、国民の大多数は犬よりも従順じゃないか」

【完】




『与太郎大統領』


「おう、与太、どうした? トマホークなんて持って?」

「うん、おとったん。イラクが気に入らないからね、丸焼きにする事にしたんだ」

「馬鹿だな、そんな事したら総スカンだぞ」

「ええ、そうかなぁ?」

「そういう時は『奴らが大量破壊兵器を持ってる』とか理由を付けるもんだ」

「でも、持ってないよ?」

「持ってるから持ってるんだよ。そう言っときゃいいんだ!」

【完】




『駄作』


「与太郎、何だよこの小説は? オチもなければ山もない、主人公が独り語りで悶々として、最後に死ぬだけじゃないか」

「でも、純文学だよ?」

「ああ……そう、なら良いけど」

【完】




『馬鹿親子』


「おい与太郎、物干竿なんかふりまわして、なにやってんだ」

「うん、おとったん。あんまりお星様がキレイだから、とろうと思ってるんだ」

「バカだな、そんなので取れるかい! 屋根へ上がりなよ!」


「おとったん、屋根でも取れないねぇ」

「そうだな、もっと高いところ……そうだ、町内会長の家が三階建てだったぞ」


「おとったん、届かないねぇ」

「よし、駅前のビルに行くぞ」


「おとったん、まだ遠いみたいだよ」

「高層マンションだ!」


「ダメだよおとったん、全然届かないよ」

「東京タワーだ!」


「ダメだよぅ、届かないよお!」

「うーむ、うーむ、そうだな、それは、それはだなぁ……」


「――きっかけと言えば、それがきっかけでしたね」

 宇宙飛行士は遠い目をして笑った。

【完】


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