Justice!
正義である。
「そう、正義である」
それは正義?
「そう、これは正義」
君は本当に正義?
「そう、僕は本当に正義」
そう。なら、なにもいうことはない・・・・・
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夕暮れ。
赤い空。紫の雲。
僕は一人で眺めていた。
空気がぴんと張っていて、とても寒いある日のこと。
公園のベンチで僕はただ空をじっと見つめていた。
落ち葉がひらひらと僕のひざに舞落ちてきて僕はそれを手に取った。
しわがれたくちゃくちゃとした黄色い、いや茶色い葉っぱ。
それはなぜか僕に、おばあさんの手を連想させた。
その葉っぱをくるくると軸を持ってまわしていた。
ところどころ穴があいていて、僕はふとその穴をのぞいてみた。
カメラのファインダーから見る風景のように、葉っぱは僕から真ん中以外の視野を奪った。
かすかにぼやけて見える向こう側に僕は感動した。
なぜか感動したし、涙が出てきた。
公園には誰もいない。
葉っぱの向こう側には人が見える。
それは、幻か?
否。
たしかに存在すると思われる。
自分はそれを他者であるという認識をした。
自分の周りと、自分の世界の感覚の還元を試みた。
色、音、触角、嗅覚、ありとあらゆる感覚というものを僕は捉えなおしてみた。
実在するのは、たしか?だが、映る場合と映らない場合があるのはなぜだろか?
急に、葉っぱの向こうの影の存在が僕の正義を問う。
「それは、たしかに正義?」
「ああ、たしかに正義だ」
「でも、彼は何もしていない」
「いや、彼は俺の幸福を奪ったんだ!」
「それは本当にそうなのか?」
「も、もちろんだ!!だって、だって彼がそう言ったのだから!!!」
「自白は信頼に値するものなのか?」
「・・・」
「科学的な根拠も動機の裏付けも方法の検証もしていないではないか。君はつまるところ彼を*すことで自分の正当性、自分の存在を、自分の抑えきれない衝動を発散したかっただけではないのか?少なくとも客観的にみて異常なのは君のほうだ」
「・・・・・・・・」
「そこに、正義の可能性はあるのか?」
「・・・・・」
本当はそんなことわかっている。でも、でもどうしようもなかったんだ。このままでは僕は一生姿の見えぬ亡霊と闘っていかなければならなかったから・・・
僕にはアレが恐くてたまらなかった。
アレはどこにでもあって、アレは実体のない実態だった。
たしかに、僕は逃げたかもしれない。でも、今まで闘ってきたんだ。
独りで、そして僕は耐えてきた。
いくら耐えても、いくら時間が経ってもアレはそこにあって、アレは僕に苦痛を与え続けた。
そしてその間、誰も助けてはくれなかった。
助けを請わなかったから?
いや、それはない。
なぜなら誰から見ても僕は普通じゃない精神状態だとわかったはずだからだ。
それで、それで僕はもう追い詰められていた。
「し、しかたなかったんだ。ああ、しかったなかったんだとも」
「それが、そんなことが許されるとでも?」
「・・・」
「君は、知っているはず。君のしたことは正義ではなく罪であると」
「・・・そ、そんなことはない・・・はず」
「何人も現実からは逃げられない。現実には逆らえない。君が今すべきことは現実を受け入れ、次の現実を受けいれること」
「・・・・受け入れてるよ!そんなの!!!ぼ、ぼくはこんな理不尽な社会でたった独りだと受け入れてるよ!!」
「それは幻想だ。君は決して独りではないし、理不尽ではない。そして、だからこそ君は次の現実をうけなければならない」
「そ、そんな・・・僕が独りじゃないなんて・・・そんな、じゃあ僕は今までいったい何と闘ってきたんだ?」
「君は、君の幻想と闘ってきただけだよ」
「・・・・そんな。・・・・・そっか。あれはすべて幻想、だったのか」
僕にはなぜかそれが真実である気がしていた。
「そう、そして次に進みなさい」
淡々と語る口調に僕は戸惑ったままだった。
「・・・・。次ってなんだい?」
かろうじて聞きたいことを口にした。
「罪のあとには、罰がある」
「・・・・・そうか今度は僕がうけるべきなんだね」
「そう、それがひとつの道。道は選択できる。もし、君が違う道を歩きたいなら君はそうすればいい。もし、君が道を迷うなら彷徨えばいい。もし、君がこの現実を破棄したいなら君はここで死ねばいい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、か」
「それで、君はどうする?」
「それでも僕は、僕の正義を貫き通すよ!」
もう、僕にはそれしか何もないんだ。だから僕はこのまま逝くしかない。
「・・・そう、あわれな傀儡。ではその選択をわたしは見届けて。そしてわたしはあなたの未来を奪う」
「ああ、ありがとう、できればもっと早くに君に会いたかった」
「・・・そう」
「ありがとう僕の死。ありがとう」
「それではそれでは夢に墜ちなさい」