Time logic ***1
サン・ぺルムから歩いて15分のマーガルス広場に位置した家。
それが私の家。3階建てでレンガ造りで大きな窓が特徴のおしゃれな家。
私はとても気に入っている。
窓からは広場が見えて、広場の中心には噴水があって子どもたちがはしゃいでいる。
こんなに暑い日は私も水場で遊びたいと思ってしまう。
エンテンペオからもう2年も過ぎた。
と、嫌なことを思い出してしまった。
私は気を紛らわすために外に出て、噴水の近くのベンチに腰を下ろすことにした。
強い日差しが容赦なく照りつける昼下がり。
子どもたちのはしゃぐ声を聞きながら一人ぼーっとしているのだった。
ここは幸い木陰になっていて、風が吹くととても心地がよい。
そうしているうちに私はいつしか寝てしまっていたのだった。
目を覚ますと、そこは荒涼なる大地にある月の見える丘の上。
・・・・・月が・・・近い。
私は理解できないことを生じた。
ここはどこだろうか?見たことがない風景だ。
もし、ここが異世界であるのならここはあまりにも私の世界と違う。それは、なぜかというと生物の気配がしないのだ。空気も凍りついている。まるで私がこの世界でただ一人の生物のようだ。もし、それが本当だとしたら私には何もない。私は焦った。ここはどこでなのか?そしてなぜ生物の気配がしないのか?
でも、私はいる。
それは矛盾?
それは道化?
それは惨め?
私はこの世界にいる。
でも私は誰で何をしたいの?
あの噴水はどこにあるの?
子どもはどこにいるの?
ねえ、教えてよ。
・・・だれか・・・
私の・・・・私の家はどこ?
ふと、空を見上げた。
テキーラを持った月が嗤いながらこちらを見ている。
「やあ君は新しいね。そしてとても古い。それがまた素晴らしい」
「・・・・あなたはなに?月?月がなぜ話すの?」
「月が話しちゃいけないなんてルールはないだろ?」
「それは・・・・・そうだけれど・・・・・・」
私はおかしくなってしまったのか?月と会話しているなんて。
でも話せるのならここはその異常は見逃してもっと大きな異常の手掛かりを知るのが先決だ。
「ねえ、教えてよ。ここはどこなの?」
月はグラスを傾けながら「それは君が知っている」
と言った。
構わず私は質問を続けた。
「ねえ、教えてよ。あなたは誰?」
「月」
「ねえ、教えてよ。私の家はどこ?」
「君がいる。そして生きている。それが答え。君の家はここにあるかもしれないし、ないかもしれない」
「ねえ、私はいったいどうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・それは今から君が確かめるべきこと」
と言って月はテキーラを口に含んで一気に飲み干した。
「ほら、見て御覧。あれが、永遠の約束。叶わない夢。儚い願望。届かない場所」
月は酒に酔ったのか突然意味のわからないことを言い始めた。
「そして、このものがたりはここでおわるべきなんだ」
突然男の声が聞こえた。
「やあ、青年。また会ったね。今日は月がきれいだよ」
くっくっくと嗤いながら月が話す。まったく月が月がきれいなんていうなんてどういうことなの?
「やあ、月。また会ったね。今日はお客さんがいるようだね」
くっくっくと笑いながら男の声が話す。いったい誰なのだろうか?
「ちょっと、あなた姿を見せないさいよ。レディーの前に姿を現さないで話をするってどこの常識しらずなの?」
「ははは、すまない。つい、癖と言うべきかな?私はそんなつもりはなかったんだが・・・
おっと、すまない。時間だ。では私はこれでお嬢さん」
といって男の声が遠ざかっていく気がした。
「ちょ!待ってよ。あなた、聞きたいことがこっちは山ほどあるのよ!!」
という私の声は空しく空に響いた。
「はっはっはー相変わらずなやつだな。お嬢さん、あいつのかわりにこの月が、あなたの質問にこたえましょう」
と、テキーラのグラスを傾けながら言われてもなんとも言えない気分だ。
でも、まあ状況を確認する必要はあるし、それでは聞いてみようかしら。
「ねえ、さっきの男は誰なの?」
さっそく気になったことを聞いてみた。もうこうなったら私の世界のことなど考えていてもしかたがないと思ったのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
月は何も答えない。
「ちょっと、あの男のかわりに質問に答えてくれるんじゃなかったの?」
「・・・ああ、そうだね。少しびっくりしてしまってさ。てっきりこの世界はどこ?とか聞くと思ったから。」
「・・・たしかにそのことも気になるのだけれどなぜかさっきの人が気になるのよね、なんていうかなつかしい?というか」
「できればその質問以外にしてくれるかな?こちらにも回答があるものとないものがあるんだ」
親しそうに話していたくせに回答がないってどういうことよ?と思いながらも従うことにした。
「じゃあ・・・さ。もう一度聞くんだけれど、ココはどこ?」
「そうだね。君は世界は一つだと思うかい?」
「なにを唐突に?世界は世界でひとつでしょ?」
「では、もしそれが違う、と言ったら君は信じる?」
「え?どういうこと?世界は一つではないってこと?でも、それはいったいどういうこと?
世界って世界の世界だよね?」
「そう、世界は世界。たぶん君の想像するものと違うものだと思うが紛れもなく世界は世界だ」
「私が考えているのと違うの?それはどういうこと?」
「世界。君はきっと地図を思い浮かべてだろう。そして、地球を思い浮かべただろう?」
「ええ、そうよ。それが世界でしょ?」
「たしかにそれは世界だ。でも、それはあくまで外部状況の世界だ。世界はそれだけではない。内側にもあるんだ。そして君が今いるのがまさしくその内側ってことさ」
「・・・・・・・・・??????」
まったく私にはわけがわからなかった。月はなにを言っているのか?世界は外部の状況で世界はほかに内側にもある?ってどういうこと?
「じっくり考えるといい。時間はたっぷりある」
そして月は嗤った。