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愛は世界を救うのか?
階段を駆け上り見上げた空は、赤茶けた錆びた鉄のような色で、どこか艶めかしくて、そして気持ち悪かった。
肺の奥からこみ上げてくる何かと、腹の奥底から逆流してくる何かによって、息をすることが困難になった。
このまま世界は色を失って、カタチも失って、だから自分も消えていくのだ思った。
夢は夢でしかなかったが、リアルの自分はちぐはぐなパッチワークで、そして縫い目が粗い人形だった。
僕の目はきっと、真っ黒いボタンで僕の口はきっと別の何かのピンク色をした布だった。
鼻は中に綿が詰まっている布で、体もそうだった。
蝶の夢を見た。
舞い踊る。
花に誘われて蜜を吸い、花粉を運んでいく。
苦い、そう苦い。
次は甘い、甘い、そう甘い蜜。
飛んで跳ねて、そして糸に絡まる。
蝶は初めて、不自由をしった。
空がどこまでも遠くて、砂時計の砂が、ゆっくりゆっくりと終わりに向けて落ちていく。
さらさらと落ちていく砂。
さらさらと落ちていく翅。
さらさらと流れおちていく時間。
糸の主が戻るまでの時間は、どうにも不慣れなせいか、とても長く感じるのだった。
幻だ。
きっと幻だ。
すべて夢で、この夢から覚めたら、また自由に飛びまわれるんだ。
近づく影。
軋むカラダ。
翅はもう、とっくに捥がれていたのだった。
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「ねえ、母さん。どこにいったの?」
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群青色、紫、蒼、灰色、黒。
赤褐色、黄土色、薄紫、茶褐色。
混濁したから、くすんでしまった。
色は輝きを失った。
それでも、彼は混ぜた。
「あれから、また新しい時代が来ると、繰ると」
「やあ、君はそうか、君が…」
ラインの外にある月。
欠けた世界。
止まらない。
それは止まらない。
「やつらが来る」
「なぜだっ!貴様、なぜ裏切った」
「私は裏切ってなどいない。ただ、君はそこまでの人間であったということだ」
「き、貴様っ!情報を売ったな!!」
「人聞きの悪い。私はただ、情報を貨幣に変換しただけですよ」
「…ぐっ。また、またいずれ会おう。次会うときは貴様を必ずおくってやろう」
「ははは。それはとても頼もしい。ぜひお願いしますよ」
手のひらから砂が流れ落ちた。
さらさらとさらさらと。
旅立ちと運命と人間。