白い砂
消すかもしれません。修正するかもしれません。
土臭いにおいがした。
辺りを一面覆うほど強烈な臭いだった。
しかし、少年はたいして気にしなかった。
いや、気にしている余裕もなかった。
いくつもの欠片を胸に抱えて少年はただひたすら走った。
目的地は決めていなった。いや、決められなかった。
少年には迷いが多すぎた。
そのいくつもの欠片が結果として彼の邪魔をして決断がなかなかできなかった。
彼は自分の2本の手に、持てるだけのものを持っていた。
彼の両手はそれらでいっぱいだったから彼は目の前をチャンスが通り過ぎても、ただそれを見過ごすしかなかった。
少年には夢があった。
しかし、その夢は今の少年には手の届かないところにあり、そして同じ時期に少年を襲った不幸があった。
それでも少年は負けなかった。
必死に努力した。
生きていくために努力しようと努力した。
一度は生きていくために努力しようとした、けれど少年にはその先が見えなかった。
そこにさきほどの不幸が重なって、少年は立ち止まらざるを得なかった。
少年はわけがわからなくなっていた。
自暴自棄になっていた。
少年は絶望した。
深く絶望した。
ただでさえ叶うまでに時間がかかるものが、もっと遠くにいってしまったのだから。
光の中を少年は走った。
家から出てすぐの道を全力で走った。
それは彼の彼の運命に対する必死の抵抗で、けれどもそれはあっさりと官憲によって潰えてしまった。
少年は親元に帰された。
そして、少年はまた家を抜けだした。
なぜなら、その家に彼の夢はなかったのだ。
彼の夢は大きく、そしてその家の中では抑えきれないほどのものであった。
彼の両親は最初、彼を学者にしようと苦心した。
けれども、彼の相当な抵抗を受けてそのことはあきらめざるを得なかった。
しかし、それで少年が自由になれたわけではなかった。
彼は一人苦悩した。
なぜ、自分はこんなにも苦しまなくてはならないのか、と。
初め、彼は神に縋ろうとした。
神のことを学び、熱心に念仏を唱えたりした。
けれども神はいなかった。
いや、昔はいたのかもしれないが彼の前に現れた神はすでに死んでいたのだった。
彼はそのことを知り再びショックを受けて自分の殻に籠った。
そして彼は絶望した。
彼は神に絶望した。
そして彼自身にも絶望した。
自分は救われない人間であるのだと絶望した。
絶望しても絶望しても尚、生にこだわり続ける自分に絶望した。
ああ、なんと自分というものは自己中心的な生き物で、ましては怠惰であり、自分でなんら努力をしようとしないままに神と言う法外な存在に頼り、その結果神はいたのに死んでいたくらいで絶望し、その上でもまだこうして生きている。
なんと、人間とは自分勝手な生き物であるのか、と彼は独白した。
神に独白した。
彼は気が少し楽になったような気がした。
1月のある日、木漏れ日が差し込むような比較的暖かな日。
彼は静かに決意を固めた。
これからは、自分で自分の人生をつくり、そして生きよう。
精一杯生きよう。
泥臭くても汗臭くてもいい。
自分にしかできない、自分だけの人生というものを生きてみようじゃないか。
せっかくこの世に生まれ落ちたのだから。
木漏れ日が彼を強く照らし出していた。
彼の右手には一握りの真っ白い砂が握られていた。
短くても投稿することにしました。