夢
音が、音が重さになってくる。
夢は幻、夢は現。
夢は夢。
夢は人生。
夢は人間。
夢は月日。
夢は他人で、その夢はその夢は。
夢の向こうに人の夢。
人の世界に人の夢。
ああ、こんなにも広い世界で僕は。
僕はケチャップをトマトでつくったんだ。
ああ、トマトでつくったんだ。
え、なんでだって?
だってケチャップなんだから、ケチャップってトマトからつくるものでしょう?
僕は何も、何もおかしなことは言っちゃいないよ。
ただ、結果だけ言ったんだ。
過程だって?
過程なんて知らないさ。
理由だって?
理由なんてゴミ箱に捨てちまったよ。
そんなもの犬も食いはしないよ。
それは言うんだ。
僕に言うんだ。
大事なのはね。
原因と結果。
そう、そうなんだ。
え?なんだって矛盾してるって?
どこがだい?
もう、僕にはわからないよ。
いや、前からそうだったんだ。
そう、何もね。
何もかもが向こう側なんだ。
そう、だから。
僕の側にあって、僕が手に取れるのは結果しかないんだ。
ああ、そうだな。
ケチャップはおいしいよ。
ああ、僕はとても好きだ。
なんてったってトマトで、あのトマトでできているからね。
そう、トマトなんだよ。
そう、あのトマトなんだ。
朝から頭痛がした。頭の中には意味のわからない図形やら言葉がずっと浮かんでいた。
水でも飲めば少しはよくなるかと思い、私は重い体をベッドから起こしキッチンに向かった。
ふらふらとおぼつかない足取りでキッチンに向かう私。
朝の日差しが窓を半分ほど覆っているカーテンの隙間から差し込んでひどくまぶしかった。
覚醒しきっていない私の頭は、ふと私になにを思ったのだろうか。
私をキッチンではなくベランダへと向かわせた。
階段を下りずに自室に戻った私は、パジャマ姿で窓を開けて外に出る。
外を吹く1月の風は、思ったよりも冷たく、そして私の心身からすさまじい勢いで熱を奪っていった。
私は奪われていく熱を感じながら、頭で理解しながら動けなくなった。
私の体はすでに私の命令を受けつけてはいなかった。
私はそのまま枯れた。
枯渇した。
私の存在が、理性が枯渇していた。
急速に冷えていく、私の心身と頭。
そして私の意識は、砂漠に咲くサボテンの花のように、一瞬だけきれいな花を咲かせてそのまま地へと落ちて行った。
ああ、無常。
そこには普通なんて、一般なんて、平均なんて、まして平等なんてものは何一つなかった。
いつまでか、いつからか。
人の不平等の起源は人の起源からだったのではならだろうかと、思うようになったのは。
そして、そのまま。
月日は流れていくだろう。
私がいたこともやがて人は忘れていく。
私が残したこともすべて埋もれていく。
肥やしにすらならないかもしれない。
最後に気になったことは、私の熱は、いったいどこに放出されてしまったのだろうか。
そして、その熱はどうなるのだろうかと。
ハムよりもベーコン。