加速
誤字脱字、感想等ありましたらよろしくお願いします。
加速する。ただ加速する。
器には許容することができないほどの加速。
加速する。
風をきる。
全身に感じる。
我、ここにあり。
故に我、ここになし。
ここにあるのが観測された時には我はもうここにはいない。
加速。
とてつもない加速。
加速する。
残像の中に人は光をみる。
遠い世界の違う話。
今からそれを始めよう。
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「アナスタシア~!」
城の中に声が響く。
「おい、アナスタシア一体どうしたというのだ?」
返答がなくても男は続ける。
アナスタシア、と呼ばれた女の子は現在部屋にこもっている。
「・・・もう!嫌いよ!兄さんなんて!!」
そんな声が部屋の中から聞こえてくる。
「ちょっと、落ち着けってアナスタシア。どうしたのだ?話し会えばわかるはずだ」
「嫌よ!兄さんなんて大っ嫌いよ!!!」
兄さんと呼ばれた青年は困った。
実はこれから彼は、隣のアルカディアで行われる賢人会議に出席しなければならないのだ。が、そのことを妹のアナスタシアに伝えた途端にこの有り様だ。
「なあ、アナスタシア。もう行かなくてはいけないんだ。頼むから返してくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
部屋の中からは無言がかえってきた。
うーーーん。なにかマズイことを言ってしまったのだろうか?
ウォーロックは考える。
そしてひとつの考えにたどり着く。もしかしてアナスタシアも行きたいのか?と。
このままでは埒が明かないので、思いついた先ほどのことを言ってみる。
「・・・なあ、アナスタシアも一緒に行くかい?」
「え!」
中から声が聞こえた。その声は驚いているようだった。
”一緒に”!?
アナスタシアは考えた。
そしてすぐに。
「し、しかたないですね。に、兄さんがそのようにおっしゃるなら・・」
ウォーロックは内心。よかったこれで会議に間に合う、と考えていたが、一方でアナスタシアというと『やっぱり兄さんには私が必要なんだわ』と勝手な解釈をしていた。
そのころアルカディアではちょっとした事件が起きていた。
昨晩に何者かが賢人会所有の会議室もとい、グランコートに忍び込んだらしいのだ。
らしい、というのは強化の魔法で固定されていた城門の鍵が破壊されていたからわかったのである。
それでも、特に盗まれたものなどなく。さらに城門の鍵以外に破壊された形跡もなかったので今日の会議は予定通りに行われることになった。
「特に盗まれたものもないですし、たぶんイタズラですね。きっと自分の魔法の腕を試したくてやったのでしょう。それで何回もやっているうちに壊れてしまった、と。だから慌てて逃げたのでしょう?そうでしょうゼアス高等審議官」
「うむ、たしかにそう考えるのが妥当じゃな」
しかし、心の中で高等審議官のゼアスは疑問に思っていた。
『グランコートに忍びこむとはなかなかの魔法の使い手に違いない。なぜならあの城門の鍵は大魔法使いのウェスレス代行によってつくられたものだ。それになにも盗られていないというのも妙だ。たしかにあそこには特に価値のあるものはないが、大皇帝の憲章がある。それが盗られていないのは妙だ。売れば数億はするはずだ』と。
それから会議に行くための準備(主に衣服や食糧)をして、無事に支度が整ったので出発しようと馬車に乗り込んだ。アナスタシアは、と言うとすでに馬車の中だ。
しかし、そこで「お、お待ちくださいウォーロック様。これをお持ちください」
黒い包みを渡された。
ウォーロックは「これはなんだ?」と問いただしたが、かえってきた返答は「困った時にきっと力となるでしょう」と言うだけで何も中身については教えてくれなかった。
「そうか、ありがとうルータス。それでは行ってくる」
「はい、どうかお気をつけて」
とルータスは深くおじぎをして彼らを見送った。