第三話 馬車の中
後半からは別の目線になっています。
神界から帰り目を開くと、馬車の天井とレティシアの顔が見えた。
「あ、エリシア。目が覚めた?」
「うん。・・・・・・って、もしかして俺今膝枕されてる?」
思わず目の前にいるレティシアにそう尋ねると、コクリと頷かれた。
「エリシアが目を閉じた後、馬車が跳ねた衝撃で倒れてきたの」
「悪い、迷惑かけたな」
「いいや、私がやりたかったやっただけだよ」
ニコニコと微笑むレティシアの顔から目を逸らしながら俺は起き上がった。
・・・レティシア。小さく「もう少しぐらい味わいたかった」って呟かないで。頼むから。
《そろそろガリアードに着くっスよ》
「ん?そうか。教えてくれてありがとな」
俺はそう言ってクロの頭を撫でた。
「なんだか懐かしく感じるな」
《そりゃあ、アルゲート領滞在中は色々と濃ゆい出来事があったっスからね》
「まぁ、そうだな」
俺は苦笑しながらクロの言葉に頷いた。
「さて、レイナ達は元気にしてるかな?」
俺は友人達との再会にワクワクと胸を弾ませたのだった。
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世界の果てにある荒廃した大地、そこに禍々しい気配を発する城があった。
その禍々しい城の主は城の奥にある部屋にて、様々な生物の骨で造られた玉座に腰掛け、目の前に跪く男からの報告を聞いていた。
「・・・・・・そうか。ヤルダバオートはあの吸血鬼の小娘を逃したか」
「はい、我が兄ながら相変わらず何を考えているのか分からない男です」
跪いた男に対して、玉座に腰掛けた男は「そうか」とだけ答えると、目を閉じた。
「それでは、私はこれで失礼します」
「ああ、引き続き憤怒の力を与えられた娘を監視してくれ、デーミウルゴス」
「はっ!」
跪いていた男・・・デーミウルゴスは、自身の主人よりの命を受け、その部屋から退出していった。そして、部屋には玉座に座る男しかいなくなった。
「・・・今度は憤怒の代替わり、か。色欲といい、嫉妬といい、皆、私だけを残して死んでしまった。初代のまま生き残っていたのは私と暴食だけ・・・か」
男はそう呟き、玉座から立ち上がった。
「古より生きる者として、『傲慢』の魔王として、我、ルシフェルが次代の憤怒の魔王として選ばれた娘がどの道を選ぶのか見届けよう」
男・・・ルシフェルはそう言ってニヤリと広角を歪めるのだった。




