第二話 怠惰の魔王
帰りの準備が済んだ俺達は王都ガリアード行きの馬車に乗った。俺は馬車に揺られながら、ふと、思い出したことがあった。
(そういえば、レティシアの称号に『次期魔王[憤怒]』ってあったよな。・・・これって俺の持つ『怠惰』に何か関係があるのか?)
俺は少し考えて、レティシアに尋ねた。
「なぁ、レティシアはどうやって憤怒のスキルを手に入れたんだ?」
「憤怒のスキル?えーっと確か・・・」
レティシアが思い出そうと視線を宙に彷徨わせた。そして、思い出したようで「ああ」と呟いた。
「ある日突然にステータスカードに記入されたんです」
「突然に?」
俺が尋ね返すと、レティシアは「ええ」と答えた。
「本当に突然、『憤怒』の能力と『次期魔王[憤怒]』の称号が記されてて、私も戸惑ったの」
「・・・そうか」
俺はレティシアに「ありがとう」とお礼を言った後、首飾りを取り出した。
(『神託』発動)
俺はそう頭の中で唱えて、目を閉じた。すると、俺の意識がスッと薄れていった。
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「いらっしゃいませ、エリシアさん」
「ああ、お邪魔させてもらうよ。エクリシオン」
神界に来た俺は目の前にいたエクリシオンにそう挨拶しながら片手を挙げた。
「なぁ、エクリシオン。俺の『怠惰』の力って魔王に関係するものなのか?」
俺がそう尋ねると、エクリシオンの動きが固まった。
「・・・気付いてしまったのですか」
「まぁ、レティシアの話を聞く分にはそう思うだろ?」
俺がそう言うと、エクリシオンは溜息を吐いた。
「ええ、その通りですよ」
エクリシオンはそう言って俺の疑問に肯定を示した。そして、
「貴方に渡した『怠惰』の力は嘗て怠惰の魔王と呼ばれた彼女、ベルフェゴールが持っていたものですよ」
エクリシオンは『怠惰の魔王』の名を出したのだった。
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「怠惰の魔王・・・だと?」
俺は驚きで思わず声を漏らした。
「ええ。しかし、これ以上の彼女に関する情報はまだ、貴方には明かせません」
そんな俺に対して、エクリシオンはこれ以上の情報を明かすことを拒絶した。
「何故だ?俺には知る権利があると思うが」
「如何してもですよ。しかし、これは貴方の為でもあることは確かです」
俺はそう言い切ったエクリシオンを見つめ、心を決めた。
「・・・分かった、なら今は聞かない」
「そうですか・・・」
俺の言葉を聞いたエクリシオンはそう言った。それに対して俺は「しかし!」と続けた。
「時が来たら教えてもらうからな」
「もちろん、そのつもりです」
「それなら良い。俺はもう帰る」
俺はそう言ってエクリシオンに背を向けた。その時には俺の体は崩れて形を失い、少しずつ消えていっていた。
「ああ、そうだエクリシオン」
「何でしょうか?」
俺はそこで背後を振り向き、エクリシオンに伝えた。
「あの時、スキルをくれてありがとうな。助かった」
俺がそこまで伝えた時に、俺の体が一際強く光り輝き、俺は神界から帰った。
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「・・・やはり、エリシアさんは彼女なんですね。日に日に似てきています」
私はエリシアさんが帰った後の神界でそう呟いた。
「・・・って、ああっ!?ヨーム様に伝えるのを忘れてました!」
私はしてしまった失敗に頭を抱えた。
「・・・まぁ、もう手遅れですし、逆に開き直るとしましょう」
私はそう独り呟き、そこを立ち去ったのでした。




