第三十三話 ヤルダバオート
しかし、一向に終わりの時は来なかった。私は少しずつ閉じていた目を開けると、そこにはヤルダバオートの手首をエリシアが掴んでいた。
「大丈夫、レティシア?」
「・・・えっ?」
ヤルダバオートの動きを防ぎながらエリシアは私にそう問いかけてきた。
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スーファから情報を得て、俺は『身体能力超上昇』と『加速』のスキルを使い、森から街までフルマラソンをした。お陰で『加速』のスキルのレベルが4まで上がった。
「・・・!見えた!既に襲われてる!」
『視覚強化』を使って屋敷の様子を見ると、兵士達はまだ気付いてないようだ。恐らく隠密・隠形系のスキルが使われているのだろう。
「仕方ない・・・『転移』!」
俺は空間魔法を唱えて悪魔のすぐ近くに転移し、悪魔の腕を捕まえた。
「大丈夫、レティシア?」
「・・・えっ?」
諦観してへたり込んでいたレティシアは目を見開いて呆然と俺を見た。
「少し下がっといて。・・・すぐに終わらせるから」
俺はそう言って悪魔を投げた。悪魔はボロボロのローブを翻しながら、投げられた先で姿勢を正し、着地した。
「直ぐに終わらせるとは・・・私も舐められたものですね。少しばかり不快・・・そう、不快なのですよ」
悪魔はそう言って俺が掴んでいた右腕を振った。
「まさか『聖法術』を使えるとは思いませんでしたが・・・。お陰で捕まっている間は動けませんでしたよ」
そう、悪魔の言う通り俺は腕を掴んでいる間に接触している間のみ発動する聖法術の拘束技の『封聖縛』を使っていた。
「では、名乗りましょう。私はヤルダバオート、憤怒の魔王に仕える悪魔で御座います」
「憤怒の魔王・・・ガミジンと一緒か」
「おや?彼を知っているのですか?」
俺の呟きを聞き取った悪魔・・・ヤルダバオートがそう尋ねてきた。
「ええ、私が倒して差し上げましたよ」
「成る程、通りでここ最近見かけない筈です。・・・しかし、まさか彼が倒されているとは」
「今から会いに行かせて差し上げますよ」
俺はそう言いながら剣を構えた。
「ふふふふふ・・・。ふざけないで下さい」
ヤルダバオートのローブの奥の目が赤く光り輝いた。
「では、貴女も死になさい」
「お断りです。貴方が死んで下さいませ」
ガキンッ!
そして次の瞬間、俺の剣とヤルダバオートの爪が火花を散らして交差した。
これが、俺とヤルダバオートの戦いの幕開けだった。




