第三十二話 先に言え!
「・・・これでハンター共は潰せたな」
俺はハンターの死体を見ながらそう呟いた。俺は『聖法術』を使い、アンデッドに変化しないように死体を浄化した。
「それじゃあ、『クロ、ロウキー、スーファ。そろそろ撤収するぞ』」
俺は念話を使って離れた場所にいるクロ達にそう言うと、『加速』を使って素早く森を抜けだすのだった。
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「よお、お疲れさん」
《お疲れ様っス!》
《嬢ちゃん達がしっかり潰してくれたお陰で、俺の方に逃げてきた奴は居なかったぜ》
既に集まっていたクロとロウキーに労いの言葉を投げかけると、それぞれの反応を示した。
《あれぇ〜?もしかしてボクが一番最後だったのぉ?》
「あ、スーファ。お疲れ」
《お疲れぇ。あ、そうだご主人様ぁ》
「ん?どうした?」
声をあげたスーファに尋ねるとスーファは驚きの話をした。
《ボクねぇ、対象の記憶を盗み見る能力を持ってるんだけどねぇ》
「ほうほう、それで?」
《ハンター達に何かあったら悪魔が吸血鬼の娘を殺すって作戦なんだってぇ。・・・って、どうしたのぉ?》
俺達が固まっているのに気付いたスーファが首を傾げた。俺達はスーファに声を揃えて怒鳴った。
「《《それを先に言えー!!!》》」
そして俺達は大慌てで街へと向かうのだった。
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「エリシアは無事かな」
私は窓辺に座り、遠くの森で出会ったばかりの私の為に戦っている彼女の事を思い浮かべていた。
「・・・私は何で一人だけここに居るんだろう」
「その通り。貴女は何故に動こうとしないのでしょうか?」
「えっ?」
背後から突然聞こえた声に思わず振り向くと、そこには黒いボロボロのローブを纏った男ががいた。ローブの隙間から出ている蛇のような硬い鱗で覆われた細く鋭利な三又の尻尾。それは本来人には生えているはずのない物だ。
「悪魔・・・っ!」
「ええ、そうですよ。私の名前はヤルダバオート。憤怒の魔王の配下の一人ですよ」
「憤怒の魔王・・・?」
私は何故今は空席となっている憤怒の魔王の配下がここに居るのかが理解出来なかった。
「何でここに・・・?」
「何故?それは貴女が『憤怒』の力を得てしまったからですよ」
ヤルダバオートはそう言って鋭利な爪を伸ばした手をこちらに向けてきた。
「『シャドウアロー』!」
私は咄嗟に詠唱の短い攻撃魔法を唱えた。
「ほう?中々やるではないですか」
「しっかり防いでおいて何を言うんですか!」
私はバックステップで背後の窓を突き破り外に逃げ出した。
「ふふふ、やはり逃げ足は速いですね」
「それは褒めてないですよね!」
「褒めてますよ」
ローブの所為で見えないが、恐らくニヤニヤとした笑みを浮かべているのだろう。
「・・・では、そろそろ貴女には死んでもらいましょうか?私の爪は貴女の魂を切り裂きますので」
「・・・クッ!」
ヤルダバオートが爪を構えた。
「私達が敬愛する魔王サタン様復活の為には『憤怒』のスキルが必要です。故に、死んで下さい」
ヤルダバオートの爪が私に勢いよく迫り、私は「ああ、これで終わりか」と瞳を閉じたのだった。




