第三話 屋敷を出ました。
後半の部分はセバスさん目線です。
授業が終わり、寮の方も改修工事の対象になっているので、寮生は全員屋敷に帰ることになっている為、俺も屋敷に帰っていた。
「と、言うわけでアルゲート伯爵領にいくぞ、クロ」
《了解っス、主人殿》
月が雲間から覗く夜、自室で荷物を無限収納に詰め込みながら、俺はクロに休暇中の予定を告げた。クロはコクリと頷いてくれたので、少し満足げに俺は頷いた。
「実は伯爵領は北の方にあってな。結構遠いんだが、今回は特別な方法で行くつもりなんだよ。その為にセバスに町娘風の安い服を何着か買ってきてもらったんだよ」
《いや、その為って繋がり方がよく解らないっス》
俺の説明にクロは首を傾げたので、「お忍びをする」と言うと、クロは《おお、成る程っス》と納得した。
「じゃあ、明日の準備も出来たし寝るぞ」
俺はそう言ってベッドの中に入った。クロもベッドの中に潜り込んで、俺の胸元の辺りで丸くなり陣取った。
「おやすみ、クロ」
俺はクロにそうボソリと言うと眠ったのだった。
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日が昇り、澄み渡る快晴となった朝。俺は朝食をとった後、屋敷の門の前でセバスに見送られていた。
「・・・しかし、お嬢様一人で大丈夫なのですか?」
「安心しなさい、セバス。私が強いのは知っているでしょう?それにクロも居るのです。野盗や野良の畜生に負けるとでも?それに、料理スキルなども持っているので一人旅も十分出来ます」
「ですが・・・」
俺は不敵に微笑みながらセバスに言うが、それでもセバスは心配そうだった。しかし、これ以上留まっている時間も無い為、俺は不本意なスキルを発動した。
「はぁ・・・スキル『魅了』」
ピロリン!スキル『魅了』のLVが上がりました。
俺は『魅了』スキルを発動して、セバスの思考を鈍らせた。そして、セバスがポケーとなっている間に俺は屋敷から離れたのだった。
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「・・・私もまだまだ未熟ですね。本来なら一人で行くのを止めるべきなのですが」
私はお嬢様に『魅了』されていたフリをやめて、首を振った。
「しかし、お嬢様なら出来そうだと思ってしまうのは・・・これがジジバカ、と言うものでしょうか?・・・いえ、お嬢様にそのような感情を向けるのは不敬ですね」
私はそう言ってやれやれと首を振ると、手を鳴らした。
「・・・お呼びですか?」
私の背後にぬるりと姿を現した侍女に私は命じた。
「フェーレ、お嬢様を影ながらお守りしなさい」
「・・・分かりました」
フェーレは言葉短く返事をして、姿をまた消した。
「さて、次は坊っちゃまを起こさなければなりませんね」
私は次の仕事を口で呟いて確認し、やれやれと首を振ったのだった。
その後、お嬢様が一人単独で領地に向かったと聞いて叫んだ声が屋敷に響いたのだった。




