第十六話 陛下と初対面しました
俺が入った時の広間は少し静かだった。いつもは他の貴族達が並び、圧倒的な存在感を感じるであろう両側の座席には誰も座っておらず、騎士たちが通路を挟み並んでいるだけだった。
そして、その奥の、この場で最も高い位置にある豪華な椅子・・・玉座には、威厳がたっぷりとある白髪白髭の男性がいた。
「陛下、アルゲート伯爵家当主、オーラム・フォン・アルゲート及び、我が娘のエリシア・フォン・アルゲート。御身の前に馳せ参じました」
「・・・うむ」
父が頭をその男性へと下げた。そうあの男性こそが、この国、アストリア王国国王、ウィルフレッド・フォン・アストリア陛下なのである。
「しかし、そなたの娘は幼くとも美しいな。どうだ?儂の孫の嫁にしないか?」
げっ!国王様。それって所謂、拒否権の無い政略結婚ですか?
「陛下、ありがたい申し出なのですが、私の家は伯爵位、まだ、家格の高い家からお選びになってはどうでしょうか?」
「ふむ・・・アルゲート卿に娘を差し出すつもりがないのは分かった。残念ではあるが、ここは諦めよう」
良かった、どうやらこの話は流れた様だった。
「しかし、その娘がダークネスウルフを従えたのか?」
「ええ、・・・エリシア。今呼びなさい」
「はい、お父様」
俺は父の言葉に頷いて従魔術の一つを唱えた。
「『召喚:クロ』」
俺が呼び、現れたクロは
「キャン!」
子犬だった。
(クロ、ありがとな)
《いえいえ、主人殿の為ですから。肉料理一つで手を打ちましょう》
(・・・そこは無償だろ?)
《いやいや、お給金って奴っスよ。特別手当って奴っスよ》
(あ〜もう分かったから、帰ったらやるから)
《契約成立っスね》
(はいはい、そうっスね)
俺とクロが念話でコソコソと話をしている間に話は纏まったらしく、謁見の間を退出したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「・・・さて、エリシア」
「はい、何でしょうかお父様」
帰りの馬車の中で揺られながら父の呼ぶ声に反応すると、父は少し疲れた様に言葉を発した。
「エリシア。明日より二年後のデビュタントに向けて、学習してもらうぞ」
「・・・え?」
思わず聞き返すと、父はまた同じ言葉を繰り返した。
「えっと・・・何故?」
俺が疑問を言うと、父はまた疲れた様に答えた。
「今回の事で、お前は王族に目を付けられてしまった」
「えっ!?本当なんですかっ!」
「ああ、本当だ。だから、お前が恥をかかない様に、立派な淑女にしなければならないのだ」
「そ、そうですか・・・」
俺は朝から待っているであろう扱きについ、目を遠くしてしまうのだった。




