第十話 ダークネスウルフ
《ぎゃぁぁぁぁぁ!?》
俺は響く悲鳴を聴きながら、遠い目をしていた。
・・・どうしてこうなった。
俺は現実逃避気味に数時間前のことを思い出したのだった。
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・・・数時間前、俺は先日約束した(というかさせられた)為、街の外に遊びに出る準備を終わらしてレイナを待っていると、頑丈そうな馬車に乗ってレイナはやって来た。
「エリシア、乗って乗って!」
「分かりました。乗りますから手を引っ張らないでくださいレイナ様」
「あ、ごめん!」
レイナは謝罪した後、すぐに手を離し、そして嬉しそうに笑った。
「エリシア!今日は楽しもうね!」
「はい、楽しみましょう」
(こうなったらね)
俺は心の中で付け足して、微笑んだ。この心の声は悟られてはいけぬ!
ピロリン!スキル『ポーカーフェイス』を取得しました。
・・・また新スキルだよ。まぁ、使えそうだし良いかもね。
俺はそう結論付けた後、先程から疑問に思っていた事をレイナに尋ねた。
「ところで、この馬車は何処に向かっているのでしょうか?街の・・・王都の外だとは聞いていますが」
「あれ?行き先言ってなかったっけ?」
レイナはテヘヘと恥ずかしげに笑った後、答えた。
「今向かっているのは王都の北方に広がる草原だよ」
「北方に広がる草原・・・つまり、ウェルヤ平原ですか」
「うん、そうなるね」
俺の確認にレイナは頷くと、そこに向かう目的を答えた。
「でね、そのウェルヤ平原に行って、ピクニックをしようと思うんだ!」
レイナは楽しそうに言った。が、俺には一つの懸念材料があった。
「しかし、ウェルヤ平原の西側には魔物が多く巣食っているデゼアの森が広がっています。危険ではないのでしょうか?」
「何の為の護衛だと思っているの!それに、ウェルヤ平原に出てくる魔物は生存競争で省かれた弱者しかいないから大丈夫だよ」
レイナはフフンと自慢げに言う姿を微笑ましいと思いながら俺は、うすく感じる嫌な予感を振り払おうと軽く頭を振るのだった。
そして、ウェルヤ平原に到着した俺達は、メルアード公爵家の料理人さんが作ってくれた弁当に舌鼓を打ったり、咲き誇る花を摘んだレイナが花冠を俺に付けようとするのを俺が拒む攻防があったりと、随分と楽しんだ。そして「さぁ、帰ろう」となった時にソレは現れた。
「グルルルルゥ・・・」
「なっ!何でこんな所にダークネスウルフが居るんだ!」
ホルスタイン程の巨体を誇り、額に剣が如く鋭いツノを生やした黒い狼の姿を見た護衛の一人が驚愕に目を見開きながら叫んだ。確か、ダークネスウルフはCランクの魔物だった筈だ。
ちなみに、魔物のランクというのは冒険者組合が定めた危険度で、一番下はFで一番上はSまである。そして、Cランクはその中で、かなりの強さを誇るのだ。確かにそのCランクのダークネスウルフがウェルヤ平原に現れる事は異常と言える。
スキル『言語理解』が発動。ダークネスウルフの言葉を翻訳します。
・・・ちょっと待て、今、なんて言った?ダークネスウルフの言葉を翻訳するとか・・・
《ヒャッハー!?久々の獲物だぜ!飯を探しに平原まで来た甲斐があったぜ!》
・・・本当に翻訳されてる。というこか、餌を探しに来ただけなのかよ。そして、俺達を餌と認識していると・・・。迷惑だな!
ピロリン!スキル『ツッコミ』のLVが上がりました。
・・・そういやそんなスキルもあったな。すっかり忘れてた。って、今はそれよりも魔物の方に注意しないと!
俺は我に帰ると、慌てて魔物を見据えた。と、そこでは、護衛達が倒れ伏せ、その中の一人がダークネスウルフの角に腹を刺されている姿があった。