幕間 傲慢
時は遡りエリシア達がジェヴォーダンを封印して数日経った頃。世界の果てにある荒野にポツンと建つ、巨大な禍々しい城があった。
その城の上に巨立する摩天楼にあるバルコニーで、二人の男が話をしていた。
「・・・そうか、『憤怒』が目覚めたか」
「はい。そして、どうやらまだ覚醒しきってはいませんが、『怠惰』と共に居るようです」
「・・・『怠惰』、か」
何もない荒野を眺めていた男は、背後で跪きながら話す男の言葉の中にあったとある単語を呟いた。
「・・・どうかなされましたか?」
「・・・いや、何でもない」
荒野を眺めていた男・・・ルシフェルは、背後で跪いていた男・・・ガープの問いに、首を振ってはぐらかした。
ガープは首を傾げながらも、「では、これで」とだけ残し、そこから姿を消した。
ルシフェルは、ガープの気配が消えた事に気付きつつも、気にせずに一人呟いた。
「・・・『怠惰』、か。やっと貴女の意思を継ぐものが現れたのか?始まりの魔王、ベルフェゴール」
そして、一人暫く荒野を見つめていたルシフェルは、振り向いて一人の配下の名前を呼んだ。
「デーミウルゴス」
「お呼びでしょうか、ルシフェル様」
現れたのは、黒髪の短髪の、何処にでもいそうな風体の青年だった。しかし、その尾骶骨の辺りから、蛇などの爬虫類のような硬い鱗で覆われた細く鋭利な三又の尻尾を揺らめかせていた。
「新たに生まれた『憤怒の魔王』と、『怠惰』の因子を持つ娘に招待状を送れ」
「はっ!」
振り返る事なくルシフェルはデーミウルゴスへと命じた。デーミウルゴスはその命令に頷くと、先程までそこに居たガープと同じように姿を消した。
「・・・さて、新たな世代はどのような者達か、古き世代たる我が見極めようとするか」
そう呟いて摩天楼の中へ戻ろうと踵を返そうとしたルシフェルの脳裏に懐かしい記憶が蘇った。
「・・・『傲慢の力を持っていようが、傲慢ではなく、誇りを持つべきだ』・・・だったか。まったく、懐かしい記憶だな」
そう悪態をつきながらもルシフェルの顔には優しげな微笑みが浮かんでいた。
「・・・そう言えば、ベルフェゴールがいつも連れていた人族の娘は、一体どうなったのだったか?・・・いかんな、歳のせいか物忘れが激しくなっているか?」
そして、ルシフェルは改めて摩天楼の中へと戻るのだった。




