第十話 野良悪魔
「お久しぶりですね、エリシアさん?他の悪魔に聞きましたが、まさか、あのジェヴォーダンを再封印するとは・・・」
そう言ってヤルダバオートはクックックッと肩を震わせた。
「・・・もう一度聞く。何が目的でここに居るんだ!」
俺はチャキッと、剣を構え直しながら再度質問した。すると、ヤルダバオートは「おやおや、怖い顔をしますね」と、茶化す様に笑う。
「・・・まぁ別に教えてもいいでしょう。実はですね、我々の様に特定の魔王に仕えている悪魔では無い、所謂野良悪魔の一人が何やら企んでいるらしいのでね、その悪魔が私達の本拠地からあるものを盗んでいったので、それを追いかけてきたのですよ」
ヤルダバオートはそう言って「納得しましたか?」と気味の悪い笑みを浮かべたまま首を傾げる。
正直信用出来ないが、今の俺の背後には子供達が居る。今、ヤルダバオートと矛を交えようとするならば、俺は子供達を守りながらしなければならない。
しかし、ヤルダバオート相手ではそんな余裕を持ちながら戦う事は不可能だ。だから・・・。
「・・・分かった。信じましょう」
俺はそう言ってヤルダバオートに向けていた剣の切っ先を下ろした。
「ええ、賢明な判断が出来る様で私も安心しましたよ」
そう言ってヤルダバオートは貼り付けた様な笑顔を浮かべる。
「ですが、貴方が私達に手を出さないという確証はありません」
「嫌ですねぇ。私が悪魔だとしても、そんな無粋な真似はしませんよ」
そういうヤルダバオートはやれやれと首を横に降る。・・・やっぱり、なんかムカつく。
「・・・それで、貴方は私達に手を出しますか、出しませんか、どっちなんですか?」
「出しませんとも」
「何に誓って?」
「我らが敬愛する憤怒の魔王陛下に誓って」
ヤルダバオートは何の躊躇いも無しにそう言った。
俺は何故かは分からないが、憤怒の魔王に誓うと言ったヤルダバオートの言葉は信用出来ると思った。
だから俺は、「・・・その言葉、信じましょう」とヤルダバオートに言い、子供達を連れて外へと向かうのだった。
ピロリン!ユニークスキル『第六感』を取得しました。
「ふぅ〜・・・。無事に出れましたね」
俺は実に数時間ぶりの日光の眩しさに目を細めながら呟く。
俺の背後では、子供達が「外だ!」「出られたんだ!」と抱き合ったり、手を叩き合わせたりと喜びを分かち合っていた。
と、そこへ、
「あ、エリシア!」
騎士達を連れたレイナが居た。
「レイナ様!?」
俺は思わず声を上げてしまった。レイナはズンズンと俺に近寄ると、思いっきり抱きついてきた。
「もうっ!エリシアが誘拐されたって聞いて、心配したんだからね!!」
「レイナ様・・・」
目尻に涙を貯めるレイナに俺はジーンと、感動して、口を開こうとした。すると、それを遮ってレイナが言葉を続けた。
「もし、エリシアが我慢出来ずに奴らを皆殺しにしちゃったらと思うと、不安で不安で・・・」
「・・・へ?」
「エリシアを誘拐したのは『悪魔の指先』って言う巨大な裏組織でね、少しでも情報が欲しかったんだ。だから、エリシアが皆殺しちゃってたらと思うと・・・」
「・・・・・・」
「だから、良かったよ!!・・・て、あれ?エリシア?」
レイナは離れて俺を見て、首を傾げた。それもそうだろう。俺は俯き、ふるふると体を震わせているのだから。
「ど、どうしたの・・・?」
「・・・レイナ様、酷いです。流石の私もそんな事はしません!!」
俺は頬を膨らませ、そっぽを向いた。子供っぽいと笑いたくば笑え!
その後、レイナは大慌てで俺の機嫌を戻そうとして、それを側から見ていた子供達は笑っていたのだった。




