第九話 望まぬ再会
Side Another
アストリア王国王城の中にある騎士団長の執務室。そこでは、二人の男性が話し合いをしていた。
「・・・まさか、あの『悪魔殺しの英雄』殿が誘拐されるとは・・・」
パサッ、と手元にあった資料を細やかな彫刻と所々を金で装飾された、豪華な黒塗りの机の上に放りながら呟いたのは、精悍な顔つきの男性だ。服の上から判別出来るほどに鍛えられた肉体に、短く整えられた黒髪。口から出る声は落ち着いたバリトンボイスだ。
彼の名前はガルダード・フォン・ファルトリア。アストリア王国の騎士団長を務める強者だ。
・・・最近は、自分の子供ほどの年齢の、しかも少女達の武勇を耳にする度、対抗心をつい、燃やしてしまうのは彼だけの秘密だ。
「しかし何故、抵抗せずに誘拐されたのだろうか」
「団長。もしや、他に誘拐された子供たちを救うために、潜入したのでは?」
ガルダードの質問に答えたのは、銀髪の端麗な青年だった。彼は、騎士団のオカンこと、副騎士団長のレスティン・フォン・アースライド。凄腕の冒険者として名を馳せていたキャサリンことレオパルドの弟である。年齢は四十代を超えているはずなのに二十代後半にしか見えないと言う年齢詐欺師と呼ばれる事もある苦労人だ。
「・・・成る程、確かにその可能性もあるな」
「しかし、幾ら悪魔殺しを成し遂げていようとも彼女はまだ十二歳の令嬢です。任せっぱなしではマズイでしょう」
レスティンの言葉にガルダードは「・・・そうだな」と頷いた。そして立ち上がると、出口の扉に手を掛けた。
「騎士達に任務を伝える。俺は動けないから・・・レスティン、お前が指揮を取れ」
「はっ!!」
ガルダードの命令に、レスティンは敬礼をして答えるのだった。
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Sideエリシア
その後も、通路を進む途中で犯罪者を『魔糸生成』と『拘束』スキルで無力化していった。
・・・何回か、巫山戯て天井に張り付き、糸で縛って引き寄せてから気絶させるのを繰り返していたら、『蜘蛛』と言うスキルを得た。
うん。巫山戯た俺も悪いけど、何で蜘蛛がスキルなの?と、軽く混乱した俺は悪くないと思う。
「・・・さて、そろそろ出口でしょうか?」
俺はぼそりと呟く。すると、背後から「本当!?」「やった!」と、子供達が喜ぶ声が聞こえた。
「気持ちは分かりますが、落ち着いて下さい」
俺は苦笑しつつも、優しく注意する。すると、
「おや、まさかここで再会するとは思いませんでしたよ」
アイツの声が聞こえた。
俺は咄嗟に子供達を全員結界で包んで押し退け・・・と言うより弾き飛ばす感じで退避させ、『無限収納』から取り出した鉄剣を振るった。
ガギィインッ!!
しかし、俺が振るった剣は固い装甲に弾かれた。
そして、俺の剣を弾いた存在を見た。
「・・・何で、ここに居るんだよ」
「ふふふふふ・・・。何で、とは酷い言い草ですね」
ソイツは、以前会った時と変わらない不快な笑みを浮かべた。俺はそれに苛立ちを感じながらも、鉄剣の切っ先を向けて更に尋ねた。
「答えろ、ヤルダバオート!!」
俺の叫びを聞き、ヤルダバオートはニヤリと口の端を歪めたのだった。




