第十話 合同訓練④ 吹き飛ばされた侯爵家子息
Sideアルシノ
俺の名前はアルシノ・フォン・ゴルゴーレス。ゴルゴーレス侯爵家の三男だ。
実は俺にはある悩みがある。兄上や弟達とは違い、所謂出来損ないである事だ。しかし、兄弟達や母上父上は、そんな俺でも大切な家族だと言ってくれる、俺には勿体無いであろう素晴らしい家族だ。
・・・まぁ、そんな実力も有り、人としての素晴らしさを兼ね備えている家族達と自分を見比べて勝手に劣等感を覚えて素行不良になっていた時期もあったが。
そんな時でも、家族は俺を見捨てず、父上は俺の頰を叩き、叱ってくれた。これは、貴族としては珍しい事なのだ。
そんな家族がいるからこそ、さらに研鑽しようと日々鍛錬を繰り返すが、それでも難しい。
しかし七歳のデビュタントで起こったあの事件の時、俺は何も出来ず、ただ怯えていただけだったが、ある御令嬢は勇猛果敢に立ち向かい、見事に悪魔を討ち取った。
あの後、悪魔を討ち取ったのはアルゲート伯爵家の令嬢、エリシア・フォン・アルゲート様だと分かり、多くの家の者が息子と婚約させようと動きを見せたが、すぐに国王陛下が直々にエリシア様の後見人となった為、その目論見は打ち砕かれていたが。
俺はあの時恋慕ではなく、憧憬を抱いた。
「俺もいつかあの英雄の様に強く」
あの時見た姿に追い付きたくて、俺は更に鍛錬に打ち込んだ。何故か幼馴染のエレンシアは不満そうに頰を膨らませていたが。
兄上達に相談しても「我が弟ながら罪作りだなぁ」「べ、別に弟に先越されたからって・・・悔しくないんだからね!」と、よく分からない事を仰っていたが。
そうして、十二歳となった時、遂に俺もあのエリシア様と同じ魔法学院に入学する事となった。
残念ながら、俺はAクラスでは無く、Bクラスだったが、それでも良い。あの方の強さを間近で見れるのだから。
そう自身を納得させていたある日、野外学習が行われると聞き、俺は悔しい思いをした。野外学習と同時に行われる夜会に出るように母から言われていたのだ。
最初は嫌だったが、もしかしたらエリシア様も出るかも知れないと言われたら、少しは気が楽になった。
だが、夜会にはエリシア様は出席せず、野外学習にて災厄とも呼ばれた古の魔獣と戦ったと言う。それを聞いた時、俺は屋敷の自室で慟哭した。エレンシアや、父上母上には心配された。
そんな時、エリシア様の所属するAクラスと合同練習を行うとなり、感激でつい屋敷で小躍りしてしまった。兄上や父上達からは「・・・変わっちまったなぁ」と複雑な顔で言われた。
そんな俺の相手はよくエリシア様と一緒にいるメルアード公爵家の令嬢、レイナ様だった。
俺はAクラスであるレイナ様の実力をよく知らない。噂で凄腕の魔術師と聞いたことがあるだけだ。
しかし、魔術師ならば日々、剣を振って鍛錬してきた俺でも少しは通用出来るはず。そう思い突っ込んだら・・・。
空を舞っていた。
朦朧とした意識の中、目前に広がる澄み渡った青い空を見て「世界は広いなぁ」と呟いた。
その時、頭の片隅で何故か酷い既視感に襲われたが。




