第四話 戦神
その後、俺がシエラに課外学習であった事など、ちょっとした冒険話からとりとめのない日常の話などをした。
シエラは、そんな俺の話に対してコロコロと表情を変えて反応していた。
そんな時、
「よぉ、お前が山本竜人とかいう転生者か?」
そう言って姿を現したのは、筋骨隆々の巌のような、全身日焼けした男だった。
「えーっと・・・貴方は?」
突然の登場に戸惑いながらも、俺は首を傾げて尋ねた。すると男は上を向き、白い歯を見せながら「ガハハハッ」と豪快に笑った。
口から見える白い歯は男の黒い肌の色に映えた。
「そういやまだ名乗ってなかったな!聞いて驚け!俺は・・・
「あ、戦神のボルキニオス様じゃないですか!どうもどうも!」
もったいぶりながら男が名乗ろうとしたその時、気絶から立ち直ったエクリシオンが男・・・戦神ボルキニオスの言葉に重ねた。
「・・・・・・」
自信に満ち溢れたドヤ顔のまま固まるボルキニオス。しばし無言で見つめて待っていると、少しずつ頰に朱が刺し、プルプルと体が震え始めた。
「あれ?どうしました?ボルキニオス様?固まってどうしたのですか、ボルキニオス様?お返事下さいよ、ボルキニオス様?」
「うるせぇーっ!!少しは黙りやがれ手羽野郎!」
「あ、怒った」
無自覚でウザく絡むエクリシオンに、ボルキニオスは遂にブチ切れた。エクリシオンの背中の翼を、逞しい両の腕でむんずと掴むと、持ち上げた。
「アダダダダッ!?何するんですかボルキニオス様!?それに呼ぶなら手羽野郎じゃなくて手羽先野郎でしょう!?」
「怒るとかそこなの!?」
エクリシオンの言葉に、シエラは思わずツッコミを入れていた。
突如現れた戦神によって、もともと賑やかだったのが、更に騒がしくなるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数時間後・・・・・・
「いや、悪いな。ここまで騒がせるつもりはなかったんだが」
落ち着くと、済まなそうに眉を下げるボルキニオスが謝罪した。
「まぁ仕方ないと思いますよ。・・・アホのせいですし」
「うん、アホのせいだね」
俺とシエラはボルキニオスに「気にするな」という意味を込めて、そう言った。
「そのアホってもしかして、私の事ですか・・・?」
「もしかしなくてもそうだろ」
恐る恐る尋ねてきたエクリシオンに俺は膠も無く返した。エクリシオンは「そんな〜」と言いながら、わざとらしい泣き真似をした。
「それで、ボルキニオス。彼に・・・彼女?」
「シエラ、どっちでも良いよ」
「あ、うん。じゃあエリシアに何の用事があってきたの?」
シエラがボルキニオスにそう尋ねると、ボルキニオスはニヤリと口角を上げて白い歯を見せた。
「お前、ちょっと前にあのデケェ犬っころを封印しただろ?」
「犬っころ?」
ボルキニオスの言う犬っころに心当たりが無く、首を捻る。するとエクリシオンが耳打ちしてきた。
「ジェヴォーダンの事ですよ。ジェヴォーダン」
「へ?あれが犬っころ?」
俺は驚き、絶句した。あの見上げるばかりの巨躯を誇る災害と呼ばれた古の魔物を?
「・・・やっぱ神って凄え」
何気ない言葉から見えた神の実力とその自信に、俺は呻くように呟くのだった。




