第二話 殿下との話
「帰って来たか。エリシア、レイナ」
「ただいまー!!」
野外学習から帰り、学院の敷地内に入ると、中庭でカストルと偶然にも出会った。
(二日だけだったのに久し振りな気がするな・・・・・・)
俺はそう内心呟きながらもカストルにお辞儀をした。
「エリシアも久し振りだな。・・・・・・と、そちらの二人は?」
俺に会釈を返したカストルは俺とレイナの後ろに居たグレンとブルームに目を向けた。
「彼等は今回の野外学習で同じ班になったグレン・アーラムさんと、ブルーム・オルビアサさんです」
「は、初めまして!グレン・アーラムです!」
俺に紹介されると、グレンは慌てて自分でも名前を名乗った。しかし、こういう事に気が回りそうなブルームは微動だにしなかった。・・・・・・って、あれ?この光景、既視感が・・・・・・。
「あら?ブルームさんってば、緊張のしすぎで気絶してますね」
動かなくなったブルームをちょんちょんと指でレティシアが突ついた。・・・・・・うん、何処か見覚えあると思ったら我が弟も同じ状態になったんだ。
あの時と同じようにブルームの口からもエクトプラズムが・・・・・・って、
(これってやばい奴!?取り敢えず『魔導の極み』から精神安定の魔法を・・・っ!!)
俺は慌てながらもバレないようにこっそりと魔法を使ったのだった。
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「・・・・・・あれっ?僕は一体・・・・・・」
「あ、目ぇ覚ました」
気絶から目が覚めたブルームはのそりと起き上がると、俺の顔をジーィっと見つめて来た。・・・・・・何?俺の顔に何かついてる?
「ああ、天使の顔ってエリシア様にそっくりなんだなぁ」
「いや、ここは天国じゃないから」
呟くブルームにレイナが即座にツッコんだ。ブルームは「えっ・・・?」と首を傾げると、周囲を見回して、自分が生きている事を確認した。
「あ、ここ。天国じゃないんだ」
「そりゃそうだろ」
ブルームの呟きにグレンは呆れながら言い返した。
・・・しかし、まさか精神安定の魔法を使ったのに死に掛けるもんだから慌てて蘇生行為を行ったが、まさかそれで『簡易医術』と『応急手当』のスキル、そして『新米治療師』の称号が手に入るとは思わなかったが。
(・・・まぁ、ブルーム無事だったわけだし、気にしなくても良いか)
俺は内心でそう呟くと、やれやれと首を振るのだった。
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ブルームが無事に目覚めた後、グレンとブルームは自分達の寮へと帰って行った。
結局、二人はカストルとはすぐには打ち解けれてはいなかったが、俺やレイナとこれからも付き合っていくなら、そこで接点が出来るだろうし、徐々に慣れていってくれれば良いかな。
と、俺は内心で思ったのだった。
「それで!ジェヴォーダンはとってもデカくてズガドガーンッて感じで!」
今は、今回の野外学習について、レイナが身振り手振りで表しながら話していた。時折擬音が混ざるのに何故か内容がしっかりと伝わるという上手なのか下手なのか分からない説明に、流石のカストルも少し戸惑ってはいた。が、ジェヴォーダンの話が出た途端に、表情が変わった。
「ジェヴォーダンと言うと・・・・・・あの〝英雄フォーリンド〟が仲間とともに封印したと言う古の魔獣か?」
「うん、そうだよ」
カストルの疑問に、レイナは素直に頷いた。それを見たカストルは顎に手を当てて真剣な顔で黙り込んだ。
「あれ、どうしたの殿下?」
その只ならぬ様子に、レイナは首を傾げて尋ねた。
「・・・いや、悪魔の次は古の魔獣ときた。何か、大きな事が起きるのではと思ってな」
カストルはそう言ってから「私の思い過ごしだろうが」と続けた。が、俺にはそうは思えなかった。
デビュタントの時に現れた悪魔ガミジンに、レティシアを狙っていた悪魔ヤルダバオート。そして今回の古の魔獣ジェヴォーダン・・・。
それ以外にも、俺を含めて転生者は現在この世界に最低三人は居る。最後の一人、海堂蓮司はエリシュオン曰く、歪んだ魂をしているらしく、注意した方が良いだろう。
(・・・・・・何事も無く平穏に過ごせますように)
俺はフラグになるだろうと思いながらも、祈らずにはいられなかった。




