うさぎこの野郎
ガールは風邪が治ったことで、魔力が復活。
手から銃を取り出し、弾丸を撃ち込んだ。
「……か、はっ」
「はあっ…… はあっ……」
ドクドクと心臓の音がうるさい。
不用意には魔法は使わないと言い聞かせていたのに、人を殺してしまった。
しかし、ガールはどうしても男のことが許せなかった。
高ぶる感情を堪えきれず、涙が目から流れ落ちる。
すると、廊下の方から声がした。
「出てこいやこらあっ」
物凄い怒声。
(ヤバい、仲間だ……)
ガールは慌てて踵を返し、窓ガラス目がけてダイブした。
何故ダイブしたのか。
それは、映画みたいで格好いいからである。
窓ガラスが砕け、破片が宙を舞う。
ガールも一緒に宙を舞ったが、思わぬ事態。
(えっ、高っ……)
階数を確認していなかったが、ここは地上6階。
このまま地面に叩きつけられれば、最悪、死ねる高さである。
ガールは、今度は両手から剣を取り出し、それを壁に思い切り突き立てた。
「やあああああああーーーーっ」
ガリガリと壁を削りながら、落下速度を落としていく。
剣が途中で外れて背中を強打してしまったが、命に別状はなかった。
「……テリーを探そう」
ガールは、もしまだヨシコが生きていれば、テリーの時間を戻す魔法で助けられるかも知れない、そう思った。
(……昨日は確か)
テリーを見かけたのは、外装を塗装し直している建物の前。
ガールがそこを目指すと、案の定、テリーはまだそこにいた。
「あんた、いつまでそこで這いつくばってんのよ!」
「えっ、ガールさん!?」
白いウサギがキョロキョロと辺りを見回す。
「こっちよ!」
「ガールさん! 会いたかったです!」
「一度あってるんだけどね…… ところで、ちょっと助けて欲しいの。 ある女性の人に魔法を使って欲しいんだけど」
「魔法…… 実は、懐中時計を無くしてしまいまして……」
「はあっ、だから、こんなとこをずっと探してたの!?」
その時、全く別な声がその場に響いた。
「懐中時計ってのは、コイツのことかよ?」
「……!」
振り返ると、道端の両脇にガラの悪い男が2人。
どうやら、金貸し連中の者と思われ、しかも、道を塞ぐように左右から挟み撃ちにされている。
「落ちてから拾ったんだけどよ、デザインが気に入ったから貰ったんだ」
「か、返して下さい!」
「いいぜ、ただし、俺に勝てたらなァ」
サングラスをかけた短髪の男が、ガールに勝負を持ちかけた。
(アイツ、多分、魔法が使える……)
ガールはその男から、蠢く魔力を感じた。
それでも、懐中時計を手に入れるには戦うしか無い。
「……受けて立つわ」
ガールが男に向かい合った。
「お嬢ちゃん、見かけによらず血の気が多いじゃねぇか。 面白ェ。 今から3つカウントするから、お互いの武器を抜いて勝負だ」
「分かったわ」
男がカウントを開始する。
「3」
「2」
「1」
どこからともなく、鎖が飛んできた。
「……なっ!」
ガールの腕に、それが巻き付けられる。
(しまった、油断した!)
相手は詐欺のようなことを働いて金を稼ぐ連中。
正々堂々勝負などするはずが無い。
右腕を封じられ、苦し紛れに左手から銃を取り出そうとした時だった。
鎖を投げたもう1人の男の腹が吹き飛んだ。
「ギャアッ」
「水差してんじゃねぇよ、てめェ」
サングラスの男の手には、銃。
しかし、ガールのそれとは比べものにならない威力だった。
「俺の負けだ」
「……へ?」
男がポケットに手を突っ込むと、懐中時計を手にして、こちらへと投げた。




