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がーるすぺしゃる  作者: oga
第一章 始まりの街、ファストレイク
8/69

完治、そして……

「一万しるはーって、すこい量ね……」


 この世界の通貨として、1シルバーは日本円にすると100円の価値がある。

つまり、ガールが手にしているのは100万円相当の札束で、100と表記された100シルバー紙幣が100枚ある。


(これを更に倍にしてやるぜ、なんて思わないで、必要最低限の金額だけ使って返しちゃおう。 期日は1週間だから、早めに風邪治して、使った分稼がなきゃ)


 ガールは、これで何とかなりそうだ、と少しだけ気分が上向いた。

フラフラの足取りでジグザグに道を進むと、ちょっと! と声をかけられる。

  

「……はい?」


「ねぇ! 私よ、私! おっぼえってるぅ~?」


(さっきのコスプレ魔女……)


 ガールにエセ回復魔法を唱えたトンガリ帽子のコスプレイヤーである。

彼女は目をキラキラさせて、ガールの方へとやって来た。


「さっきはゴメンねぇ~? でも、今度はちゃんと風邪治させてあげる。 お金、いっぱい借りたんでしょ?」


「え、ええ……」


「やっぱり魔法よりお金よね~。 じゃあさ、私たち、これから親友ってことで。 この先に体に良い料理を出すヘルシーなレストランあるから、一緒に行きましょ。 あ、私、マジョルカっていうの、よろしくね!」


「……」


 腕を引かれて強引にレストランへと連れて行かれたガールであった。








「あれ……」


 気が付くと、ガールはベッドの上にいた。

ズキズキと頭が痛む。

ゆっくり起き上がって、辺りを見回す。

どうやらここはホテルの一室らしい。


「……私、やらかしたかも」


 ガールは昨日、自分が何をしたのかを思い出した。

マジョルカと名乗るコスプレイヤーに手を引かれ、野菜料理の店に入った後、今度は酒が陳列されているバーに連れて行かれた。


「これ、一気に飲めば風邪なんて吹き飛ぶから!」


「え、これ、お酒……」


「お酒は少しなら体に良いって言うじゃない。 さっ、一気して!」


 煽られるまま、度数70パーセントの焼け付くような酒を一気する。


「カアーーーッ」


「良い飲みっぷりね! あ、マスター私も同じのー」


 そこから記憶が曖昧だが、歌ノ館と呼ばれるカラオケボックスのような所で3時間ほど歌を歌い、気分がハイテンションになった所で彼女の行き付けの高級装飾品を扱う店に行き、何やら物色した後、このホテルへとやって来た。


「……あっ!」


 ガールは、慌ててベッドの上から降りると、自分の持ち物を確認した。


「……ない」


 所持金が、ない。

ごっそり無くなっている。


「あっ、そういえば……」


 ガールは、記憶の片隅から、マジョルカが自分に投げかけた言葉を思い出した。

泥酔したガールをホテルまで運んで、ベッドへと寝かせると、耳元でマジョルカが語り始めた。

いつものおちゃらけたトーンでは無く、真剣そのものである。

目には涙も溜めているように見えた。


「私、実は借金してて、明日には返さないと奴隷として売られちゃうの。 ……ガール、私、嫌だよ。 助けてよ……」


 とうとう、大粒の涙がボロボロと頬を伝う。

高額な利息で払えなくなった人を奴隷として売り飛ばす。

それが金貸し連中のやり口であった。

奴隷として売られれば、もはや家畜同然となり、自由など失われる。


「お笑いよね、魔法使いとして活躍したかったのに、魔力が私には無くてさ。 格好だけこんなにしたら、大変なことになっちゃった。 ……聞いてないか」


「ふがっ、ズピ~、ぐががっ」


「……ごめんね」


 





(爆睡してても覚えてるもんね)


 風邪はすっかり治っていた。

しかし、金を奪われた。


(とにかく、マジョルカを追わないと……)


 そう思って、室内から出ようとした時だった。

ドンドン、というけたたましいノックの音。

ガールは思わず身構えた。


「ガールさんですか? ちょっと、開けてもらっていいですかぁ?」


 低い男の声。

ガールが許可を与える前に、強引に室内に乱入してきた。

ガタイの良い、ボウズ頭の物騒な関じの男である。

少なくとも、ここの従業員ではない。


「……何ですか?」


「あなた、魔法使いの格好をした、ヨシコって女性といましたよねぇ?」


「ヨシコ…… え、マジョルカ?」


 マジョルカの本名はヨシコであった。


「あの人ねぇ、お金をウチから借りてて、期日が今日で返しに来たんですよぉ。 そしたら、お金足りなくて、3万シルバーも。 笑っちまいますよ。 で、そこでタイムアップで、身柄を押さえようとしたら、短刀を喉に突き刺して、死んじまったんですよ。 だから、身内のアナタに足りない分を請求しようと思ったんですけど」


「死んだ……?」


「ったく、少し脅した瞬間、顔色変えやがって。 ボロ雑巾みてぇにこき使ってやる、って言っただけなんすけどねぇ。 まあ、実際、ボロ雑巾より現実は甘くはねぇですが」

 

「なに、言ってんの……」

  

 思わず、声が震えた。

煮えたぎるような怒りを、ガールは覚えていた。

それは、ヨシコに対してでは無く、金貸し連中に対してであった。

払えるわけのない高額な利息。

金額が足りなかった時の、天国から地獄に落ちるような感覚を、ヨシコは味わったに違いない。   


(何で、ちゃんと私に相談してくれなかったの……)


「あなたに代わりに払ってもらうってのは冗談ですが、これは警告ですんで。 あと6日のウチにしっかり金を用意しといて下さいよ? それじゃ」


 男は背を向けて、部屋から出ようとした。

その瞬間、ガールは男の背中に、弾丸を5発ぶち込んだ。 

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