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がーるすぺしゃる  作者: oga
ラストバトル
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思い出

「あなた…… えーと……」


「俺はタナベっつー、サーターアンダーキの市場で働いてたもんだ。 お互い、面識は殆どないけどな」


 タナベの特技の一つとして、相手の顔を暗記する、というものがある。

ガールがサーターアンダーキの市場に足を運んだのは一度しかなかったが、タナベはその顔をハッキリ覚えていた。

カボから、ガールらがヘンドリクセンを仕留めるために派遣されることを聞いていたタナベは、偶然、ガールたちを見つけ、後を付けていた。


「カボと一緒に先行してこの城下町に忍び込んでたんだ。 で、今さっき、ヘンドリクセンの居場所を突き止めた」


 ガール、ヨシコが声を上げる。


「えっ、ほんと!?」


「ああ、こっちに来な」


 家から出ると、3人は街の隅へとやって来た。


「こいつを見な」


 タナベが指差した先には、塩ビで作られた筒のようなものが生えている。

明らかに人工的なもので、それは途中でカーブして前を向いていた。

潜望鏡のようなそれを見て、頭の上に? が浮かんでいると、タナベが言った。


「通気口だよ。 分からないか? この城下町には地下があるんだ」


「……!」


「入り口は城にあったんだろうが、爆発で完全に埋もれたよ。 そこまで計算しての爆発なんだろうが、逆に追い詰められたことにもなる」


 ヨシコが、入り口が塞がれたら、どうやって地下に行けばいいかと問うと、タナベは懐からあるものを取り出した。

黒いプラスチックの容器である。


「水だ。 これでヤツを殺す」


「水? それで、どうやって?」


 さっきから謎謎ばっかだな、とガールがこめかみをグリグリやると、タナベが噴き出した。


「ぶははっ、すまんすまん。 こいつには、硫化水素っつーもんが溶け込ませてある。 こいつをその通気口だから流し込めば、しばらくしてヘンドリクセンは御陀仏だ」


「え、まってよ、通気口って何カ所かあるんじゃないの?」


「確かに、通気口は何カ所かある。 だが、こいつは空気より重い。 普段生活してる分には足元に滞留してるだけだから何てこと無いが……」


「……そういうことね。 ヘンドリクセンが寝床についた時、効果を発揮する」


「ビンゴ、鋭いね」


 タナベは黒いキャップを外し、硫化水素の入った有害物質を通気口に流し込んだ。

こうして、数日が経過した後、ヘンドリクセンと思われる遺体が地下から発見された。

ヘンドリクセンの独裁政治は幕を下ろした。

ヘンドリクセンの近頃の政策に不満があった市民らは、何事も無かったかのように、普通の日々に戻っていった。

 一方、ガール、ヨシコ、チカ、マァムの4人は、セカンドヴィレッジのチカのアパートに集まっていた。


「さあて、私たち、そろそろ元の世界に戻らないとね」


 ヨシコが大きくノビをする。

元の世界に戻るトンネルは、マァムが知っていた。

チカがマァムにその場所を知りたい、と聞く。


「見送りくらいはさせてくれ」


「良いわよ、チカさん。 地図、貸して」


 チカがヨシコからトンネルの場所を聞いている最中、

ガールが申し訳なさそうに、言う。


「チカさん、結局、借り返せなくてごめんなさい」


「なぁに、ヘンドリクセンがいなくなったのじゃ、全てチャラじゃよ。 あとは、この世界が今後どうなっていくかじゃが、どんな風になっても、それはワシらの責任じゃよ」


「……ナニソレ、もう私たちは関係ないっての?」


「ヨシコ、そうはゆうとらんよ。 ただ、他人任せは良くないっちゅーことじゃ」


 チカがコーヒーを入れて、皆に一杯ずつ渡していく。

ガールが寂しげに言う。


「これが、チカさんの最後のコーヒーになっちゃうのかな。 味わいながら、飲まなきゃね」

 

 ガールは、密かにまたこれたらいいな、と思っていた。

みんな、ここまでの冒険を回想しながら、コーヒーに口を付ける。

今まで、色んなことがあった。

辛いことの方が多かったかも知れない。

でも、ガールはもう大人だ。

甘ったるいカフェオレよりも、ほろ苦いブレンドコーヒーを好んで飲む。


「チカさん、美味しかったです。 ありが……」


 その時、急に体が動かなくなり、倒れた。

マァムもヨシコも、同様である。


「なに、こ、れ……」


「すまんじゃが、主らにはここであったこと全て、忘れてもらうよ。 もう二度と、ヘンドリクセンのような輩が現れては困る」


 チカは、トンネルの場所だけ聞き出して、3人を送り返し、蓋をするつもりだった。

そして、その記憶さえ消してしまえば、完璧である。

ガールは、何とか睡魔に抗おうとしたが、段々と意識が薄れていく。


(そんな……)


 すると、チカがガールの耳元でこう呟いた。


「これで、貸し3つじゃな」


(……?)











 あれからガールはいつもの生活に戻っていた。

母親のマァムはけたたましく掃除機をかけ、姉は部屋でギターの練習。

兄も引きこもって下には降りてこず、ガールはソファーにもたれ、クーラーを全開にして涼んでいた。

もうすぐ、夏休みも終わる。


「あっ、そーだ」


 ガールは、突然立ち上がった。


「どしたのよ、急に」


「べっつにー」


「何よっ、気になるじゃない!」


 母親の静止を振り切り、2階へと上がるガール。


(チカさん、ありがとう)


 ガールは、あの日の冒険の日々を忘れてはいなかった。

最後にマァムが耳打ちした貸し3の意味。

それは、ガール一人だけ、記憶を残すというものだった。

ガールは兄アニーの部屋をノックすると、中へと入った。

アニーは相変わらずオンラインゲームに夢中である。

画面を見やりながら、ガールに言う。


「何だよ、珍しいな」


「兄さん、私もやってみたいんだけど」


「……急にどうしたんだよ。 まあ、いいけどさ」


 ガールにコントローラーを渡し、別のセーブデータを作る。

キャラメイクを済ませると、職業選択の欄。


「ねぇ、兄さん、魔法使いを仲間にするとしたら、私、何が良いかな?」


「魔法使いだったら、やっぱ戦士じゃないか?」


「オッケー」


 こうして、ガールは戦士としてオンライン生活をスタートさせた。


(待っててね、ヨシコ)


 ガールが始めにヨシコにあった時、ヨシコはオンラインゲームでの名前を名乗っていた。

その名前を探せば、また会えるかも知れない。

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