決行
「さあ、行くわよ」
マァムが研いだばかりの刀を腰にすえて、アパートを後にする。
扉を開きかけていたチカが、まだ室内にいるガール、ヨシコに早く出るように伝えると、先に行くよう促された。
「何じゃ、忘れ物か?」
「作戦の最終チェックよ。 ちょっと時間かかるけど、すぐ追いつくから」
「……分かったわい」
バタム、と閉まると、扉の前にいたガールがヨシコに向き直る。
「ヨシコ、作戦って……」
「そんなの嘘よ。 アンタに言っとかなきゃいけないことがあってさ」
「何?」
「しんどかったら、逃げなさい」
思いも寄らぬ、ヨシコの提案だった。
「え……」
「マァムおばさんはあんな風に言ってるけど、そもそも、何かもアンタにとってはいきなり過ぎる話だわ。 それで世界を救う為になんちゃらって、心の準備、出来てないでしょ?」
ガールは、ヨシコに図星をつかれ、動揺した。
しかし、すぐに涙目でヨシコにすがりついた。
「ヨシコっ、私、自信ないよ…… 急に世界を救えなんて、訳、分からない」
「そんなの当たり前よ。 人間、行きたくない場所には遅刻してったり、ズル休みしたり、そういう風にストレスから逃げるように出来てるんだから。 でも、アンタも思ってると思うけど、はぁ~…… やっぱり、やるしかない、のよねぇ」
「……」
ヨシコも分かっていた。
もはや、自分たちが戦うしかない。
(でも……)
ヨシコから逃げてもいい、と言われた時、一気に気持ちが楽になった。
気休めだとしても、ガールは嬉しかった。
「もちろん、アンタを一人にする気はないから。 私とアンタは一心同体よ。 アンタの失敗は私のせいだし、私の失敗はアンタのせい。 友達なんだから、当然よね?」
「……うん」
ヨシコは、ガールを見て言った。
「死ぬときも一緒よ」
「……それは嫌かなぁ」
「何でよっ!」
あはは、と笑いながら駆け出すガール。
もう、迷いは無かった。
自分には背中を預けられる味方がいるのだ。
電車でサーターアンダーキに向かい、りゅーすけくんのいる倉庫へと向かう。
りゅーすけくんの背に、ガール、ヨシコ、チカ、マァムの4人が乗ることとなり、かなり窮屈な状況ではあるが、りゅーすけくんは外へと出ると、そのまま飛び立った。
4人が目指すのは、ゴーヤシティの中心部で、その姿は夜に紛れてかなり見えにくい。
「あれは!」
ガールが叫んだ。
指差した先に、何かが飛んでいるのが分かる。
「先行部隊ね」
ヤッシーアイランドから飛び出した、6匹の黒竜と、1匹の赤い竜。
「赤か混じっておるな」
チカが呟くと、マァムが答えた。
「多分、相手のレッドドラゴン率いるライダーの中に紛れ込ませる作戦ね。 アレが、ヘンドリクセンを取る矢になるといいけど」
その赤の一匹が離脱し、地上で待機する。
そうこうしている内に、城が段々と近づく。
もし、カボが櫓を壊すことが出来ていれば、一瞬でも相手の対応を遅らせることが出来るハズである。
そして、そびえ立つ櫓のような塔が見えた。
まだ、街は静まり返っている。
(そろそろ、相手が気付いてもいい距離かしら……)




