塗装の仕事
「簡単な仕事ですか。 では、こちらのビラ配りか、ペンキ塗りはいかがですか?」
(ビラ配りはあちこち動くのダルそうだし…… ペンキ塗りにしよっかな)
「じゃあ、ペンキ塗りで」
「分かりました。 では、こちらの契約書にサインしていただいて、10時までに噴水広場に職人の方と合流して下さい。 頭に白いタオルを巻いた男性がいるとのことです」
ガールは、ペンで自分の名前を用紙に書き記し、建物を後にした。
噴水広場までやって来ると、ベンチに腰をかける。
(はあ、こんなんで仕事できるのかな?)
体調はさっきより悪化している。
どうやら熱もあるらしく、とても働けるコンディションではない。
すると、向こう側からタンクトップの頭にタオルを巻いた男が近づいてきた。
そして、自分のすぐ脇に座ると、そのまま真っ直ぐ前を向いた。
(この人かな?)
「あの…… ペンキ職人の方ですか?」
「ン…… おめぇがバイトか?」
「あ、はい、そうです」
「……おめぇ、大丈夫か? 顔色悪ぃけど」
「だ、大丈夫です」
男は訝しげな表情でガールを一瞥したが、ベンチから立ち上がると、来い、と言った。
そのままついていくと、ペンキ缶の置かれた建物の前までやって来た。
「こいつだ」
ペンキ職人は、目の前の真っ白に塗られた建物をアゴでしゃくった。
「ここにペンキ缶があっから、おめぇはハケで塗れてない所を塗ってってくれや。 楽勝だろ?」
ガールは安堵した。
これ位なら自分でも出来そうだ、そう思った。
任せて下さい、と言いたい所だったが、熱で声を出すのもダルかった為、やめた。
ハケを受け取り、壁に取りかかろうとした時だった。
「……あれ?」
道端を這いつくばって、何かを探している白い生物を発見した。
テリーだ。
まさか、こんなタイミングで遭遇するとは。
(ラッキー、アイツに時間戻して貰えば……)
魔法を使って自分が風邪を引く前に戻して貰えばいい、そう思ってガールが走ろうとすると、
(あれっ)
空が見える。
足がもつれて、仰向けに倒れてしまったらしい。
しかも、倒れた先にペンキ缶があり、ガールの頭にそれが降り注ぐ。
ペンキを浴びて、ガールの頭は真っ白な白髪になってしまった。
(ああ、クソ……)
それでも、ガールはありったけ叫んだ。
「てり~」
ビックリするくらい、声が出なかったが、テリーが振り向いた。
ガールが手を振る。
「てり~、こっちこっち」
「……」
しかし、一瞬こちらを見ただけで、また這いつくばり始めた。
(はあっ、何でシカトしたのよ)
ガールがテリーに近づいて、声をかける。
「てり~、わたしよ!」
「えっ、誰、ですか?」
「かーる、か~るよ!」
既に、濁点を発音することすら出来なくなってしまった。
「ごめんなさい、かーるおばあさん。 今捜し物をしていて、構ってられないんです」
(おば……)
白髪にしわがれた声。
ガールはかーるおばあさんと勘違いされてしまった。




