潜入
城壁の内側に入り、八百屋に野菜と剣の入ったダンボールが渡る。
その中を改めた頭の禿げた店主が剣が紛れていることを確認。
「んだべ、こりゃ」
剣の柄を握った瞬間、カボが魔力で店主の体を乗っ取った。
垂れ下がった恵比寿様の様な目つきの店主だったが、憑依された瞬間、キリリと鋭いものに変わる。
「っし、とっとと済ませるか」
体を手に入れたカボは、奥さんにどこさいくべか、と問われたが、それを無視して外へと出た。
八百屋や魚屋などが並ぶ商店街を抜け、城を目指す。
「……ちっ」
外の様子を見て、カボは思わず毒づいた。
城の付近までやって来たものの、城の周りには堀が形成され、さらにまた城壁。
二重構造で簡単には攻められない作りである。
(あれじゃ、剣を投げても中には入れねーか)
あわよくば、王を殺る算段のカボであったが、中に入るには兵士の体を乗っ取る必要がある。
カボは一旦引き返し、兵士の集まりそうな場所を探すことにした。
日が来れ、辺りが闇に包まれると、カボは行動を開始した。
やって来たのは、パブである。
普通の居酒屋よりも少し小洒落たバーのような所で、そこに兵士が出入りしているのを伺い、扉を開けた。
中にはカウンターがあり、グラスを磨くバーテンと、倚子には飲んだくれた兵士。
(アイツが良さそうだ)
カボが隣の席へと移動すると、オールバックのバーテンが注文を取ってきた。
「何に致しますか?」
「……」
カクテルのことに疎いカボは、少し考えた後、オススメを頼む、と答えた。
「分かりました」
シャカシャカとシルバーの容器をシェイクして、グラスに青みがかった液体を注ぐ。
「ロロ・トマシ、です」
(変な名前のカクテルだな)
せっかく自分に作ってもらったカクテルを飲まないのは失礼と、カボはそれを一口だけ口に入れた。
「……柑橘系だな」
「はい。 ブランデーをベースに、オレンジとレモンを搾り、隠し味にあるものを入れました」
「あるもの…… トマトか?」
「いいえ、痺れ粉です」
「……ッ!」
突然、カボのグラスを持つ手が動かなくなり、地面に中味をぶちまけ、ガラスの破片が飛び散った。
「ロロトマシの意味は、隠れた犯罪者。 ここは兵士以外は出入りできない暗黙の了解のバー。 貴方のような市民は絶対に近づくことはありません。 貴方は、何者ですか?」
扉を開けて、兵士が2人、入ってきた。
「くっ、そ……」
カボは振り向き様に腰の剣で兵士を斬ろうとしたが、指に感覚が無く、掌からスルリと剣が抜け落ちた。
地面に剣が転がると、我に返る八百屋の店主。
すっとぼけた顔をしていると、一人が腕を取ってテーブルに羽交い締めにする。
「あだだっ」
「目的はなんだ、言えっ!」
その時、剣が兵士の足に触れた。
すかさず、カボは魔法を行使して、兵士の体を包み込み、自由を奪う。
兵士は八百屋店主の腕を振りほどくと、すぐさま剣を拾い上げ、そのまま流れるように仲間の兵士の胴を両断。
血が辺りに舞い、ほろ酔い気分の兵士の目つきが変わる。
バーテンが叫んだ。
「その剣に触れてはいけません! 魔力が兵士の体に纏わり付くのが見えました」
バーテンはテーブルの下からボーガンを取り出すと、カボに向けて矢を発射。
それが胸に突き刺さると、動けなくなり、剣を取りこぼす。
「グッ……」
「剣には触れないでっ」
その時、今度は天井からぶら下がっていた間接照明が砕け、暗闇が部屋を覆う。
カボは誰かに掴まれたのを感じた。
外に出て、カボが自分を拾い上げた人物の顔を見ると、見覚えのない顔。
(……いや、こいつ、検問で荷を引き渡した時の兵士だ)
「俺だよ」
男は顔に指をあてがうと、ビリビリと肉を引きちぎった。
否、引きちぎったのは肉では無く、特殊メイク。
その下の顔は、タナベであった。




