エルフ
「マァムおばさん、もう少しお尻上げてくれる?」
潜水艦「スイマー2号」は水圧に耐えられるよう丸い形状をしており、鉄板が分厚い分、中のスペースがかなり狭い。
その為、3人ではギュウギュウに押しこめられる状況であった。
潜水艦のアームでダウジングワンドを掴み、それを頼りに薄暗い海中を進んで行く。
すると、ガラスの窓から、緑のゆらゆらと蠢くものが見えた。
「あれは…… 何かしら?」
「海藻じゃな」
「え、このまま突っ込んで平気?」
このまま直進すれば、海藻群の中を突っ切ることになる。
そして、ヨシコの不安は的中した。
案の定、海藻群に突っ込んだことで、後方の推進するためのファンにそれらが巻き込まれ、動きが止まってしまった。
「だから言ったのに!」
「安心せぇ、アベゾーがこういう時の為に、対策を講じたと言っておった」
チカが正面のタッチパネルを操作すると、潜水艦の外殻からカッターが出現、ワカメを切り裂いた。
ファンが再び回転し始める。
「……アベゾー、やるわね」
「……まずいわ、ヨシコ」
今度は、マァムが壁に掛けてある酸素濃度計を指差す。
「酸素濃度が薄くなって、二酸化炭素の濃度が上昇してる」
「えっ、ヤバくない!?」
「アベゾーに3人乗り込むことを告げて無かったのじゃろ」
明らかに一人用の潜水艦に3人が乗り込んでおり、当然、酸素の量も足りなくなる。
マァムが言った。
「帰りはガールも乗るんでしょ? 絶対無理じゃない?」
一瞬、静かになる船内だが、ヨシコが叫ぶ。
「みんな、出来るだけ息を吸わないで、酸素節約よ! 今はその事だけ考えて」
「えっ、そんなこと言われたら余計苦しく…… すーは、すーは」
「ばかっ」
その時だった。
窓に映るダウジングワンドの玉が赤く光りはじめ、回転も早くなる。
その先に、黒く蠢く巨大な影が姿を現した。
「いた…… 鯨よ!」
潜水艦がそれに近づくと、鯨は大きく口を開けた。
鯨の体内に侵入することに成功。
濁流に飲まれて、まるで洗濯機の中のように、ぐるぐるかき回される。
しばらくして、潜水艦は胃酸の上にぷかぷかと浮かんでいた。
「はあっ、はあっ…… うっぷ」
たまらず、ヨシコが潜水艦のハッチを開けたが、幸い、この空間には酸素がある。
みな、新鮮とは言えないが、その空気を吸い込む。
「た、助かった……」
「見て、上よ!」
マァムに言われて頭上を確認すると、小屋がぶら下がっている。
声を張り上げると、そこから老人が顔を出した。
「また客人か」
マァムがその老人に向かって、叫んだ。
「ねぇ、あなた、召喚魔法を使えるエルフのおじいさんよね? お願いがあってここまで来ました!」
「……先に上がった方が良いかもな。 胃酸で溶かされてしまうわい」
「鯨の栄養分になるのは御免じゃ」
老人は一旦引っ込み、ロープを取り出して潜水艦の上に垂らした。
そして、3人はそれをつかんで小屋の中へと上がった。
「……して、主らは誰を召喚したいのじゃ? ゆうておくが、ワシの召喚魔法は顔見知りしか呼び出すことは出きんぞ」
「顔見知り…… そんな……」
一縷の望みは潰えた。
ヨシコがそう思った瞬間、チカが言った。
「ダメ元で聞いてみるが、ワシらはガールという女の子を探しておる」
「ガール…… ほお、その者なら知っておるぞ。 数ヶ月前にここにきおった」
3人とも、互いの顔を見合わせた。
「ここに呼べば良いのじゃな?」




