悩み
夜の自宅のカゴの中で、足だけ外に出しながら、ガールは人差し指と親指で光る石の指輪をつまんで眺めていた。
(これを受け取ったってことは、ナイルの恋人ってこと?)
ガールは、はっきりとした意志を伝えることが出来ず、うやむやのまま指輪を受け取ってしまった。
(ナイルのやつ、絶対私のこと彼女だって思ってる…… よね)
うわあああ、とガールは頭をかきむしった。
こんな簡単に決めてしまって良かったのか?
確かに、自分は16才で、早ければ彼氏彼女がいても不思議でない年齢だが、ガールは自分は色恋沙汰に疎い方、と思っていた。
同じクラスの男子を意識したことは全くと言って無かったし、友達に彼氏が出来た、と言っても、へぇ、と思う程度であった。
しかし、事態は急展開を迎えた。
明日から一体、どんな顔をしてナイルに会えばいいのだろうか?
自分もナイルのことが好きな風を装おって接するべきなのか?
(分からない……)
こんな時、少女漫画でもあれば、明日以降どうすべきか、答えを知ることが出来たかも知れない。
元の世界ならいざ知らず、ここは異世界だし、しかもガールは専ら少年漫画を読んでいる口であった。
(だってだって、私にこんな日が来るなんて思わなかったし!)
ガールは立ち上がり、カゴから出て丸い形の夜の下へとやって来ると、整理のつかない頭で叫んだ。
「どうすればいいか、分からないんだ、よおおおーっ」
この気持ちを相談できる相手はいない。
ガールは火照った頭を抱えたまま、結局一睡も出来ず、朝を迎えた。
「はぁ~」
目にクマをこしらえて、ガールはいつもの通勤ルートを歩いていた。
前を歩く年配の女性に聞いてみたかった。
彼氏が出来たらどうすればいいんですか?
(でも、普通はデートとかするんだよね…… こんなとこにデートするようなとこ、ないよね)
職場についても、ガールの頭はナイルとどう接すればいいか、そのことばかりだった。
今日の昼も、多分ナイルは工場の裏手にいるだろう。
というより、自分のことを待っているハズである。
答えを聞くために。
(……断った方が、いい?)
こんなに自分を悩ませる位なら、いっそ断った方がいいかも知れない。
しかし、ナイルのことは嫌いじゃないし、これから好きになる可能性は大いにある。
それに、ガールは自分はさばさばしているから、一目ぼれみたいな恋の始まりはあり得ないと決めつけていた。
好意のある相手とじっくり付き合って行くのが向いている、そう思った。
(……よし、決めた!)
ガールは、ナイルと付き合うことに決めた。
昼を食べ終えて工場の裏へと来ると、ナイルがいた。
ドクドクと血の巡りがいつもより早いのを感じる。
ナイルの方も、どことなくぎこちない様子でガールをチラ、と見た。
「……よ、よう」
片手を上げてガールに挨拶する。
ガールも視線を外しつつ、ナイルに近づいた。
「……で、どうする?」
いきなり、ナイルが言った。
どうする、というのは、自分と付き合うのかどうか、という意味のどうする。
それはガールも分かっていた。
ガールは、決めていた。
自分はナイルの彼女になる。
この先のことまでは分からないが、とにかく、付き合ってみようとガールは考えた。
「……ナイル」
ガールが口を開いた瞬間、異変が起きた。




