出勤
「ふぁ~あ」
ガールは馬車のカゴの中で目を覚ました。
乱雑に散らかった毛布をどけて、丸い時計を見やる。
この時計は各自支給されているもので、矢印は8時を示していた。
上から垂れている布をどけると、日が差し込む。
ゆっくり這い出て、サンダルを履き、ノビをする。
「くぅ~っ」
「おはよ、ガール」
「あっ、おはようございます!」
挨拶をしてきたのは隣に住んでいる住人。
その優しい笑みを見てガールは、女神様みたい、と独りごちた。
みな、ぞろぞろとカゴから這い出て、缶詰工場へと向かう。
工場へは川沿いを歩いておよそ10分の所にある。
知り合いがいるものは談笑しながら、一人の者は列の後ろを黙々と歩いて行く。
ガールは、キラキラと朝日を反射させる川を眺めながら、今日も穏やかな一日だといいな、と考えていた。
ガールがこの世界に来てからは血みどろの日々。
仲間が何人も死に、精神的にも参っていた。
もし、この世界に来る前の自分に忠告できるのなら、こう言うに違いない。
「冒険者なんて、ロクなものではない」
(このセリフって、ああ、そうだ……)
母親も全く同じことを言っていた。
しかし、自分はそれを聞き入れなかった。
(はぁ~、悪いのは全部自分なんだけど……)
後悔先に立たずである。
しかし、ここに来て状況は変わった。
もう、血みどろの戦いには戻らなくても良い。
ヨシコや母親のことが気にならないといえば嘘になるが、それでもしばらくはここにいたい。
(しばしのお暇、頂きます)
そんなことを考えている内に、工場へと到着した。
この工場はツナ缶の製造をしている。
建物の正面から入り、下駄箱でサンダルから殺菌された白いゴム靴に履き替える。
廊下を進むと、自分のロッカーへと向かい、更衣室で白衣に着替える。
ガールは、「解体部門」の担当で、トラックの積荷から下ろされるマグロを解体するのが仕事である。
部門は「漁業部門」「運搬部門」「解体部門」「身を蒸してほぐす部門」「缶に詰める部門」「缶の洗浄部門」の6つに分かれており、魔法の剣を取り出せるガールは解体部門に配属された。
「おはようございます」
「おはよう、ガールちゃん」
解体部門は筋骨のたくましい元職人のような年配の男性ばかりで、体の華奢なガールは明らかに浮いていた。
しかし、ここの者はみな優しく、そんなガールでもきちんと仕事を教わることができた。
しかも、剣の技をかじっていたガールの飲み込みは早く、良く褒められた。
ガールは、トラックから下ろされたマグロがこちらに投げられると、構えた剣で頭、尾を素早く切り取り、更に骨と平行になるよう、身に刃を入れ、それを次の部門の者に渡した。
方法としては、カートにカゴをのせ、そこにさばいた身を入れて、運搬する。
次は身を圧力鍋で熱する工程で、パン焼き機のような機械の金網にマグロの身を並べた後、釜に入れて中まで確実に火を通す。
この先はガールの担当では無いため、割愛する。
1時間おきに15分の休憩を挟む決まりになっており、テーブルに突っ伏して少し眠ってから、再度作業するのがガールのルーティンであった。
昼になると、工場の隣にある食堂へと向かう。
おぼんを取って列に並ぶと、厨房の方から日替わりのメニューを渡されるが、マグロを獲ってくる関係で、どうしてもそういったメニューが増えてしまう。
それでも味付けが飽きないような工夫が凝らされていた。
テーブルはいつも人がいっぱいで、どうしても相席になってしまうが、みな、若いガールのことを気にかけてくれる人が多く、居心地の悪さは微塵も感じなかった。
15分で昼食を食べ終わると、少し昼寝するために外へとやって来た。
「……あれ?」
工場の裏手から、聞き覚えのある声がした。




