ラップバトル
ガールとナイルは缶詰工場の裏へとやって来ると、いつものようにラップ・バトルを始めた。
ちなみに、ラップ・バトルとは、1対1で行われる悪口の言い合いのようなものだが、悪口にはライムと呼ばれる韻を含んだ言葉を織り交ぜるルールがある。
例えば、「エスパー」という単語があった場合、その母音はu、a。
この母音を含んだ単語が韻を踏んだ言葉となり、「村」、「辛」などがその類と言えよう。
リリックはいくつかの小節なら成り、1小節目に出てきた単語を受けて、2小節目へと続いていく。
勝敗はギャラリーがいれば、多数決。
いなければ、相手がギブアップするまで交互に続けるが、リリックがスムーズでなかったり、途中で止まった場合はその時点で敗者となる。
ラップ・バトルは、いかに相手を動揺させるかがポイントとなる。
先行はナイル。
「ガール、泣きべそかくんじゃねーぞ」
「ドンと来い!」
作詞:ナイル
ガールおめぇはキュートな猫
鋭い爪持つ勇敢なact
高い壁を一足でジャンプ
だけど着地に失敗、骨砕けスランプ
缶詰工場のツナで餌付け
お前は一生ここで磔
「くっ、やるわね」
ナイルはガールを猫に例え、先日、ここから脱出を試みようとして失敗したことを皮肉る歌詞を披露。
しかし、ガールはその口擊に耐え、今度は自分の歌詞を披露した。
「行くわよ」
作詞:ガール
毎日ツナつめる真面目ナイル
時代遅れの錆び付いたスキル
私の回転ノコギリで速攻キル
魔法の世界の浮いたラッパー
有象無象のつまらないワーカー
しなびたキノコみたいで喉カラッカラ
「誰がしなびたキノコだっ」
「はい、私の勝ち~」
「あっ……」
ラップ・バトルは今みたく、反応して次のリリックを繰り出せなかった方が負けである。
つまりは、煽られてもクールでいられる者が勝つ。
「くそ…… キャリアは俺の方がずっと上なのによ」
不服、と言わんばかりにブツブツと文句を呟くナイル。
実際、ガールはナイル以上に高度なリリックを組み立てる事もザラで、その才は認めざるを得なかった。
「……つか、ガール。 おめぇ、何がそんなに嫌なんだよ?」
「え?」
「この生活だよ。 俺ははっきり言って満足してる。
毎日9時から17時まで働いて、週休は2日。 飯は支給だがそこそこうまいし、衣食住は揃ってんだ。 それに、真面目にしてりゃ、行く行くはバイトリーダーになって他の奴らを監視する立場に付ける。 そうなりゃ、仕事は今より楽になるんだぜ?」
意外にも、この世界にも秩序があり、夢もある。
基本的に暴力等の行為は禁止されており、見張り役の兵士が数十人、待機している。
そして、働き始めると、バイトからバイトリーダーと格が上がっていき、みなそれを目標に働いていた。
奴隷として働かされると思っていたガールは拍子抜けした。
(日本にいたままだったら、もしかしたらこんな生活だったのかも……)
ガールは、この先どうするべきか、悩んでいた。
冒険者というアテの無い旅を続けるべきなのか、大人しくここで働き、一生を終えるのか。
シーサ村では結婚も認められており、そうなればいよいよ本腰を入れてここに住まうことになるだろう。
「そろそろくれーから小屋に帰るわ。 あんま兵士に目ェ付けられたくねーし」
住まいは男女、既婚者に別れており、ナイルは男らの集まる小屋へと戻っていった。
空は小さな円形で、壁に取り囲まれているが、そこから暗闇と瞬く星が見えた。
「私も、帰らなきゃ」




