戦いの火蓋
「おかあさあああーん」
「があるー」
二人が抱擁するのを見て、再びホロリときてしまったヨシコ。
(やめてよね、こういうのに弱いんだから、私……)
「ねぇ、お母さん、あの後どうなったの?」
あの後、とは、兄の魔法でこっちの世界に連れてこられた直後のことである。
「最悪よ。 海の上に落とされて溺れて死にかけたんだから」
「えっ、お母さんも?」
「お母さんもって、まさかアナタも?」
お互い死にかけて、よく生きてたわね、と笑い合う。
「お母さん、何で生きてるのよ、アハハッ」
「それはこっちのセリフよ。 はあ、笑いすぎてお腹痛いわ……」
二人のやり取りを見て、笑い事じゃねぇだろ、と剣は密かに思うのであった。
「話すと長くなるんだけどね。 私は「りゅーすけくん」に助けてもらったのよ」
クイ、と親指で後ろの壁を差すマアム。
ガールが「?」を頭に浮かべていると、ヨシコが叫んだ。
「ちょっ、ウソーっ!」
ガールも続けて気が付いた。
「え、え、エエエーッ」
そこにいたのは壁ではなく、黒いゴツゴツした肌の、ドラゴン。
黒い色をしたドラゴンが、鼻息荒く横たわっていた。
全長は5メートルはあるだろうか。
「グルル……」
「こーら、りゅーすけくん。 二人は食べ物じゃないわよ」
「お母さん、りゅーすけくんって、一体……」
「この子は20年くらい前にここで一緒に戦った相棒よ。 「ヤッシーアイランド」に身を隠して生活してたハズなんだけど、私のピンチに駆けつけてくれたみたい」
「グルゥ」
よく見ると、そのドラゴンはとてもマアムに懐いているようにも見えた。
しかし、背中の翼から血が流れ、傷ついていた。
「お母さん、りゅーすけくんのその傷……」
「海から私を拾って滑空してた所を、この国のドラゴンライターに見つかってね。 それで、襲撃を受けた。 何とか振り切れたけど、深手で傷はすぐには治りそうもなかったから、ここにかくまって貰ってたのよ。 この街は冒険者びいきが多いから」
いつの間にか後ろにいたタオル男がウンウン唸っている。
「おうよ。 特に、マアムさんはあの「赤い堕天使」その人だ。 俺は20年来のファンなんだよ」
「あ、そういえば聞きたいこと、あるんだ」
突然、ヨシコが口を挟んだ。
「アナタ、ガールの友達?」
「はい。 あの、電車の中で聞いたんですけど、赤い堕天使が現れたのって、2.3年前って……」
「アレは、俺らが流したデマだよ」
タオル男が言う。
「いわゆる抑止力さ。 赤い堕天使がまだどこかにいるとなりゃあ、国の兵士の士気はだだ下がりよ」
20年前の戦いで、赤い堕天使は、国の兵士にトラウマを植え付けていた。
続けて、マアムが口を開く。
「でも、もうじきヘンドリクセン王が日本に攻め込んで来る。 それで、私たち冒険者は、先手を打つことにしたわ」
「ちょ、待って! お母さん、こっちの世界の動向に何でそんな詳しいの?」
「それは…… 父さんとラインで繋がってたから。 あ、ゼルダおじいちゃんのことね。 先に謝っとくけど、こっちに来る前の出来事、あれは全部シナリオだったの。 私との戦いでアナタの力を覚醒させる手筈だったんだけど…… アニー(兄)が暴走するとは思わなかった」
ガールの頭は混乱した。
アレはすべて母親の演技だったとの事だが、もはや理解が追いつかない。
「無理に分からなくていいから、今は現状を受け入れて。 これから私たちは、「ライド・アタック」を仕掛ける為に、ヤッシーアイランドを目指すわ」
ライド・アタック。
それが、冒険者たちがこの国に先制攻撃を仕掛ける作戦名であった。
「ヤッシーアイランドに、りゅーすけくんみたいな黒い竜が7匹いる。 その竜に跨がって、ヘンドリクセン王のいる王宮に奇襲攻撃を仕掛ける。 アナタも、それに参加して欲しい」
「わ、私が……」
その時だった。
突如、地面から鎖が生えて、ガールに巻き付いた。
「何、コレ!?」




