VS店員
(アンタの正義感はご立派だけど、それで勝てる程甘くないわよ)
カボの強さは以前、セカンド・ヴィレッジで目撃していた。
兵士5人に重症を負わせたのは、ほとんどカボによるもので、オンラインゲームの仲間の中で一番敵に回したくない相手だった。
だが、ガールが剣を抜いた事で、ヨシコは自分も戦わない訳にはいかなくなってしまった。
さっきの二対一での立ち回りは、ロッドショップの店員のものでは無く、どうやら、カボの身体能力が黒髪眼鏡に宿っているらしい。
ガールの方もそれを理解しているのか、剣を構えているものの、踏み込めないでいた。
(前に剣を浴びせた時は、うまくいなされた。 隙を作らないと……)
「良かったのは威勢だけかよ」
「……!」
突然、黒髪眼鏡が口を開いた。
口調はカボのもので、彼女の体を介してしゃべっているらしい。
ガールは、しめた! と思った。
「あなた、カボさんよね? あなたに言っておかなきゃならないこと、あるんだけど」
「……何だよ」
「あなたのせいで、あなたの仲間はみんな死んじゃったわ。 悪いって思わないの?」
「……」
「ネギさんは、とってもいい人だった。 スナックさんも、ちょっとスパルタだったけど、私を強くしてくれた。 あと、えーと……」
「名前忘れてんじゃねぇっ!」
黒髪眼鏡が強く踏み込んだ。
しかも、狙ったのはガールではなく、ヨシコ。
ヨシコの武器は鞭であり、懐に侵入されたら対処できない。
「えっ、わたっ、まっ」
慌てて鞭を束にしてガードを試みるも、カボの剣の方が早い。
剣が月明かりを反射させた。
「おらァっ!」
「キャアアッ」
ヨシコが目をつむる。
が、しばらく経っても剣は振り下ろされず、ヨシコはうっすら目を開けた。
後一ミリ動けば頭に届く、という所で剣が止まっていた。
「……お客、様に、手を出さ…… ないで……」
黒髪眼鏡が途切れ途切れにその言葉を紡いだ。
どうやら、カボの剣に抗っている様で、手が小刻みに震えている。
「邪魔を、するんじゃ、ねぇ!」
黒髪眼鏡の静止も虚しく、再び剣の切っ先が空を差し、狂刃が振り下ろされようとした。
「ヤアアアーッ」
横に一閃。
手首が宙を舞った。
カボの剣が地面に突き刺さる。
ヨシコの脳天に剣がめり込む寸前で、ガールが黒髪眼鏡の手首を払った。
「ヒイイイー……」
尻餅を着くヨシコ。
「ぐっ……」
手首を押さえてうずくまる黒髪眼鏡。
ガールが、ヨシコに向かって叫んだ。
「早く、ロープで腕を!」
「あ、あひっ……」
へっぴり腰で何とか黒髪眼鏡の取りこぼした杖を手にし、それをロープ化して手首に巻き付ける。
目いっぱい強く結んで、止血した。
「ごめんなさい、店員さん…… でも、こうするしか」
「雑、です。 はあ、はあ…… あ、私、名前、エドナ…… エドナ・エリック」
「分かったから、今は喋らないで!」
黒髪眼鏡の本名はエドナ・エリック。
何でこのタイミングで話したのかは分からない。
黒髪眼鏡と連呼されるのがシャクだったのか。
ヨシコがエドナを背負い、急いで医者の元へと運ぼうとした時だった。
「オイ」
「……えっ」
「俺を、置いてかないでくれ」




