作戦
「お前のその箱出し(新品)エルダーワンドなんかに負けるかっての。 あたしのはカスタムしてあんだからな!」
「でもこっちのおチビさん、差しでやったら負けてたかも……」
「相変わらず自己評価ひっくいな、オイ。 てか、腹減ったわ」
モズクとイチカが去ると、ガールが起き上がった。
「ヨシコ、大丈夫?」
「いたた、あたっ、あいたたた…… あばら骨イッてるかも」
「うわあっ、すごい腫れてるよ」
ヨシコの脇腹は赤黒くうっ血している。
「はあ~、もうどーすんのよ、コレ。 医者にかかるお金だってないのにさぁ」
「とりあえず、明日様子見して、折れてそうなら医者行こ」
「こんな時に時間を戻すウサギがいればさぁ」
「仕方ないよ」
ブツブツと文句を言いながら、今日泊まる宿を探す。
公園に野宿という手もあるが、巡回している兵士に職質されるのはマズい為、何とかして宿を探さなければならない。
朝食付きの一泊100シルバーの高級ホテルには泊まれず、せめてシャワー付きの安いホテルを探す。
夜になり、ようやく見つかったのは、台所横丁から30分以上離れた、一泊5シルバーのボロ宿だった。
「2人で10シルバーですね。 はい、ありがとうね」
ヨボヨボのおばあちゃんに案内されて、部屋へと向かう。
ギイギイとうるさい廊下を歩いて、開けるとガタガタと音のする扉を開ける。
室内には2段式のパイプベッドがポツンと置かれているだけであった。
「まあ、相部屋じゃないだけマシか。 はぁ~」
バタム、とすぐベッドに横になるヨシコ。
「私、先シャワー浴びていい?」
「はいはい、いってら」
こうして、2人はようやく寝床に着くことが出来た。
しかし、残金の関係で、ここに滞在できる期間は3日しかない。
その間に、タカタコーヒーのウェイトレスの誰かを倒さなければ、ホームレスコースである。
翌朝になり、早速タカタコーヒーへと向かったが、やはり簡単に返り討ちにあってしまった。
それでもめげず、2戦、3戦と繰り返したが、どうしても勝てない。
3日目の早朝、ホテルの床で緊急会議を開いた。
「とにかく、今日が最終日。 絶対に負けられないよ」
「知ってるわよ。 で、アイツらシフト勤務で昼と夜に分かれてる。 店には常に2人いるから、当然帰りも2人。 2対1には持ち込めないけど、今までの感じで誰が強いか、誰が弱いかがハッキリしてきたわ」
「数字の若い方が弱い、でしょ?」
「その通り。 名前に1が入ってるイチカが大人しめで一番弱い。 逆に、9の入ってるモズクが男勝りで凶暴。 だから、狙うのはイチカとニノね」
ニノは男だが、どちらかと言えば草食系の男子である。
「で、今日、その2人が同時のシフトなのよね」
ガールは店内に忍び込んでシフト表を紙に写してきた。
そこには、今日、夕方の勤務がイチカとニノになっていたのだ。
ガールはヨシコの目の前に手の甲を上に向けて、差し出した。
ヨシコもそれに習って、手を重ねる。
「ぜったーい、勝つぞーっ」
タカタコーヒーの前にある、いつもの空き家へとやって来ると、様子を窺う。
イチカとニノが店から出て来た。
例の如く、2人の後を追い、何らかの方法で路地に誘い込む作戦だったが、猫の鳴き声はバレバレで、犬、ニワトリもやってしまった為、苦し紛れにゴリラの鳴きマネをするヨシコ。
「ウッホ、ウッホ!」
「……またあいつら…… 無視無視」
(何やってるのよ、ヨシコ!)
作戦失敗。
ガールは仕方なく、更に2人の後をつけた。
(やばい、どこか人目につかないとこに誘い込まないと……)
ガールが焦り始めたころ、2人は公園へと差し掛かった。
ガールがジャングルジムの影に潜み、掌に魔力を集中させた。
(ここで、やるしかない)
「ダメよっ!」
すると、背後から腕を掴まれ、びくっ、とする。
「な、何で止めるの!?」
「よく見て、兵士がいるじゃない」
「あっ……」
焦りで周りが見えていなかったガールだが、ヨシコに言われて気が付いた。
兵士が2人、巡回している。
(危なかった~)
ほっとしたつかの間、その兵士に誰かが近づく。
そして、懐から何かを取り出し、兵士に向かって振り下ろした。
「ぎっ、ギャアッ」
「……へ」
「なっ、なんだ、キサッ…… グアアアアーッ」
兵士の絶叫が、漆黒の夜空に響く。
イチカ、ニノもそちらを見やった。
ヨシコは、兵士に斬りかかった人物を見て、ウソ…… と呟いた。
黒髪眼鏡のロッドショップの店員。
その彼女が、剣を持って虚空を見つめている。
手にしている剣は、カボの剣であった。




