タカタコーヒー
「ヨシコ、これ見て!」
ガールが手にしているのは、「DOWSING WAND 17」と刻印の彫られた杖。
頭には水晶がついており、一見すると巨大なけん玉である。
「ダウジングって、探すみたいな意味だよね?」
「探すってか、何かを探す手法よね。 アンタ、まさかそれでマァムおばさんを探そうっての?」
「と思ったんだけど、いくらするんだろ、コレ?」
「店員に聞いてみなさいよ」
ガールがダウジングワンドをカウンターにいた黒髪眼鏡の大人しそうな店員に見せる。
「こちらは1500シルバーになりますね」
内心、結構高いんだと思いつつも、更に質問した。
「これで人捜しをしたいんですけど、できますか?」
「はい、これをこうやって……」
杖の水晶をぶら下げる。
水晶と杖は糸で繋がっており、欲しいものに近づけるとフラフラと揺れる、とのことだ。
「へぇ~、いいなぁ、これ」
「あ、これも見て欲しいんだけど。 何か、スイッチが見当たらないのよ」
続け様に、今度はヨシコがエルダーワンド300を店員に見せる。
「これはこうやって捻るんです」
店員が杖を捻ると、カチ、という音がし、鉄の鞭に変化した。
「スイッチ部分を無くして欲しい、という声があったのでこういった形になったらしいです。 値段は2500シルバーなんですが、ベータ版が出てからすぐの販売ということで、杖をお持ちでしたら下取りするのと、それプラス1000シルバーで交換いたします」
「えっ、この杖と1000シルバーでいいの?」
「はい。 どうされますか?」
現在、ガールたちの手元には45シルバーしかない。
(ムググ…… ここは何としても手に入れたいわね)
ヨシコがあーだこーだと考えるも、現金は落ちてはこない。
考えてても無駄だよ、とガールがヨシコの手を引いて、一旦外へと出た。
「働きましょ」
「……簡単にいうわよね」
ヨシコは今まで働いた経験がほとんど無かった。
唯一、メイド喫茶のバイトを体験したことがあったかが、それもたったの一日である。
「ヨシコ、やるしかないよ! 残金45シルバーじゃ、宿に泊まれるかも怪しいよ」
「……喫茶なら、いいわよ」
「え? 何ならいいの?」
「喫茶店ならいいって言ったのっ」
「喫茶店かぁ~。 じゃあ、探してみる?」
こうして、色々店を回った結果、一件の喫茶店を見つけることができた。
表通りから少し奥まった路地にある「タカタコーヒー」と呼ばれる店で、店内はカウンターにテーブル席が5つの小さなレトロ調の店である。
早速、2人が店内に入ると、女性のウェイトレスがやって来た。
胸にはネームプレートが付けられており、「アカネ」と書かれている。
「お客様、2名様ですか?」
「あ、すいません。 私たち、ここで働きたくて…… 求人の募集ってありますか?」
「ふぅん…… そういうことね。 マスター、この子ら、求人の募集ないか聞きに来たんだけど、どしたらいい?」
「教えてやってくれ」
「マスターがやってよ。 私、接客で忙しいし」
「はいはい、分かったよ」
コップを磨いていた白髪の男性がこちらに来る。
「ちょっとこっち来て」
その男に店内の更に奥の部屋へと連れて行かれると、座って、と言われた。
来客用の少し上等な倚子に2人が腰掛けると、男が話し始めた。
「えーとね、ここは普通に求人の募集はしてないんだ」
「そうなんですか……」
「その前に2人共、冒険者かい?」
「……!」
冴えなさそうなオッサンだなー、と油断していたヨシコは、一瞬、目を見開いた。
「その杖はエルダーワンドβだよね。 普通の人はあんまり使わない杖だよ。 それと、お嬢ちゃんの方は魔力があるね」
ガールも驚いた。
思わず掌で口元を隠す。
これまで会った人物の中で、最初の老人以外から初めて指摘されたことだった。
(この人、ただ者じゃない?)
「分かり易い反応だね。 でも、自分が冒険者だってのは簡単にバラしちゃいけないよ。 兵隊が命を狙っているからね」
「ご、ごめんなさい」
「はっはっ、謝らなくていいよ。 でも、これで資格があることは分かった。 ここはただのコーヒーショップじゃない。 冒険者ギルドも兼ねているのさ」
「冒険者ギルド!?」
冒険者ギルドとは、いわば冒険者たちの集まりである。
「私、オンラインやってたから分かるわ。 まさか、ここがそんな所だなんて」
「ヨシコ、何なの、ギルドって」
「要するに、難しいクエストをみんなで協力してクリアしよう、みたいな団体よね」
すると、オホン、とマスターが咳払いをした。
「でもね、ウチのギルドは簡単には入れないよ。 入るには条件がある。 ウチにいるメンバー10人の誰かから、ネームプレートを奪い取ること。 その強さがここに入る条件」
昼はウェイトレスとして働き、夜は冒険者としての任務をこなさなければならない。
正直、夜の仕事の方は2人にとっては余計なものであった。
「……どうする、ガール」
「一つ、聞きたいんですが…… 時給って、いくらです?」
「時給は1時間で10シルバー。 特別任務の達成でボーナスも出るよ」
日本円にすると、大体一時間1000円。
バイト代としては妥当である。
更に、任務次第でボーナスも出るとのことだ。
「……プレートを集めればいいんですね」
ガールはそう言って、店を後にした。




