一発芸
ついさっきまで、杖の中に剣をしまっていたハズ、とガールは驚嘆した。
(もしかして、さっき別れた隙に列車のどこかに剣を隠したのかな? でも、それだと回収できない……)
ガールは手荷物が無かった為、そのままチェックを素通り。
(魔法の確認はしないんだ…… そういうの知らないのかな?)
列車から降りて改札を抜けると、周りを伺った後、ヨシコが言った。
「よし」
「……?」
ヨシコは、おもむろに顔を空へと向け、口に手を突っ込んだ。
「えっ、な、何してるの!?」
「オッ、オエッ、オエエッ」
「キャッ、キャアアアアーッ」
思わずガールは絶叫した。
ヨシコの口から、何が出てくる。
まるで、マジシャンのごとく、剣を飲み込んで体内に隠していたのだ。
ゲエゲエ言いながら、涙目で剣を抜き取るヨシコ。
「はあー、はあー……」
「素晴らしい、ウミガメの出産シーンを思い出しました」
何故か2人の横で涙を拭うオマール。
「え、アンタ、いたの?」
剣をロープでグルグル巻きにしながら、ヨシコが眉をよせる。
見事なMの字が出来上がった。
するとオマールは、頼んでも無いのに先を歩き始めた。
「街を案内しましょう。 私についてきて下さい」
「……どうする、ヨシコ」
「まあ、私もこの街全然知らないし、いんじゃない?」
こうして、オマール、ガール、ヨシコの3人で街をぶらつく事となった。
通りには、「台所横丁」という看板が正面にでかでかと掲げられている。
「わあっ、すごい!」
到着した街の通りは、左右に様々な店が建ち並び、同じ市場でも、最初の街とは比べものにならない程、活気がある。
道端で客の気を引こうと、まるで戦場の様相だ。
「サアッ、魚が安いよーっ、向かいの店よりずっと新鮮な魚だよっ!」
「それならこっちはサイズがでかいよーっ、向かいの店より1.5倍、あるよーっ」
「うちは新鮮さも大きさも負けてるけど、リンゴ飴つけるよ~」
「凄いわね」
ヨシコが唖然とする。
「これでも昔はもっと凄かったんですよ。 今は兵隊の増員で若い人を取られちゃって、店終いしてるとこもチラホラ。 農家や漁師も同じで、必然的に物価も値上がりしてるんです。 こんなことが無ければ私だって店から逃げずに済んだのに……」
「オマールさんって、結局何をやられてるんですか?」
「私は板前をしています。 店は懐石料理屋をしているんですが、去年、カニが全く獲れなくて、調理場に出されそうになったんですよ。 でもまあ、知り合いに今年は大丈夫って聞いたから、戻ることにしました。 言ってる側からもう着きました。 ここです」
気が付くと、3人はとある懐石料理屋の前にいた。
店名はカニドゥラックと書かれており、言ってしまえばカニ道楽のパチモン店である。
「これは割引券です。 気が向いたら来て下さい」
そう言って2人に券を渡し、オマールは店の中へと入っていった。
「ヨシコ、お母さん探さなきゃだけど、ちょっと見て回る?」
「そうね。 食べ歩きしましょっか」
「やった!」
タコ焼きやら、チョコバナナなどを食べながら店を回っていると、杖専門店を発見した。
ヨシコがちょっと見ていい? と聞いて、2人は中へと入った。
「杖のお店もあるんだね」
店内は薄暗く、オレンジの間接照明で照らされていた。
棚には様々な形状の杖が立て掛けられており、2500、というギョッとするような値札もみてとれた。
「人が集まるからねー、あっ、エルダーワンドの新型じゃない!」
ヨシコは「ELDER WAND 300」を手に取った。
「へぇー、鉄の鞭に変化するんだ」
「ヨシコー、ちょっと来てー!」




