老人
「ぜえっ、ぜえっ……」
ガールは、どうにかロープで木箱の中へと引き上げられた。
まだ自分が生きていることが不思議な位である。
「で、何でこんなとこに来たんじゃね?」
ガールの目の前にいるのは、老人。
猫背で白髪、顔にはシワが刻まれて、年は60前後だろうか。
特徴的なのは、耳が少し尖っていること。
「自分でもよく分からないんですけど…… 掃除機に吸い込まれて、気付いたら海の中にいました。 それで、何か不思議な力? みたいなのを感じて、何とかここまで…… あ、この部屋、素敵ですね」
ガールが引き上げられた部屋は、老人の生活空間となっており、木製の机と椅子、棚などが置かれており、コンロの様な調理器具もある。
「なるほど。 お主、アッチの世界から来た紛れ者か。 お主には幸運があるようじゃな。 もし魔力が無ければ今頃死んどるよ」
「魔力? 私に? ……てか、ナニソレ」
「……お主、ゲームとかやったこと無いのか? まあ、ええわ。 魔力っちゅーのは、いわゆる魔法を使う力のこと。 魔力が無ければワシの力だって感じることが出来ん。 紛れ者には魔力がある者と無い者が半々くらいで分かれておるから、お主はラッキーじゃった」
魔力が無かったとして、運良く海面に出られたとしても、そこは何も無い海の上。
陸地を見つけたとしても、そこまで泳ぎ切る体力はガールには無いだろう。
「そう、なんだ…… あの塊が蠢くみたいな、キモち悪い感じ、魔力だったんだ……」
「そうじゃね。 ちなみに、この世界で魔力が無い者は、ある者と比べて圧倒的に不利じゃ」
「そうなの? ねぇ、魔法ってどうやって使ったらいいの? 何が出来るの?」
「教えてやってもいいが、世の中そう甘くは無いぞ。 一つ、頼まれごとを受けてくれんか?」
「頼まれごと? 良いけど、何をしたらいいの?」
「ワシは見ての通り、世間から離れて隠居しておる。 滅多なことじゃ陸地へは上がらん故、食料が鯨の飲み込む魚しか無いんじゃ。 たまには他のもんが食いたい。 ワシが鯨を操って、陸地まで泳がすから、お主は街に行って何か食材を集めてきてくれ」
「んー、分かった」
ガールが近場の街から肉や果物などの食材を集めて戻ってくると、老人は喜んだ。
「ほぉっ、酒もあるのか。 気が利くのう」
「で、魔法のこと、教えて欲しいんですけど……」
「分かった分かった。 まあ、簡単に言えば、魔法=戦う力じゃな。 この世界では、あちこちで戦争が起こっとる。 お主の様な紛れ者の大半は、どこかのコミュニティに雇われて、戦いに参加することで生計を立てとる」
「戦争……」
ガールの頭に過ったのは、母親の言葉だった。
あなたが思い描いてるような、甘くて美味しい世界じゃない。
確かに、その通りだったのだ。
それでも、ガールはこの世界を冒険すると、そう決めた。
その気持ちは、簡単には揺らがない。
「……戦う力が欲しいです。 どうやったら、魔法を
扱えますか?」
「魔法を使うには、上級者の承認が必要じゃが、わしが許可しよう。 食材の礼も兼ねてな」
老人は、ガールに魔法を使う資質があるか、テストしていた。
魔法を悪用するような輩ではないと分かり、老人は手から鍵の様なものを取り出した。
それを、ガールの胸の辺りに差し込む。
「これを捻れば、魔力が解放される」
「……お願い、します!」
老人が鍵を捻ると、差し込んだ箇所から光が漏れ出した。




