列車ミステリーシリーズ その2
ガールとヨシコは、アパートの玄関まで来ると、靴を履いた。
ヨシコがチカに向き直ると、言った。
「ホントはこの子が言うセリフだと思うんだけど…… ありがとね」
一ヶ月経っても、やはり死んでしまった5人のことがショックで、ガールは殆ど口を聞けないでいた。
「忘れてもらっては困るぞ。 主らの世界に戻る手掛かりが掴めたら、「貸し」を返しに戻ってくるんじゃぞ」
「分かってるわよ。 じゃあね」
部屋から出ると、二人は階段を降りて列車のホームを目指した。
昨日、溶鉱炉15か所が爆破され、まだ復旧の目処はたっていない。
その為か、街に立ちこめていた煙は殆ど無く、空には青い色がさしていた。
道行く人も、時折空を眩しそうに見上げては、久々に見たな、と呟く。
「ガール、見てよ。 アイツらのやったことも、無駄じゃ無かったかもよ」
「……」
それでも、やはりいつかは元の霧がかった街に戻ってしまうだろう。
遺体は金貸しに回収され、お参りする墓すら残らない。
そう思うと、また暗い気持ちに引きずり戻されそうだった。
(考えたらダメだ。 前向きにならないと……)
いつまでもネガティブではいられない。
気が滅入ってしまうし、もう一ヶ月も落ち込んでたんだ、とガールは自分に言い聞かせようとした。
そんな時だった。
道端に、何かが突き刺さっている。
それは、剣だった。
(……! あの剣は……)
ガールが駆け寄って手に取る。
剣のつかの辺りにカボチャのシールが貼ってあり、持ち主が誰かは一目瞭然だった。
まるで、自分が生きた証を残したかの如く、深々と石の地面にそれは突き刺さっていた。
「ガール、これ、カボの剣じゃない?」
「……うん」
しかも、その剣にはまだカボの魔力が宿っていた。
ガールは呟いた。
「何も無くなっちゃう訳、ないよね。 一生懸命生きれば、絶対に何かが残る」
ガールは、その剣を引き抜いた。
「みんなのことは、忘れないよ」
ガールは前を向いた。
自分も負けていられない、そういう気持ちで、一歩を踏み出した。
カボの剣は抜き身で危険な為、ヨシコのロープでグルグル巻きにして、杖の中に納めた。
駅の脇の小屋に向かうと、サーターアンダーキ行き2枚、とガールが駅員に言った。
「大人2枚で5シルバーですね」
「あっ、ヨシコさん、5シルバーってあります?」
「ちょっと待ってよ」
ヨシコがシャネルの財布からコインを取り出す。
1シルバーコイン5枚を取り出し、駅員に渡すとキップと交換。
それを見せて改札を潜ると、既にシルバーに赤のラインの入った列車が停車しており、もうしばらくしたら発車するとのアナウンスがあった。
ガールたちはそれに乗り込むと、空いていた向かい合わせの席に腰掛けた。
今回は、見知らぬ人が座らぬよう、杖を置く。
「ふぅ~、これでオッケー」
「そういえばヨシコさん。 次のサーターアンダキーって、どんな場所なんですか?」
「サーターアンダーキね。 沖縄のお菓子じゃないんだから」
「あっ、そうか」
「サーターアンダーキはね、私も行ったこと無いから分からないけど、居酒屋の兄ちゃん、何て言ってたかなァ…… 確かね、蔵があるって話よ」
「蔵? ……何の?」
「食料とかの蔵だったと思うわ。 冷蔵庫みたいになってて、この国の台所みたいなとこらしいのよ。 色んな美味しいお店があるんだってさ」
「えーっ、それなら、1件ずつ回りたいなぁ」
「ガール、分かってる? 私ら、金欠なのよ?」
残額が残り45シルバーだということを思い出したガールは、事もなげに言った。
「じゃあ、働けばいいと思うわ」
「な、何言ってんのよ! 働くとか…… 私は嫌よ。 それより、何とかアナタのママを探さなきゃ! 次の街で何してるのか知らないけど」
ガールは、母親は自分を探してるんじゃないか、という推測を立てていた。
兄の魔法で半ば強引にこっちの世界へとやって来てしまったのだ。
きっと、心配しているに違いない。
そんな話をしている内に、列車が動き始めた。
「ちょっと、トイレ」
杖を手に取ると、ヨシコがトイレへと向かう。
15分ほどして、すっきりした顔で戻ってくると、再び、目をつむって眠り始めた。
その直後だった。
「うっ、うわあああーっ」
「えっ……」
突然、男の悲鳴が列車内に響き渡った。




