ガールVSカボ
スナックの特訓は、結果としてガールの魔法剣をより強力なものにした。
これは、意図した訳ではなかったが、2000回叩いた刀を打ち出したことで、より頑丈な剣をイメージすることができ、切れ味のカンストした剣を生み出すことに成功した。
(あれは、まともに受けたらもってかれんな)
カボは、初めて自分が負けるかも知れない、という妄想を抱いた。
しかし、カボは街の人を助けるということに、並々ならぬ執着があった。
(昔の俺とは違う。 絶体に、逃げねぇ!)
意外にも、カボは元々臆病なタイプの性格だった。
「エクスキューズミー……」
「げっ……! そっ、そりーっ」
外国人に声をかけられてもすぐに逃げ出してしまう。
「すいません、どなたか席を譲ってくれませんかー」
「……」
電車で老人が入って来ても、寝たふりを決め込んだ。
本当は、誰かの為に役に立ちたい、困っている人を助けたい、そういう気持ちは人一倍強かった。
しかし、肝心の行動に移す、ということが心底苦手だった。
そんな自分に嫌気が差し、この世界では絶体に逃げ出さないと誓いを立てていたのだ。
(あんな人生経験の無さそうな、薄っぺらな奴にはぜってー負けねー)
カボは、雄叫びを上げて気合いを入れた。
「っしゃあ! かってこいやあああっ」
「……!」
ガールは、カボの中にある魔力が滲み出し、剣に纏わり付くのを肌で感じた。
方法を知っていた訳では無かったが、カボの負けたくないという意志が、無意識に魔力を引き出したのかも知れない。
両者、魔力で強化された魔法剣を掲げ、次の瞬間、それが交差した。
キイイン、という金属音。
「……くっ」
交差した剣は、十字の形で止まった。
カボは、ガールの剣擊をやや引き気味に受けて、衝撃を緩和。
自分の剣を折ることなく止めることに成功すると、そのまま右手の甲で剣の腹を押し、打撃を加えて相手の剣を押しのけた。
「キャッ」
ガールの構えが浮き、拳一個分程度の隙間ができた。
「ハアッ!」
その隙間目がけて、カボが剣を突き出す。
切っ先がガールの喉元に触れた。
「……うっ」
「俺の勝ち、だな」
(強い……)
ガールは、潔く負けを認めた。
「負けました……」
「どの道、俺には勝てなかったな」
カボが背を向けて、宿に戻ろうとした時だった。
「あ、あのっ、私に剣を教えて貰えませんかっ」
「何だって?」
「私、魔法の使い方教えるんで…… お願いしますっ」




