海
「うっ、わあああああああーっ」
盛大な水しぶきを上げて、ガールは水面に落ちた。
水中でガールはパニックに陥る。
「ゴボッ、ガボッ」
何故、自分は水中にいるのか。
さっきまで、確かに自分の家にいた。
その後、母親と戦い、途中から割り込んできた兄の魔法? によって、今、自分は水中にいる。
(テリーは……?)
目をうっすら開けて、辺りを見回す。
水中は暗く、ほとんど見渡すことが出来ない。
ウサギのテリーの姿も無かった。
(このままじゃ、溺れて死んじゃう…… そうだ、太陽の明かりを目指して泳げば……)
そう思ったが、上も下も、どこを見渡しても薄暗い。
もしかしたら、昼ではないのかも知れない。
別世界? へと飛ばされて早々、自分は死んでしまうのか?
こんなことなら、母親の言うとおりにするべきだったのか?
そんな考えが過ったが、ガールは気持ちを改めた。
(弱気になったらダメ! せっかく、冒険者になるって決めたんだ。 確率は二分の一、どっちかに泳いで行けば……)
感覚を頼りに、上を見定め泳ぎ始めたその時、ガールはそれとは逆方向から何かが蠢くのを感じた。
目を閉じると、より鮮明にその塊を感じることが出来る。
(アレは!)
その塊の方を見やると、巨大な鯨の様な生物を発見。
(あの中に逃げ込めば、酸素があるかも……)
ガールは、一縷の望みを託し、その鯨の方へと向かった。
ガールの予想は的中した。
鯨に近づくと、食べ物と勘違いしたのか、口を大きく開けて、ガールを多量の海水と共に飲み込んだ。
鯨の体内には気泡があり、水面から顔を出して、どうにか酸素を肺に取り込んだ。
「はあっ、はあっ……」
しかし、問題はここからである。
一命は取り留めたが、次はどうやってここから脱出すればいいのか。
周りは完全な闇で、このままではいつか鯨の胃酸に溶かされてしまうだろう。
「……何か、いる」
ガールは、先ほど感じた塊を頭上に再度、確認した。
しばらくして、闇に目が慣れると、何かが胃袋の上の方にぶら下がっている。
「……箱?」
木箱のようなものか。
ガールは、必死に叫んだ。
「あのっ、誰か、いるんですかっ」
普通なら、そんな所に言葉の通じる生物がいるとは思えないが、何もしなければ死ぬ。
ガールが叫び続けると、木箱についていた扉が開いた。
「なーにしてんだ、んなとこで」
若干しわがれたような声。
ガールは、ここぞとばかりに叫んだ。
「あっ、あのっ、助け…… 助けて下さいっ」
「……ちょっと待ってろーい」
しわがれた声の主は、木箱の中からロープを取り出し、それをガールの方へと垂らした。




