野菜なメンツ
「さあっ、ガール、戦闘の準備はいい?」
肩に背負っていた杖を手に取るヨシコ。
「ちょっと、待って下さい! その5人と戦うんですか? ヨシコさん、もう少し良く考えた方が……」
「あのね、国に冒険者を引き渡さないと私たち、殺されるか一生奴隷なのよ? これが絶好のチャンスだって分かってるの?」
「……でも、昔、友達だったんでしょ? もう一度仲直りして、仲間に入れてもらって、それで助けて貰えば……」
突然、ガールの胸ぐらを掴む。
そのあまりの勢いに、ガールは目を丸くした。
「うっ」
「何偉そうに説教してんだよ、テメェ、いつから私より上ンなったんだよ、ああっ!?」
「誰があなたを助けたか、分かってますか?」
テリーが、冷静な声で呟いた。
その声に、思わず我に返るするヨシコ。
「……ご、ごめんなさい」
「……」
(もう、どうなっても知らないから)
こんな人のこと、放っておけば良かったかも知れない、そんな思いが一瞬過るガールであった。
「この居酒屋じゃな」
5人のいる居酒屋から少し離れた場所から、様子を窺う。
居酒屋は、簡易的なシートで作られた屋根があるだけのオープンスペースで、外から様子が丸見えである。
飲酒店はどこも値段が高沸していたが、ここだけはリーズナブルな値段で酒や食べ物を提供しており、割と賑わっていた。
「いたわ、アイツら……」
ヨシコが飛び出そうとした時、ガールがあることに気が付いた。
「ねぇ、武器、持ってない?」
確かに、テーブルを囲むメンバーの腰や肩には、鞘に収まった剣が携えてある。
「……そんなの、関係ないわ。 不意を突けば……」
「ヨシコさん、待ってよ! あなたが一番知ってるでしょ。 オンラインでずっとやってた人らだよ? 連携だってうまいと思う」
不意を突いて最初に何人か仕留めたとしても、こちらは戦力になるのはガールだけである。
ヨシコは杖で相手を拘束するのが関の山だろうし、テリーは戦闘員ではない。
チカは戦えたとしても、そもそもそういう契約はしていない。
テリーが言った。
「それに、5人以外にもう一人いるみたいですね」
「えっ」
ガールとチカの2人が同時に返事をした。
目をこらすと、確かに、フードを被って良く顔は見えないが、誰かがいる。
「あんな奴、知らないんだけど」
ヨシコがボソリ、と呟く。
「私が様子を確認してきますよ」
テリーがぴょんぴょん跳ねながら、居酒屋の方に向かった。
「ちょっと! もう、気をつけなさいよ~」
ガールは、手のひらを口の横に当てて、小声でテリーに忠告した。
しばらくして、テリーが戻って来ると、得た情報をみなに伝える。
「ぜぇ、ぜぇ…… えーと、彼ら、どうやらこれから魔物退治に行くみたいです。 相手はこの街に夜な夜な現れるスカル・ナイトとのことです」
途中、珍しい懐中時計を持つウサギが現れ、何これ、かわいい! とネギに頬ずりされ、それを見守るガールたちはかなり焦ったが、どうにか戻って来れた。
「ヒヤヒヤさせないでよね…… じゃあ、アイツらが魔物と戦ってる所を狙って、仕掛ければいいのね」
(ちょっと、卑怯な気もするけど……)
若干、後ろめたい気持ちのガールだが、今までのことを考えると、今更である。
「もう一人の正体は分かったの?」
「……いいえ。 ただ、みんなが「師匠」って呼んでました。 顔は、ヒゲ面に傷が一杯」
「ナニソレ、強そう……」
ガールがげんなりする。
しばらくして、フードの男が立ち上がり、会計を済ませると、ヨシコが言った。
「び、ビビってんじゃないわよ。 行きましょう」




