列車ミステリーシリーズ その1
列車は所々立ち並ぶ工場の隙間をひた走る。
太陽はちょうど頭上の辺りまで登り、時刻は昼。
ガールは疲労の蓄積の為か、首を90℃もたげ、口からは白い雫が垂れ、地面を濡らしていた。
その跳ね返る液を浴びて、チカが目を覚ました。
「ふぁ~あ、よく寝たわい。 って、オイッ、目ェ覚ませえええーっ」
「……ジュルッ。 あ、ヨダレ……」
ガールがヨダレを腕で拭おうとすると、チカがストップをかけた。
「あ、ヨダレ、じゃないわい。 全く…… お主、ハンケチないんか?」
「……ハンケチ? ああ、ハンカチーフのことですか。 ヨシコさん、持ってます?」
「ちょっと静かにしてよ。 眠ってたんだから」
ガールの対角にいたヨシコが窓際の方に体を寄せる。
「はぁ~、それでもレディかいな。 ほら、これで拭うんじゃ」
チカが首に巻かれていたマフラーをシュルシュルと外して、ガールに差し出した。
「えっ、ダメですよ! 汚れちゃいます……」
「大丈夫じゃ、また生えてくる」
(えっ、このマフラー、植物か何かなの!?)
まるでキノコを採取するかのような言い草だが、まあいいか、とガールはそのマフラーでヨダレを拭った。
ガールがそれを返そうとすると、慌てて制される。
「それはいらん!」
「後でゴミ箱探そ。 ……そういえば、テリーは?」
さっきから妙に静だな、と思って隣を見やるも、テリーがいない。
(トイレかしら?)
そう思って、しばらく待つことにしたが、いつまで経ってもテリーが戻ってくる気配はなく、心配したガールは席を立ってトイレまで様子見に行くことにした。
しかし、トイレに誰かいる様子は無く、再び自分の席へと戻ってきた。
「テリー、いなくなっちゃった…… チカさん、テリー、見てないですよね?」
「……テリーって、あの青いチョッキのウサギじゃな。 ワシも爆睡こいてたからのぅ」
チラ、とヨシコを見やるガール。
「な、何よ。 私が知るわけないでしょ! さっきまで寝てたんだし……」
「えーっ、じゃあ、テリーはどこ行ったのよ!」
「う~む…… 一番怪しいのはヨシコさん、じゃったか、アンタじゃな」
「は、はぁっ!? 何でよ!」
「テリーっちゅーのにワシは何の興味もない。 価値が分からんのに盗む奴がおるかいな」
「何で盗んだって決めつけるのよ。 自分からどこかに行った可能性とか、第三者の可能性も疑ってから言いなさいよ!」
「そこに立て掛けてあったエルダーワンドβ324型が無くなっとる。 あれは確か、形状変化のできる杖じゃったな」
「……!」
ガールも気が付いた。
列車に乗り込んで、座席に着いたとき、確か杖を窓際に立て掛けていたハズだった。
その杖が無くなっている。
「杖をロープ状に形態変化させて、眠ってるテリーをグルグル巻きにした。 そして、定期的にやって来る売り子のカートにでも括り付けてそのまま隠し、後で回収。 どうじゃ? 当たっとるか?」
「そうなんですか? ヨシコさん!」
「……くっ」




