知らない人の隣は気まずい
ガールは電車が来るまで、ヨシコから色々と聞き出した。
ヨシコは、1ヶ月前にこの世界へとやって来た異邦の者。
つまり、ガールと同じ日本からやって来ていた。
ヨシコは始め、この先にあるセカンド・ビレッジと呼ばれる街からスタートしたが、魔力が無いことが発覚し、仲間に捨てられていた。
「オンラインゲームの仲間がごっそりこっちに連れてこられたのよ。 私、ヒーラーをやってて、こっちでもそれで活躍しようかと思ってたんだけど、現実は世知辛かったわ。 で、お金がなきゃ生きてけないじゃない? それで、バーにいた、今考えたらちょっとヤバ目な人だったわね…… とにかく、その人から、こっちのファスト・レイクならお金を稼げるからって、やって来たのよ」
ガールが始めにやって来た街、ファスト・レイクは、カジノのある海沿いの街として有名だった。
実際、ガールはカジノには立ち寄らなかったが、金貸しの建物から数百メートル進んだ一帯に、数カ所カジノがあった。
「ギャンブルなんて自信無かったし、気付いたら洋服とか買っちゃってたから、実際試しては無いんだけどネ。 ハマってたら、もっと泥沼だったかも……」
実際、ギャンブルで負けて金を借りてニッチもサッチも行かなくなる者は後を絶たず、もれなく奴隷として売られるか、自殺という選択を余儀なくされた。
「やっぱり、魔力が無いと色々不利なんですね……」
「まぁね。 ところであなたは魔力あるの?」
「二人とも、来ましたよ」
テリーが会話を遮ると、向こうから電車がやって来た。
それは、牛乳パックを寝かしたような形で、色はグレーに赤のラインが一本、入っていた。
元いた世界にもありそうな、近代的な造形である。
人がぞろぞろど下車するのを見送り、3人は車内に歩を進めた。
座席は向かい合うように作られていて、その一角を占拠する。
「わあっ、何か、楽しみ!」
「旅行に来た感はあるわよね~」
すると、空いた一席に座ろうと、一人の女性が声を掛けてきた。
「ここ、座ってもいいじゃろか?」
「あ、どうぞ」
テリーの横に座った女性は、ピンクの髪にマフラーを巻いていた。
(わあっ、かわいい。 でも、喋り方が微妙に残念?)
そんなことを思ったガールだったが、すぐに気まずい雰囲気が流れる。
「……」
「……」
「……」
ヨシコは窓の外を眺め、テリーもタヌキ寝入り。
耐えられなくなり、ガールは思わず話しかけた。
「あ、あの…… お名前は?」
「ワシか? ワシは、チカ、じゃ」
「へぇ~、チカ、さんかぁ。 へぇ~……」
しかし、それ以上会話が続かなくなり、いつの間にかガールもうたた寝をしてしまった。




