電車
「あっちにトランジットがあるのよ。 それで、移動しましょ」
「やっぱり、逃げる気か……」
トランジットとは電車のことである。
この国は社会主義で、今の軍事寄りの政策を取る前は、交通の整備など、国民の生活をより良くするための税金の使い方がされていた。
しかし現在、それは見る影もない。
国民の大半は武器防具類を製作する工場に回され、生活する上で必要な家畜や農作物を育てる人手がいなくなる。
結果、食料は値上がりし、人々は普通に生活することすら厳しい状況に陥った。
トランジットに向かう途中、ヨシコが道端で談笑してる兵士を顎でしゃくる。
「ほら見て、身なりがとってもいいでしょ? ああいう兵士たちの待遇はすごくいいのよ」
兵士の身につける武具は、磨き込まれたシルバーで、端から見ても高価な物だと分かる。
その反面、電車に乗り込む人々の身なりは古着を着回したような、ボロボロの格好。
表情も明るくなく、誰一人、笑って話している者はいない。
(何か、暗いなぁ……)
ガールがこちらの世界に来て思ったことの一つに、暗い、というものがあった。
自分の元いた世界では、退屈だな、と思うことはあっても、こんな風に暗い気分に浸ることなどほとんど無かった。
それは、家には母親もいたし、姉も兄もいたからだろう。
父親は家族を置いて海外旅行に行くていたらくだが、仕送りはしていたし、別に困ることも無かった。
若干将来が不安な姉と兄も、まあ、どうにかなるだろうと楽観視していた。
しかし、この世界では、漠然と何とかなるだろう、という考えは通じなかった。
(もっと、楽しくなるハズだったのになぁ)
ガールはまたしても、自分は甘かったのだと痛感した。
今、自分は命を脅かされている。
行くあての無い逃避行の旅は、心に暗い影を落とした。
「ガールさん、ほら」
「……あっ、ごめん」
テリーが乗車券を差し出してくる。
屈んで受け取ると、ヨシコの後に続く。
自由席のチケットで、それを改札にいる駅員に見せると、ハサミのようなもので印をつけて、駅のホームへと入った。
ホームは1番線しかなく、どうやら折り返して次の駅へと向かうようだった。
「次の列車は30分後だってさぁ」
「どんな列車が来るんだろ」
ちょっとワクワクする。
こっちの世界にも電車があるとは、馬車に乗ってデコボコした道を進まないで済むのは良かったかも知れない、ガールはそう思った。
(そっちはそっちで楽しいかも知れないけど…… でも、電車があるんなら、色んな街を見て回れるかも)
少しでも気分を上げなければならない。
ガールは、そう思って色々ヨシコに質問した。




