グラサンは格好いい
サングラスの男は、懐中時計を投げると、その場を離れようとした。
懐中時計が地面をバウンドし、それをテリーがキャッチする。
ガールは、すぐ後ろで倒れている男をチラと見やり、こう思った。
(簡単に仲間を殺すなんて…… でも、それって立場がかなり上の人間じゃなきゃ、きっと許されないわよね…… ってことは、アイツ、もしかしてオーナー!?)
「待ちなさい! 勝負はまだついてないわ」
「……」
ガールが男を引き留めた。
もし、ここでこの男を倒してしまえば、借金諸々帳消しに出来るかも知れない。
それに、相手がどれだけ強くても、今はテリーがいる。
即死さえ防げれば、何度でも復活できる。
すると男は、振り向きもせず、こう言った。
「おめぇからは金を回収しないといけねぇ。 だが、俺にここまで盾突くたぁ、少しは見込があるじゃねーか。 だったら、異世界の冒険者の死体を5つ、持って来い」
「……異世界の、冒険者の死体?」
「そうだ。 ヘンドリクセン王が冒険者の死体1体につき、1万シルバーをかけてる。 おめぇの借りた金と利息を合わせりゃ、5体で釣りが来るだろうぜ。 とにかく、あと6日だ。 それまでに金を用意できなきゃ、腕利きの追っ手がおめぇの身柄を拘束するから、覚悟しときな」
そう言い残し、男は去って行った。
ガールは銃を構えたが、何故か引き金を引けなかった。
やってることがクズでも、フェアな戦いを好む男の無防備な後ろ姿を撃つことはできなかった。
「……こんなことしてる場合じゃない!」
ガールは、ヨシコのことを思い出し、急いで彼女がどこにいるのかを探した。
それは、すぐに分かった。
金を貸す建物の入り口付近に血痕が残っている。
「ガールさん、どこに向かうんですか?」
テリーが後を追いながら、ガールに聞く。
ガールは、血痕を追うのに夢中で、テリーの言葉は耳に入らなかった。
血は建物の裏へと続き、それはかなりの量であった。
胸騒ぎを覚え、願う気持ちでヨシコを探す。
血痕はゴミ捨て場まで続いており、そこでようやく途切れていた。
ゴミ捨て場にはコンテナのような物が置かれており、ガールはその中に入った。
「ヨシコさんっ!」
ガールが、そこに被せてあった黒い布を急いで引っ剥がすと、ぐったりとして動かない、変わり果てたヨシコの体がそこにあった。
「テリーっ、この人の時間を戻してっ!」
「で、でも、もう死んで……」
「まだ生きてるっ!」
ガールは、ヨシコの胸倉を掴むと、激しく揺すった。
「ちょっと嫌なことがあったからって、簡単に死ぬんじゃないわよっ! 人間なんて、強く生きてナンボじゃないのっ! このっ、目を覚ませ、この野郎っ」
ガールは涙目で、必死に訴えた。
自分が青春映画の主人公みたいなセリフを吐いていることなど気にせず、とにかく、叫び続けた。
すると突然、ヨシコの体が光り出した。
「ガッフッ」
ヨシコの口から、血が吐き出された。
「やった!」
「奇跡だ……」
テリーが呟く。
ヨシコは確かに死んでいた。
それをガールが呼び戻したのだ。
その光景を見て、テリーはこちらの世界に来る前のことを思い出していた。
(ガールさんの母親に対抗した力。 あれは、クルミナの剣の力を引き出したのかと思ってましたが、まさか……)
「テリー、早く時間を!」
「わ、分かりました」




