三日目 見つめる者
三日目 見つめる者
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ある看護師の方から聞いた話です。どこの病院かは言わないでほしい、との事でした。
204号室の患者さん……80代の男性でしたが、その容態が数日前から思わしくなかったそうです。
担当の先生の話では検査の結果は良好であるはずなのに、なぜ衰弱が進んでいるのか分からない、とのことでした。
病室にて、眠る患者さんを診察していると。
「これは死んで当然の男じゃから」
そんな声が聞こえました。医師の先生は聞きとがめて注意します。
「ここは病院ですよ、そんなことを言うのは控えてください」
「本当の事じゃから、こいつがどんな事してきたか、先生は知らんじゃろ。きっと死神に取り憑かれとるんよ」
それは患者さんの奥さんでした。高齢でしたが、目がぎらぎらと獰猛に光っており、医師に掴みかかりそうな気配があったそうです。
「そんな深刻な病状ではありませんよ、もうじき退院できます」
「そうかい、だといいけど」
そのお婆さんの言葉には、人がこれほど冷淡になれるものかと、鳥肌の立つような冷たさがあったそうです。
患者さんの病状は一向に改善しません。
そのうち意識レベルが落ち、やがて人工呼吸器が外せなくなりました。
そしてある夜、看護師さんが院内の見回りをしていました。
懐中電灯の光だけを頼りに、薄暗い廊下を進みます。
そして例の204号室に差し掛かりました。担当の先生から、気をつけて様子を見ておくようにと言われていたので、病室の戸をあけて中を点検します。個室の病室にはベッドが一つだけ。
そして病室の片隅に、セーラー服を着た女性の姿が見えました。
しかし、それは体が異様に長かったのです。
長い藍色のスカートがカーテンのようで、壁と天井の接するあたりに腰があり、そこでL字の差し金のように体が折れ曲がって、白いシャツを着た胴が天井を這い、頭は天井の中心あたりに張り付いていたそうです。長い髪が垂れ下がって顔は見えません。
看護師さんが「ひ……」と声を上げた瞬間、そこにはすでに何もおらず、暗い簡素な病室には人工呼吸器の音だけが響いていました。
看護師さんは腰を抜かしてその場に座り込み、恐怖のあまり目からだくだくと涙を流していました。
そしてこの患者さんは、もう絶対に助からないのではないか、そのように思ったそうです……。