髪がめっちゃ長い不老不死の魔女に戦いを挑んでみた結果
若い男は、魔女と対峙していた。
地面に楽々届くほど、いや、辺り一帯がこの魔女の髪で埋め尽くされているほどの長い髪。
男は両手に大型のナイフ、さらに両方の腰のポーチにはさらにもう一本ずつのナイフがあるのに対し、魔女は何も持っていなかった。
男は一瞬にして魔女との距離を詰め、ナイフで切り裂いた。
しかし、ナイフの刃は女の右腕で止められていた。ダメージが入っている様子ではない。
刃が通らないほどの体表の硬質化。女とは思えないほどの筋力。さすがは五万年生きた魔女だ。
「くっ!」
魔女はフリーな左腕で男の腹を殴るが、男はそれを避けて、逆に攻撃を加えた。
先ほどとは違って、手応えはある。
「俺の方が速い。そして貴様の硬質化には隙がある。その隙をつけば、内臓にダメージがあるようだな」
魔女は一旦距離をとる。このまま近くにいたのではまずいと思ったのだろう。
「…貴様。俺のナイフを持ったからといって、対等になったつもりか」
魔女の手には、男がポーチに入れていたナイフが握られていた。距離を置くときにとったのだろう。
「貴様の動きは既に見切っている。おとなしく不老不死の宝玉をよこせ。貴様の攻撃は当たらない。さもなくば、長く苦しみ続けることになるぞ」
圧倒的な実力差。いくら相手が不老不死でも、男はこのまま、魔女を倒せる自信があった。
相手の攻撃は当たらないが、自分の攻撃は通じる。
魔女に勝ち目などない。
「あはは」
しかし、魔女はこの状況で、笑った。
「何がおかしい」
「いやあ、願いが叶ったと思うと嬉しくって、さ」
そう言いながら魔女は長い髪を手で後ろに簡単にまとめ、男から奪ったナイフでバッサリと切った。
「?」
突然の断髪に男は疑問を感じたが、その疑問はすぐに別のもので上書きされた。
男は後ろ髪を切るところは目視できた。しかし、次の瞬間には前も横も整い、綺麗なショートヘアになっていた。
一体、いつ切った?
「あ、それ、返すね」
そう言って魔女は、奪ったナイフを男の足元近くに投げた。
「あなたみたいな強い人を探してた! 私の本気を引き出せる人!」
ぱあっと表情を明るくして魔女は言う。
「髪は願掛け! 待ちすぎて五万キロも伸びちゃったよ!」
しかしそこで魔女は腕組みをし、
「あ、まだか。引き出してくれそうな人?」
と言った。
その隙を男は逃さない。
願掛けだか五万キロだが知らないが、速く決着をつけよう、否、つけなければいけない。そう思った。
「うん、まだだね」
「っ!?」
魔女はいつのまにか男の背後に回り込み、腰に手を回していた。
何か行動をとらなければと思ったときには、魔女が行動を起こしていた。
男の腰に手を回したまま、思い切り後ろに仰け反る。
ドオンッ!!
頭から地面に叩きつけられた男は上半身が地面に埋まってしまった。
そんな横で、前よりも短くなって前髪をいじりながら、
「髪切ったら速くなるとは思ったけど…まあこんなもんね、重かったし」
そう言った。
速い。速すぎる。自分の何倍、いや、何百倍も速い。
とりあえずこの埋まっている状況をどうにかし、逃げなければいけない。今の自分に勝ち目はない。
そう考えた矢先、男の足は魔女に掴まれ、まるで人参のように引き抜かれ、地面に仰向けになるように置かれた。
逃げようと思ったが、思うように体は動かない。どうやらここまでか。そう思った。
「あなたは私が鍛えて、強くすることにします!」
「……何?」
「願いは叶わなかったけど、あなたを鍛えればきっと叶う気がするの。だからそれまでは宝玉を貸してあげるから、ぜったい、ぜっったいに強くなってね!」
何を馬鹿なことを、と言いかけたが、魔女は練習メニュー考えないとなあと、楽しそうに思考を巡らせていて、話を聞いてくれそうになかった。
しかし考えてみると、悪くない。宝玉で延命して、そのまま魔女より強くなればいいのだ。負けたままではいられない。
「せいぜい悠長に構えていろ、魔女め」
男は小さくそう言った。
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