五月はメランコリック
あー、うぜぇ。
車中を見渡せばみんな下向いてスマホばっか、覗いてやがる。
あー、だりぃ。
何だかやる気がまったくでねぇ。
窓の外を流れるいつもと変わらない景色を眺める。
この町でいい事は海が近い事だな・・・
ああ、今日は部活をサボったからまだ明るい。
「よっ!ナギ!」
目の前にはクラスメートでクラブ仲間でダチな宮園が立っていた。
「ああ・・・ゾノか?何?お前もサボり?」
「部長泣いちゃうよねぇ?やる気満々な二年生、いきなり二人もサボりってな?なになに?まだひきずってんの?」
宮園は俺の横に座ると肘で俺を突く。
「っせいよ。たまには早く帰ってやることあんだよ」
「へー、サボりの理由はゲーム三昧ですか?」
「ああ。来る?」
「たまにそれもいいけど・・・?そうだな?海で黄昏ねぇ?」
「やだね。まださぶい。帰る」
「アイス、おごったる」
「おおッ!ゾノ様!お供致します~」
「何だよ?調子良くねぇ?まぁ、俺も食いたいし」
「「さぁっぶい!!」」
天気はいいが平日、それもゴールデンウィーク明けの夕方の浜辺、高校生の男二人でソフトクリームデートって・・・
「マジ、さぁっぶい!けど、マジ、旨い。何、これ?」
「うどんアイス!うどん愛す!ネギ乗ってるの微妙~」
「インパクト大!マジご当地!マジ生姜味で醤油でうどんソフト~」
「シラス愛すがよかった?」
「それ、今度、チャレンジするわ~、って、風、ほんと、きつッ!」
「マジ、男と食ってもなんも楽しくね~」
「何だよ?ゾノが食いたいって言うから・・・ああ、まぁ、ありがとな・・・寒いけど」
「お前いないとさ?なんか練習なんないし?やる気でねぇし?フフッ」
「まぁ・・・?俺もたまには情緒不安定なわけで・・・悪かったよ」
「たまじゃないし!ここ、一週間、毎日毎日ため息、はぁ~あああああ!ってうざいんですけどっ!マジうざ!いい加減さぁ?お前佐久間に謝ったら?」
「あー、うぜぇ。だりぃ。耳、いってぇ~!」
「うざいのはお前だって言ってんだろ!ナギ。さっさと謝んな。今度はちゃんとやる前に断りますって言えよ?・・・・まぁ、許してはくれないなぁ、君の佐久間ちゃんは。スッゲ真面目だもんな?なんでお前みたいなチャラ男とくっついたんだか・・・・」
「はぁ?誰がチャラ男だ?俺は咲、一筋だ。って?ん?どこまで知ってるんだ?お前?俺、お前に咲との喧嘩の原因言ったっけ?」
「ん?俺の真奈ちゃんから聞いた。渚君、野獣~、咲楽泣いてたッ!て言われましたけど?」
「・・・・帰るわ」
「帰んなよ?何だよ?真剣、好きなんだろう?佐久間の事。ならちゃんと、始める前にキスしていい?」
「お前とは、ヤダ」
「ちげーッ!俺もお前とやる趣味ねぇよ!?佐久間に!そう!断れよ!?お前!」
「咲は真面目なの。わかんだろ?だからそんな事いったら絶対やらせてくれないの。そんなに簡単に行かないの!だからこうなったんだろ!お前どうなの?お前の真奈ちゃん、そう言うのどうなの?」
「お前と違って俺は日頃から愛してるよって言葉をちゃんと伝えてる」
「お、お前やるなぁ、熟練夫婦みたいだな?スゴー」
「引くなよ?言わなきゃ伝わんないだろ?それにそう言うとちゃんとキスで返してくれるけど?」
「ますます新婚さんいらっしゃ~いだな?お前ら。恥ずかしげもなくそんな事」
「お前、ハズくてそう言うのちゃんと言わないから、佐久間わかんないんだろ?それでなくてもお前に遊ばれてんじゃないかって思ってるみたいだぞ?」
「はぁ?何で?何でそうなんだよ?俺、真剣だよ?咲の事しか頭にないし」
「だから、そう言うの俺に言うなよ?佐久間に言えよ?お前、他の女子には軽いし優しいのに何で佐久間にはそうなんだよ?」
「咲にはその・・・なんだ、その・・・ああ!!緊張するんだよ!!その・・・かわ」
「ああッ!!もう、俺に言うなって!お前の方がハズいわ!ほんと、どこがいいんだかねぇ?背はちっこいし、大きな黒縁メガネッ子だし。お前、もっとデカいお姉さま的な女の方があってるんじゃないか?ああ、1組の佐々木、お前の元カノ、何かヨリ、戻したいみたいだけど?」
「ヨリ?なんだ?それ?佐々木とはグループでユニバ行っただけだし」
「へぇー?遊びに一回行っただけの人とキスしちゃうんですか?ナギは?」
「え?違うし。勝手にあいつがしてきただけだし」
「ふーん?あっちは佐久間に渚君、返してとか言ってるらしいけど?」
「はぁ?誰が?」
「佐々木が」
「誰に?」
「お前の佐久間に」
「はぁー???わけわかんねぇ?いつの話?」
「お前がキス迫って佐久間押し倒して、殴られた2,3日前の話」
「はぁ???何でそんな事ザキ、知ってんの?・・・あ、真奈ちゃん?」
「俺の真奈をちゃんづけで呼ぶな。何かお前が言うと危機感に迫られるわ」
「意味わかんねぇ、お前も、佐々木も」
「お前、ほんっとっ!!自覚ないよな?男の俺が言うのも腹立つけど、お前、かなり、ジャニーズだし。背、185だし。顔、めっさ、さっぱり、塩だし。そのサラサラ髪も腹立つし、それで何でそんなに足長いかなぁ?それにアホなら許してやったものをふつーに、頭いいしな、お前。女子、ほっとく訳ないだろ?」
「俺みたいな奴、世間にはゴロゴロいるし、ニキビあるし」
「ああ!言ってみてぇ!そのセリフ!俺、言ってみてぇ!いないから!渚君、レベル高いから!って口そろえてクラス女子のやつら絶対言うわ!腹立つ~!!」
「・・・・・・・・・・咲に言われたい」
「死ね!もう、佐久間に言われて死んでしまえ!お前なんか!」
「話、戻るけど、咲、佐々木にいじめられたって俺のせい?」
「そう、そう。だから、私、やっぱり遊ばれたんだって泣いてたらしい」
「なんで?どうしてそうなんの?・・・俺、謝って来るわ。って、ん?」
「どうした?」
「あ、メール」
「誰から?」
「咲」
「なんて?」
「『ごめんなさい。今、どこですか?会いたい』って・・・俺も・・・会いたい・・・」
「いや、お前らさっきまで教室で一緒だっただろ?」
「口聞いてないし」
「いや、2人、今日、日直だったし」
「だーかーら?日直の連絡事項だけ、事務的に伝えただけだし、あ、ここ、来るって」
「じゃ、帰るわ」
「帰んなよ?てか、真奈ちゃん、呼んでよ?」
「真奈、部活じゃん、って、うわぁっ・・・・」
「ん?ってなんであいつら?」
「渚君、久しぶり。あら宮園君も」
「って、偶然?かな?佐々木さん、それと山田さんに前橋さん」
「なに?俺に何か用?」
「以外、宮園君、私達知ってるんだ?」
「まぁね?で、こいつ、今、彼女と待ち合わせだから」
「あら?佐久間さんならさっきすれ違ったわよ?泣いてたみたい?」
「え?あ・・・・ゾノ、ごめん!」
「待って、渚君、話が!」
「ないよ!俺は!じゃ!」
「っておいっ!ナギ!しっかり、フォローしてけ!だから揉めんだろ!って、佐々木さん」
「待って!!渚君!」
「「待ちなさいよ!渚君!!」」
「佐々木さん、山田さん、前橋さん。佐久間苛めた?」
「え?・・・・あっ・・」
「ちょっと、なに言って」
「なによ?別に付き合ってないんでしょう?佐久間と渚」
「それに宮園君、関係ないでしょう?」
「関係なくないでしょう?俺、渚の親友。俺の彼女、渚の彼女のダチ。おわかり?」
「へ~、知らなかったわ?でも別れたんでしょう?そのあなたの彼女のお友達、渚君と?」
「本人あの通りなのにそれ聞く?ハイハイ、お開きお開き。じゃ!」
「ちょっと!」
「え、なに?どうすんのよ?帰っちゃうわよ!?二人共!」
「どうもしないわよ。アホクサ!!アイス食べたいわ!」
「「え、また、しらす愛ス?」」
「ちょっと!」
「!」
「何で逃げんの?」
後ろから手首をつかんだ俺に咲は振り向きもしない。
「あ、ああ、渚君、偶然ね?」
「って、それ、無理あんだろ?メールくれたじゃん?」
「あ、あれは勝手に佐々木さんが私の携帯で」
「え、あ、そうなんだ?けど、ちょ、いいから顔、見してみ?」
「ヤダ、離して」
「あ、悪い、咲。それにこの間のことも俺が悪かったよ?今度からちゃんとその・・・気を付けるよ。その、お前が怖がらない様に」
「ちがっ、そうじゃない!そうじゃないの・・・」
「えっ?」
「嫌なの、佐々木さんと比べられるの・・・」
「何が?」
「何って・・・その、キスとか、その・・・」
「していいの?」
俺は咲の前に回り込む。
するとちょっと焦った顔の咲が背の高い俺を見上げた。
「えっ、だから」
「いや、比べられんのが嫌なだけで俺が嫌な訳じゃないよね?」
「えっ、比べるでしょ?でも」
「向こうから勝手にしてきたのと俺が咲としたいからするキスは比べられないでしょ?」
「え、佐々木さん、元カノだよね?」
「え、俺、そんな事いった?違うし。全然違うし」
するとまた咲は下を向く。
「みんなが・・佐久間じゃあ、渚君には合わないって」
「誰が?」
「みんなよ、みんな」
「真奈ちゃんいった?」
「真奈は友達だから」
「宮園?」
「そんな事、宮園君は言わないわ」
「じゃあ、何、気にしてるの?俺はその二人が達でその二人には咲の事、付き合ってるって言ってる」
「・・・でも、渚君は貴女なんかのどこがいいのって。ただ、ただ、その・・・胸がデカいだけのチビメガネブスだって・・」
「佐々木?言ったの佐々木?」
「え・・・いや、あの」
「佐々木の野郎、よくも俺の咲に!許せん!文句言って来てやる。咲はスッゴくかわいいんだよ?ちっこいのがかわいいんだよ。それにそのメガネも俺は好きなんだよ。あ~ッ!今から言って来てやる!」
俺は佐々木の元に引き返そうとした。
そしたらいきなり、咲が抱き付いてきた。
「いい、いい、凄くわかったから。恥ずかしいから止めて・・・渚君」
「いや、絞めてくる。二度と咲に手出しさせない」
「いい、いい、から、わかったから」
さらにギュッと抱きつかれた。
ちょっと、俺もいい匂いと柔らかい感触にクラクラしてギュッとしてしまった。
「咲」
「・・・」
「メガネ、くもるぞ?」
「あ!」
って顔上げたら本当にくもってたから俺が外した。
「ヤダ、渚君、見えない」
「見えない?え、見えない?」
「もう!私、視力悪いの知ってるクセに返して!」
「こうしたら見える?」
俺は屈んで咲の顔を覗きこんだ。
メガネの咲も好みだが、外した咲は凄くかわいいから俺だけのものだ。
「あ、ニキビ、渚君、額に」
「咲も」
「え、うそっ」
って目を見開いた顔が更に可愛くて俺は素早くキスをした。
「!」
逃げようとする咲を抱き込みもう一度キスをすると俺の腕の中で咲は大人しくなった。
「咲、大好きだよ」
「・・・私も好きだよ?大好き、渚君。だけど」
俺は嬉しくてもう一度咲を抱き締めた。
「もう、恥ずかしいから!それに見えない、メガネ返して!」
「本当、人前でよくやるわ」
「「えっ!!」」
声がした方を振り向くと俺達の背後の海に沈む夕日を見ている人達が何人もいた。
「ここ、この浜辺の夕日絶景スポット」
ニヤリと笑った宮園もそこにいた。
お付き合い下さりありがとうございました!