プロローグ
やっと投稿出来る!嬉しい!
しばしの間お付き合い願います!
…プルルル。プルルルル。
電話がなる。テレビのリモコンを探す。
「……代目警視総監に山中和樹氏が……れて約3ヶ月が経ち……ボット規制法案に対し………」プチッ。
テレビをささっと消す。そして…
「もしもし?」
今日1日その電話を待ち続けていた男はさも期待していなかったかのような声で電話に出た。
電話に表示されている名前は[遠藤 沙耶]。
男との関係は幼馴染である。
「もしもし、タッちゃん?今大丈夫?」
その男の名前は[本多 龍也]。沙耶にはタッちゃんと呼ばれている。
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「今年も初詣行こうよ」
「いいよ。じゃあ11時半に迎えに行くよ」
「分かった。待ってるね」
電話を切り素早くコートを羽織る。ニコニコしながら鏡と2分程にらめっこして家を出た。
外はとても寒かった。雪は降っていないが風は強く、耳に痛みを感じさせていた。
空を見ると月がじっとこちらを見つめていた。
(今年ももう終わりなのかぁ…)
今年も告白出来なかった。付き合いたいなぁ。
「沙耶…好きだぁ!」
とりあえず叫んでみる。声は静かに周りに響き渡る。
誰にも届くことのないその音は少し反響したのち暗闇へと吸い込まれていった。
そしてトボトボと歩き出す。
何年も一緒にいてもう異性として見られていないのではないか。そんな気がして関係が崩れるのが怖くて伝えられないのだ。
「はぁ…」とため息をつく。
そして頑張ろうと気持ちを入れ直すとお茶を買いにコンビニへ行く。会話のタネのためには出費を辞さない龍也だった。
2人分の暖かいお茶を買った達也は笑顔で沙耶の家へと歩を進めていった。
彼女はこれを毎年これを笑顔で受け取ってくれる。
龍也はその笑顔がとても好きなのだ。
しばらく歩くと沙耶の家につく。
そそくさと携帯を出し自分の髪型を確かめる。
そして首を伸ばして沙耶の部屋あたりを眺める。
こっちを見てくれたら手を振ろう。そう思っているのだが、叶った事はない。
11時半ちょうどまで粘ろう…そう思っていた。
「…ピンポンも押さず私の部屋眺めてニヤニヤしてどうしたの?」
と、聞き慣れた声が後ろからして龍也は飛び上がった。
「サ、サヤ⁉︎び、びっくりさせるなよ!てかニヤニヤなんかしてねーし」
「ふーん……。まぁいいや。少し早いけど行こっか!」
沙耶はクスクスと笑い、先を歩き始める。その後ろを達也が待ってくれよと小走りでついていく。
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俺と沙耶はかれこれ10年以上の付き合いである。
初めての出会いも初詣だった。10年前の今日である。親同士は知り合いだったのか挨拶をしていた。
その時沙耶と出会った。可愛い子だなと見れないでいると、沙耶はお母さんに何かを聞くと、お母さんは鞄から何かを取り出し渡していた。
なんだろうと思っていると、俺の前に走ってきて
「タツヤ君これあげる」
と言って何かを手渡してきた。そしてお母さんの後ろにささっと隠れた。
ありがとうと言って手の中の物を見ると消しゴムくらいの大きさのウサギのぬいぐるみだった。頭には紐がついている。
そのウサギのアクセサリーは10年間俺の財布にくっついている。修理を頼むと次の日には直って帰ってくる。もう5.6回は直してもらった。
そしていつのまにか友達となり親友とも言える付き合いとなった。
近所だったというのもあって俺達がの仲はどんどんと良くなっていった。
だが俺達はそれ以上関係を詰めることは無かった。
俺が根性無しであるというのは一つの理由でしかない。
俺達は今の関係に満足していた。
学生であるうちは年の離れた相手と顔を合わす機会も早々ない。そして、周りの友達にも2人の仲は理解されている。
要するに今は警戒するものはない。
男同士だけだと意外と平和だったりする。
遠藤沙耶は魅力的な女性であった。
小さい頃はとても可愛い女の子だったのが年々大人に近づくにつれ美しさが増してきた。
また、運動神経は良く体育の授業でその能力を存分に活かしていた。
勉学については並ではあったがそれは学問においてはだということは達也は理解していた。
性格についても、申し分ない。
龍也は自分と釣り合わないのではないかと少しずつ思い始めていた。それが告白出来ない理由でもあった。
実際過去に沙耶は何人かから告白されている。
勿論沙耶は丁重にお断りしていたが達也はその度に心を削られていたのであった。
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普段静かで趣のある神社が正月を前に屋台の赤や黄の光によって幻想的に彩られる。
「今年も終わっちゃうね」
「早かったな」
「そう?私は長かったけどなぁ。」
「来年はいい年になるといいな」
「だねー」
と当たり障りの無い会話をしたりして初詣の参拝の行列に並び二人はあったかいお茶で手を温めていた。
「ねぇ。私手かじかんじゃって…開けてくれない?」
「ごめん実は俺もそうでさ」
ハハハと達也は笑う。いつもなら達也が笑うと沙耶も少し遅れて笑顔になるのだが今は違ったようだった。
一瞬だけ半目になったように見えそれがなぜか達也には役立たずって言われたような錯覚に陥った。
「……やっぱり俺が開けてやるよ。貸してみ」
「ホント?じゃあお願い!あ、タッちゃんの持っとくよ。」
なんか嬉しそうだった。これは意地でも開けるしかない。そう思ってキャップを捻る。するとすんなりと開ける事が出来た。ドヤ顔で沙耶にお茶を渡す。
「ほらよ。感謝するんだな」
「ありがとう タッちゃん!」
感謝の言葉と同時に自分のお茶も受け取る。
少しは見直してくれたかな。なんて思い、自分のお茶のキャップを捻る。すんなりと開く。今までの抵抗はなんだったんだとお茶に思ったところでハッと沙耶の顔を見た。
満面の笑みだった。
<ゴーン…ゴーン>
鐘が鳴り響く。だが心臓の音の方が大きい気がした。
一定の間隔で鳴り続ける心臓の音に心が呑まれていく
「タッちゃん?」
列がどんどん短くなってゆく。一歩一歩。何も考えられない。心臓の音だけが聞こえる。
「…ねぇ?ねぇねぇ?大丈夫?」
鐘の音に意識がゆく。
鐘の音は実はゴーンではなくボヨーンなのではないかとふと思った。
どれくらい時間が経ったのだろうか気づけば天使が顔を覗きこんでいた。
「ふわぁ!?」
「…なんて声出してるの。……大丈夫?頭フラフラする?」
ブンブンブンブンと顔を横に振る。
左手が暖かい。少し力をいれると優しい感触がする。
沙耶の右手だ。どうやら参拝を中断して人の少ないところに誘導してくれたみたいだ。もう一度手に力を入れる。すると握り返してきた。何回か繰り返しているとなんだか落ち着いてきた。
「ごめん。」
「いいよ。私もごめんね。ちょっといたずらしただけのつもりだったんだけどね」
ペロッと舌を出す。可愛い。
「なぁ、ちょっと見て回ろうぜ」
「私わたあめ食べたい!あ、あとでお参りはしようね」
りんご飴やフランクフルト、射的。それを買う人や楽しんでいる人を見ながら笑いあった。
いつの間にか人は減り、さっきまで聞こえていた笑い声が嘘のように消えている。
ポツリと言葉が流れ落ちる。
「…好きだ」
「うん」
返事は返ってきた。
ただ一言。そして互いに次の一言を待っている
なぜか気持ちは落ちついていた。
「付き合ってください」
「…はい」
10年。この一言を紡ぎ出すためにかかった時間だ。
この時間は長いのか短いのか…
2人は言葉もなく歩き行く。繋いでいた手をそっと離し左手を清め、右手、口と清め、左手をまた清める。
そしてゆっくりと階段を登り拝殿へと向かう。お賽銭を入れ、手を合わせる。
願い事は自然と浮かんできた。
≪沙耶と結婚し、幸せに暮らせますように≫
これ以上の願いは無い。ちょっと願い過ぎかもしれない。心が少し熱くなる。
目をそっと開け横を見る。沙耶もこちらを見る。
周りに人の気配は無い。まるで世界に2人しかいないかのようだ…
沙耶に手を差し伸べる。するとそっと手を合わせてくれる。
ちょっといたずら心が芽生えた。
沙耶の手を引っ張り体を抱き寄せる。
驚いたように目を見開く沙耶。
俺は意趣返しだとばかりにニヤリと笑い、
そっと口づけをした。