中編 ~ドリアン、潜入~
† O N I G A S H I M A †
「なんだ今の演出」
ドリアン達はコッソリと上陸すると、まずは島の様子を探ります。
入り口と思われる大きな門に、鬼の姿はありません。そこから少し視線を上げると、島のあちこちにドリアンの木が生えているのが分かります。
「D24ドリアン太郎さん、私が門の裏へ回って、閂をはずして参ります」
雉が提案しましたが、ドリアン男がそれを一蹴します。
「いらんいらん! ほれ、そこに生えているドリアンの木を登って入るぞ。こんなデッカイ門開けるよりかはバレにくいだろ」
「ドリ太郎さん猿みたいっすね」
島の内部へ潜入したドリアンズ。鬼の気配はまだありません。
「留守ですかね……?」
「だったらさっさと火ィ着けて帰ろうぜ」
「ドリ太郎さん発想が悪魔みたいっすね……アッ!?」
建物の中を探索中、一つの大部屋を覗いた猿が驚きの声を上げました。
「ドリ太郎さん! アイツら宴会なんかしてやがりますよっ!」
「なにッ! 人が苦労して来てやったのに呑気に酒盛りだとォ!?」
扉の中では角の生えた鬼達が、飲めや歌えやドンチャン騒ぎ。誰も彼も酔っぱらって大暴れしています。
「ん? 今何か声が聞こえなかったかぁ?」
おやおや。うっかり大声を出したドリアンのせいで、鬼達に気付かれてしまったようです。どう責任をとるつもりなのでしょうか。
「ヤッベ……こっち来るぞオイ!」
「アンタのせいでしょ! 何やってんすかクソ太郎さん!」
「どうしますかドドリアさん!?」
瞬時に警戒モードへ切り替わった数十人の鬼達が、じわじわと扉へ近寄ってきます。D24ドリアン太郎、大ピンチ!
「待てよ、酒……? そうだ!」
と、なにやら良い策が浮かんだようです。
「うらぁっ! 地獄に還れこの変態半裸族共!」
「むっ!?」
太郎は隠れていた場所から飛び出すと、鬼に向かってドリだんごを投げつけました。
投げられただんごは、どれも抜群のコントロールで鬼の口へと一直線。鬼達はスポポンと飲み込んでしまいました。
「いくらドリだんごでも無理っすよ! 相手は鬼なんすよ!?」
「あんな美味しいものを食べさせては、むしろ敵を元気にしてしまいます!」
しかし、ドリ男は動じません。
「うっ……これは!? グワアアァッ!」
「キエエエェッ!」
「ぐっ……オエエエエ!」
どうしたのでしょうか。ドリだんごを食べた鬼達が突然苦しみだしたかと思うと、すぐにバタバタと倒れていくではありませんか。
「なんッ……これは!? ドリ太郎さん!」
「一体何が……皆死んでいます!」
困惑する二匹のお供に、ドリ太がドヤ顔で語り始めます。
「知らなかったのか? ドリアンと『アルコール』……この食べ合わせは御法度なんだ。なんかよく分からんけど危ないらしいぞ。子供の時からしつこく婆さんに聞かされてたのが役に立ったぜ」
ドリアンとお酒の同時摂取は死の危険がある――これは現実に東南アジアで古くから信じられている話です。
しかし実際のところ、それが直接死亡に繋がるという科学的な根拠は確認されておらず、現在では迷信であるとされています。
ただし死亡には至らずとも、体の不調を訴えるケースは少なからず存在します。迷信とは、得てしてそれが生まれた理由があるものです。触らぬ神に祟りなし、皆さんもドリアンとお酒の食べ合わせには十分注意しましょうね。
「ドリ太郎さん、ナレーションが迷信だって言ってますけど」
「知らねぇよ、全員体調でも悪かったんだろ」
そんなこんなで鬼を退治したD24ドリアン太郎。しかし、まだ戦いは終わっていませんでした。
「宝物庫~はど~こっかな~っとぉ!」
「盗賊みたいっすね」
「ドリアン太郎さん、まだ鬼がいるかも――ッ!?」
突然、雉がいた場所を何かが掠めます。雉は咄嗟に身を捩り回避しましたが、その首もとには一筋の赤い線。
(一瞬……! 遅ければ……首を刎ねられていたッ!?)
「き、雉ィッ!」
「何で急にガチバトル始めてんの!?」
雉は襲撃者の方向を警戒しつつ、翔んできた物体を見やります。
(あれは……やはりドリアン! この島には沢山のドリアンが生えていた……鬼の長もうちのアレと同じく、ドリアンにただならぬ執着を持っているのでしょうか……)
「出て来てください、不意打ちに二度目はありませんよ」
ドリアン達の間に走るかつて無い緊張。
雉の言葉に応えるように、廊下の曲がり角に手が掛けられます。
「あれを避けるか……良い反応だな、鳥」
地を裂くような声が沈黙を破った僅かな後。ついにこの島の主が、一行の前に姿を現したのです。
「ちなみに私はタレ派だ」
身の丈2メートルを優に超す巨体。王の風格すら感じる立派な角。そして、仄かに香る悪臭。
「生憎ドリアンの匂いには馴染みがありましてね……お陰で一瞬早く気付くことが出来ました。あなたは……ここの主でお間違いありませんね?」
「フンッ……面白い。如何にも、私がここ鬼ヶ島の主だ」
「雉さんカッケェ! 主人公みたいっすね!」
「おい猿! お前の主人は俺だぞコラ!」
その時、猿を一瞥した鬼のボスが、不機嫌そうに口を歪めました。
「ガヤはいらぬわ」
「なっ……グェッ!?」
おやおや。鬼が右手を上げた瞬間、猿はすってんころりん。頭に星を浮かべ、すっかりのびてしまいました。
「猿さんッ!」
「なんか表現が露骨にマイルドになってる! 童話だから!?」
その隙を見逃すほど鬼もお人好しではありません。一瞬で距離を詰めたかと思うと、手に持ったドリアンで雉に斬りかかります。
(このドリアン……掠めただけで羽がッ! なんて硬度!)
「フハハハ! ドリアンの外皮は切るときにタオルを敷かないとテーブルに傷が付くほど硬いのだ! せいぜい注意するんだなっ!」
雉も反撃を試みますが、ドリアンの厚い皮に阻まれて届きません。
「くっ……ここですっ!」
「残念、フェイクだ」
(しまっ……!?)
雉は一瞬の隙を突こうとしましたが、どうやら鬼の罠だったようです。お腹にドリアンを受けた雉は目を回してしまいました。
「……さて」
「いやホントスミマセン違うんですよ、そこの二匹はなんか勝手にイキって鬼ヶ島乗り込もうぜとか何とか言い出したんですけど俺はホント違くて、ただの平民ドリアンなんですホント俺はガチで止めたんですけどアイツら聞かなくて」
愛想笑いで乗りきろうとするドリアン太郎。しかし彼に返ってきた言葉は、意外なものでした。
「貴様も……ドリアンから産まれたのか?」
~ドリアンこぼれ話~
余り一般的ではありませんが、ドリアンの種は焼くか茹でることで食べられるようです。