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08 アデリーヌ、きれる

 大きな声で拒絶の言葉を口にしたら、私の頬に触れていたロランの指が、ピクッと動いた。

 もしかしてロランの心に、少しは響いている?

 普段はどんなに拒絶しても全然通じないから、手応えを感じられてうれしい。

 このまま畳み掛けるしかない。

 なにか、なんでもいいからロランの心に突き刺さって、彼の目を覚まさせる言葉をぶつけなくては!


「監禁なんてする人、私、大嫌い」

「……!?」


 ロランの目を見つめて、きっぱりと言う。

 それからあとはひたすらに淡々と、彼の『ないわ』という部分を上げ連ねていった。


「ちょっと顔がいいからって、ちょっと王子様だからって、何しても許されると思っているところが最低よ。既成事実? 何言ってるの。そもそも、こんな場所で?」


「い、いや違うよ!? まさかここで最後までしようなんて――……」


「最後とか言わないでください」


「あ、はい。ごめんなさい」


「あなただって、貴族の娘が結婚前にそんな行為を行ったら、どんな扱いを受けるかぐらい知ってるはずよね。なのに平然と求めてくる。それって結局、あなたは自分の欲で頭がいっぱいで、私の人生なんてどうでもいいってことなのよ」


「違うよ、アデリーヌ! 僕は君の人生を、バラ色の幸せで満たしたいんだ!」


「そう思い込んでいるだけよ。あなたは私を愛してなんかいない。大切にもしていない。恋してるつもりになって、そのことに酔うのはもうやめて。私を巻き込まないで。迷惑でしかないから」


「……っ」


 慌てふためいて、言い返してきていたロランだったけれど、ようやく黙り込んでくれた。

 呆然とした顔で、瞬きを繰り返している彼は無表情で、何を考えているかわかりづらい。

 でも、まあきっと、落ち込んでいるのだろう。

 大切に育てられたであろう王子様。

 他者から全否定されることになんて慣れていないのかも。


 正直私だってこんなふうに、誰かを容赦なく糾弾したことなどない。

 心の奥がじくじく痛む。

 傷、つけたよね……。

 ロランは変態監禁魔だけれど、それでもさすがに言い過ぎたかな……。

 ……いやいや、だめだめ。

 同情してはだめ。

 この身勝手な変態に、つけいる隙を与えることになりかねない。


「ロラン、私が言いたいことは伝わったでしょう? わかったら、いますぐ解放して」


 彼の決断を促すために、声をかける。

 ロランは自分の胸に手を当ててから、悩ましげなため息を吐いた。


「ハァ……。心に響きすぎて、言葉がすぐには出てこなかったよ……」


 あれ……!?

 なんでこの男、頬を赤く染めているの!?

 予想外の反応が返ってきて、ゾッとする。

 なんだか雲行きが怪しい。


「心臓がすごくドキドキしている。君は恋じゃないというけれど、恋じゃなかったら、どうしてこんなふうになるのかな?」


「病気じゃない!?」


 思わずやけくその返答をしてしまった。

 ロランはふふっと笑って、にっこりと微笑みを浮かべた。


「そうだね。病気だ。恋の病。永遠に治ることのない不治の病を、君が僕にかけたんだ」


 こっちは胸を痛めながら、必死の思いで文句を言ったというのに。

 この反応……。

 絶望しかない。

 なんなの……。

 なんでこの男、こんなに打たれ強いの……。


「さっきの私の話、ちゃんと理解している……? 右から左に聞き流していたんでしょう……」


「まさか。全部しっかりちゃんと聞いていたよ。冷静に僕を糾弾する君、すごく素敵だった。淡々と利詰めにしてくるところなんて、とても色っぽかった」


「……」


「でも僕が相手だからいいけれど、この状況で監禁してる犯人を責めるのは、あんまり良くないよ。逆上してひどいことされたらどうするの?」


「……」


「アデリーヌ?」


黙り込んだ私の顔を、ロランが覗き込んでくる。


「僕と結婚する意思が固まった?」


「いえ、しません……」


「そっか。それじゃあ僕とアデリーヌで根競べだね。この部屋でふたりきりでいると、本当に良からぬことをしでかしそうだから、僕は外にいるね。気が変わったらいつでも呼んでくれ」


 ひらひらと手を振って、ロランが部屋の外に姿を消す。

 万事休す……。

 どうしよう……。

 私、このいかれた男に監禁されたままなの……?

監禁部分が予定より長くなってしまいました……! 次で一応解決? します。

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